人々を救ったのは悪逆貴族
「……あの人が、守ってくれたんでしょう?」
無邪気な少年の声が、誰にともなく尋ねる。
ノクスの背後には、いつの間にか彼によって救われた人々が殺到していた。
彼らの瞳に宿るのは、恐怖ではなく、感謝と尊敬の色だった。
ただ、裏通りの人々は遠慮して、それ以上は踏み出せずにいた。
その空気を読んだセシリアは、率先して瓦礫を踏み越え、ノクスのもとへ降り立った。
風に舞う灰が、二人の間を静かに通り抜ける。
「……ノクス。本当に、ありがとう……」
感極まるあまり掠れた声で、セシリアが言葉を絞り出す。
「私からのお礼なんて聞き飽きてるかもしれないけれど……。本当に感謝しているわ。それに……私だけじゃなくて、ここにいる全員をあなたは救ったのよ……!」
ノクスは、居心地悪そうな仏頂面を返した。
「あいつと戦ったのは俺の都合だ。礼なんて言うな。むしろ、セシリアも裏通りの人々も、俺に巻き込まれた被害者みたいなものだ」
「何を言うのよ……! 加害者はジークハルトだけじゃない!」
そのやり取りを聞いていた借金取りたちが、慌てて駆け寄ってくる。
「セシリアお嬢さんの言うとおりですぜ、ノクス様! あんたは俺たちを守ってくれたヒーローであって、加害者なんかじゃない!」
「そうだ、そうだ! 俺たちはあんたに心から感謝しているんだから!」
「助けてくれてありがとう!!」
「守ってくれてありがとう!!」
感謝の言葉が重なり、拍手が巻き起こる。
ノクスは居た堪れず眉を寄せた。
こういう空気が一番苦手だ。
とくに今の生き方を選んでからは尚更だ。
「……やめろ。ヒーロー扱いはごめんだ。俺にとっては、『悪逆貴族』のほうが生きやすい」
そう言っても、人々の尊敬の熱は冷めない。
拍手はむしろ強くなる一方だった。
ちょうどそのとき、ノクスにとってはありがたいことに、憲兵隊が到着した。
彼らは、干からびたまま気絶しているジークハルトの体を担ぎ上げ、運び出していった。
セシリアや借金取りたち、裏通りの人々は憎しみを込めて、その背中を見送った。
ノクスだけが無反応だった。
ジークハルトの罪が法でどう裁かれるか。
それすら、正直まったく興味がない。
たとえばジークハルトの後継人である伯爵が、手を回して助け出したとしても、それならそれでいい。
正直、今回の一方的な戦いごときで、死んでももらっては困るという気持ちもある。
ジークハルトには百回苦しめられてきたのだ。
たった一度の絶望で終わらせるなんて、さすがに割りに合わないだろう。
それに、ノクスの敵はジークハルトだけではない。
ジークハルトの背後にいる伯爵を含め、ノクスが一矢報いても罰が当たらないような輩とは、100回のループの中で何人も出会ってきた。
そいつらと遊びつつ、ジークハルトを突き回し続けるのも面白いかもしれない。
まあ、でも、究極未来のことなんてどうでもいい。
行き当たりばったりで、適当にやっていく。
それが今のノクスが好む生き方なのだから――。
本作はこれにて第一部完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
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※カクヨムのほうでは先行して、続きの第二部も公開中です。
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前世は憎まれた魔王。
今世は……好き放題暴れてやる。
赤ん坊の今で天変地異を呼ぶレベル。
成長したらどうなるか、俺にもまだわからない。
どうぞよろしくお願いいたします!




