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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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義兄への復讐

裏通りが燃えていた。

炎が建物を飲み込み、瓦礫が次々と崩れ落ちる。

爆発の音と悲鳴が混じり、夜の空が真っ赤に染まっていく。


その中で青い光だけが、静かに揺れていた。

ノクスの結界だ。


しかし、当のノクスは結界の外に立っている。

焼け焦げた風を浴びながら、炎の海のただ中に。


結界の中では、震える人々が息を殺して寄り集まっている。


その外側、炎と瓦礫の海の中で、ノクスは化け物と化したジークハルトと対峙していた。


「ノクス、貴様もこれで終わりだああああッッ!!」


咆哮をあげたジークハルトが、高く飛び上がる。

振り下ろされた拳が空気を裂く。

ノクスは結界を維持したまま身をひねり、すれすれで攻撃をかわした。

敵の拳は、ノクスの代わりに地面を殴りつけた。


ドン――!


衝撃で石畳がめくれ上がり、瓦礫が弾け飛ぶ。

ノクスの背後では、人々の悲鳴が障壁に反響した。


ノクスはちらりと後ろを振り返った。

裏通りの人々は不安そうに成り行きを見守っている。


(防御を解けば、あの者たちは死ぬ。だが、守りながらでは……)


不利は明らかだった。


(さて、どうしたものか)


百回のループの中で、この戦いに辿り着けたことは一度もない。

ここから先は、未知の領域だ。

それでも、ノクスは笑った。


(知らない未来か。面白い)


巨体が突進してくる。

背後に結界のあるノクスに避ける選択肢はない。

彼はそのまま攻撃をまともに受けた。


ドゴォッ!


身体が宙を舞い、地面を転がる。

石片が頬を裂き、息が詰まる。


それでもノクスは立ち上がった。


「おいおい、かすり傷しか与えられないのか? 見かけのわりに大したことがないな」


言いながら、微かな違和感を覚えていた。

何かがおかしい。


(もしかして、こいつは……)


気づきを確信に変えたい。

ひとまずジークハルトには、暴れ続けてもらうことにする。


「今ので全力か? 随分と退屈だな」


唇の血を拭いながら、ジークハルトを挑発する。

化物になったからか、もともと気が短いからか、ジークハルトはあっさりと乗ってきた。


「強がりもほどほどにしておけッ!!」


怒号とともに、無数の拳が乱れ飛ぶ。

地面がえぐれ、瓦礫が炎を巻き上げる。

ノクスは致命傷を喰らわぬよう立ち回りながら、ジークハルトを観察し続けた。


正確には、ジークハルトの体に少しずつ起こっている変化を……。


ジークハルトの皮膚の下では血管が浮き上がり、不自然に脈打っている。

彼が拳を振るうたび、それは激しくなっていった。

そのひとつが、ついに破裂した。


「ぐああっっ!!」


血が吹き出し、ジークハルトが悲鳴を上げる。

彼の体は明らかに限界が近い。


「ジークハルト、そろそろやめておけ。もうその体は――」

「黙れぇッッ!!」


聞く耳を持たず襲い掛かってくる。

拳を振るうたび、肉が裂け、骨が軋む。

血が飛び散り、足跡さえ赤く染まる。

それでも止まらない。

もはや痛みすら感じていないのだろう。


そして、ついに――。


皮膚を突き破って骨が飛び出した。

肉の間から赤黒い血が噴き出す。


「ぎぃやあああああああっ!!」


暴走した魔力が逆流し、血管を焼き尽くしているのだ。

ジークハルトは、ふらつき、地面に膝をついた。


「判断を誤ったな、ジークハルト。くだらない力などに頼るから、無様な姿を晒すことになるんだ」


ジークハルトは荒い息を吐きながら、震える腕で地を押した。

崩れた体は言うことを聞かない。

それでも、血走った目だけはノクスを睨みつけていた。


「……判断を、誤っただと……?」


声が掠れる。

唾と血が混じって飛んだ。


「俺は……間違っていない……! 俺は……力を、手に入れた……! 社交界でも……戦闘でも……ッ! おまえを叩き潰す、この……強大な力をッ!」


言葉の最後は、もはや悲鳴に近かった。


「力だ……力こそが……最強の……武器……だああッ!!」


満身創痍のジークハルト。

そんな彼を見つめて、ノクスはふっと笑った。


「力を信じてそのザマだろう? 何よりも強いのは――開き直りだよ」 


言葉が終わるより早く、ノクスの指先がわずかに動いた。


ザシュッ。


青白い閃光が一直線に走る。

空気が焼ける音とともに、魔力の刃がジークハルトの胸を貫いた。


ジークハルトの体はびくりと震え、目を見開いたまま動きを止める。

次の瞬間、白目をむき、巨体がゆっくりと後ろへ倒れ込んだ。


ドオオオンンッッ――。


地面が揺れ、砂煙が舞う。


倒れたジークハルトの体がみるみる萎んでいく。

皮膚は弛んで皺だらけになる。

さっきまで怪物だった存在は、ただの干からびた男になってしまった。


ノクスは静かに拳を下ろした。

裏通りの人々を守っていた結界も同時に解除する。


「……これで終わりだ」


100回ものループの中で、自分を苦しめ続けた諸悪の根源。

今その男が、見るも無残な姿で目の前に倒れ伏している。


ノクスは複雑な気持ちでジークハルトを見下ろした。


そのとき、背後に人の気配を感じた。

振り返ると――。

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