11.独白
停電、虫の羽音、軋む建物、怒号。
苛立ち、戸惑い、右往左往する警察官たち。
「ポキョー」
天井の換気口で2つの丸い目が光る。
「皆さんは、私たちを障害者だと思っています」
暗闇で明滅する赤い非常灯が、タヌキの丸い輪郭を浮かび上がらせる。
「定められた型どおりに発達しなかった、脳にエラーを抱えた不幸な者達だと」
タヌキは誰に言うでもなく、虚空に向かってつぶやき続ける。
「ですが、人類がまだ定住していなかった頃、好奇心旺盛に未知の土地へ向かったのは誰だったのでしょう」
背負っていた袋を逆さにした。
「恐れを知らずに森へ入り、海を渡り、山を越え、世界の様々な現象に興味を持ち、新天地や新技術を切り開いたのは誰だったのでしょう」
無数のオオムカデが床へ散る。
「少なくとも、皆さんのように規則正しく畑を耕す者たちではありませんでした」
タヌキは床を走る虫たちを見つめながら続けた。
「私たちは元々、障害者ではなかったのです」
場所を移動し、別の袋を逆さにする。
「皆さんが正常だったわけでもありません」
アオカミキリモドキが壁を這い回る。
「皆さんは定住し、群れを作り、ルールを作りました」
場所を移動し、袋を開ける。
「そして、自分たちと違う人間を追い出しました」
黒い塊が転がる。
「『変人』『空気が読めない』『普通じゃない』そうやって千年以上もかけて居場所を奪い続けた」
クロスズメバチが一斉に空中へ飛び出す。
「その結果、生き残った人数を見て
『少数派だ』『支援しなきゃ』『療育してあげよう』
そう言っているだけではありませんか?」
建物の壁が軋む。
「皆さんは私たちを見て、多様性を理解し尊重する事を考えようとします」
タヌキは静かに首を傾げた。
「ですが私には違って見えます」
上を向き、匂いを嗅ぐ。
「『障害者に理解ある優しい自分』に酔っているように見えるのです」
二つの丸い光が闇へ消えた。




