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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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正道を捨て、闇に潜る

(やはり裏で糸を引いていたのはジークハルトか)


ノクスの兄ジークハルトは、現在、王都の有力貴族ロクセーヌ伯爵家の養子となっている。

庶子のジークハルトが伯爵家に養子として迎え入れられることは、通常ではあり得ない異例の事態だ。


その背後には、何らかの密約が存在したと考えるのが妥当だった。


なぜなら、アルヴェイン家の没落から最大の利益を得たのはロクセーヌ家なのだ。

ロクセーヌ家はアルヴェイン家没落後、その旧領地をほぼ完全に掌握し、王都における影響力を著しく強めていた。


恐らくロクセーヌ伯爵は、ジークハルトにこう持ちかけたのだろう。


『アルヴェイン家を裏切り、ロクセーヌ家に忠誠を誓うなら、後継ぎのいない我が伯爵家の養子としてやろう』


とにかく、兄ジークハルトがロクセーヌ家と結託し、アルヴェイン家を陥れたことは、ほぼ間違いない。


(俺は過去のループで、何度もその証拠を掴もうとした。裏帳簿、偽造された契約書の写し、密談の現場。あらゆる手を尽くしたが、必ず妨害に遭い、決定的な手がかりは入手できずにきた)


ロクセーヌ家は王都でも有数の伯爵家だが、特に注目すべきはその特異な権限だ。


かつて王都を襲った大飢饉の際、ロクセーヌ家は市場の流通統制を担い、混乱の収拾に尽力した。

そして、その功績により、現在でも王都中央交易管理委員会の上層部を事実上独占している。


ようするに、ロクセーヌ家は、市場全体に暗黙の圧力をかけられる立場にあるわけだ。

物資の流通経路、関所での検閲、王都内での取引許可――これらすべてがロクセーヌ家の意のままとなっている。


「兄のいるロクセーヌ家と繋がりのある商人からは何も買えない。つまり、この市場は見込みなしということか」

「そうなりますね……」


リリィは落胆した様子で頷いた。


ループしてきた人生を振り返ってみると、アルヴェイン家は常に深刻な食糧不足に悩まされていた。

でも、もうあんな思いをリリィにさせたくない。


そう考えるノクスの視線は、薄暗い路地裏へと続く入口に吸い寄せられた。

人気のない石畳の隙間から伸びた雑草が、微かな風にそよいでいる。


その瞬間、一つの閃きが脳裏を駆け抜けた。


グリードとの一件で学んだように、ノクスには、ループを通じて得た記憶と知識がある。

それを利用すればこの窮地を脱せるのではないだろうか。


「リリィ、別のルートから食料を調達してくる。悪いが先に屋敷へ帰ってくれ」

「まさか……ノクス様、【裏通り】に行くおつもりですか……!? そんなこと絶対やめてください……!」


この路地の先にある裏通りは、正規の商人たちが避ける危険地帯として知られていた。

裏通りでは悪意を持った者たちが跋扈し、違法な品々の取引が横行している。

命さえも売り買いされるという噂すら囁かれているほどだ。


それほど危険な場所へ、ノクスが足を向けるなんてありえない。

リリィはそう思ったのだろう。


「心配することはない。グリードとのやり取りを見ただろう? 俺はそこそこ戦えるからな」

「でしたら、せめて、私もご一緒します……!」

「馬鹿を言うな。だめに決まっている」

「ですが……!」

「リリィ、命令だ。一人で戻ってくれ」

「ノクス様……!」

「こっそりついてきたりしたら、解雇するからな」

「……!」


引き留めようとするリリィに背を向け、路地の入口に立つ。

リリィの心配そうな視線が突き刺さるが、彼女を危険に巻き込むわけにはいかなかった。


振り返らずに、黙々と進む。

街の喧騒が遠ざかり、代わりに不吉な静寂が辺りを包み込んでいった。


ノクスは、裏通りの露店を抜けた。

並ぶのは、どれも正規の市場では見られない呪われた商品ばかりだ。


それを横目に、裏通りのさらに奥へと向かう。


雑然とした一角の奥、古びた屋台の前に男が一人、煙草をくゆらせていた。

名はバロッツォ。

裏通りで“なんでも売る男”だ。


四〇代前半のくたびれた人物で、肩にかけた薄汚れた上着は所々が擦り切れ、縫い目から糸がほつれていた。

日に焼けた肌には、無数の細かな傷跡が刻まれている。

油の匂いの染みついた髪は乱雑に束ねられ、その先端は焦げたように変色していた。


ノクスが屋台の前に立ち止まると、バロッツォはゆっくりと首を傾けた。


「おやおや、これはこれは……。名門の血を引く没落貴族様が、こんな薄汚れた場所にどんな御用で?」


嘲笑を隠さずにそう言ってくる。

ノクスは構うことなく、静かに微笑み返してやった。

ノクスの態度があまりにも余裕に満ちていたせいか、バロッツォの軽薄な顔がわずかに強ばる。


「バロッツォ、何でも屋のあんたに依頼したい仕事がある。どうだろう? 報酬は十分に用意してある」

「はんっ! 引き受けるわけがないでしょう。勘弁してくださいよ。表通りの商人たちからも相手にされないような方と取引するなんてありえませんぜ」


想定通りの反応だ。

ノクスは続けた。


「だったら、少し話をさせてもらおう。それを聞いているうちに、きっと気が変わるはずだ。その時は遠慮なく声をかけてくれ」


ノクスは意味深な笑みを浮かべてみせた。

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