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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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一度見た動きは、二度と通じない

「……ノクス、なぜおまえがここに……? セシリア嬢と入れ替わっていた……というのか?」


ジークハルトの狼狽した声が場を震わせる。

ノクスは口元をわずかに歪め、淡々と告げた。


「本物のセシリアは、今頃優雅に茶でも楽しんでいることだろう。絶対に、お前には見つけられない場所でな」


ジークハルトの表情が怒りで一層引き攣る。

舌打ちしたジークハルトは、背後にいる手下たちを振り返った。


「どうしてこうなった……。なぜ計画が漏れている……!? こいつらは雇ったばかりだ。情報を流す時間などあるはずがない!」


混乱に駆られた叫びが、ジークハルトの口から迸る。


ジークハルトが取り乱すのも無理もない。


彼の言うとおり、タイミング的に考えて、ノクスが『セシリア誘拐事件』の情報を掴めるはずがないのだ。

それでも、ノクスが先回りできたのは、ループによって積み重ねてきた知識があったからだ。

そんな事情を知らないジークハルトにとっては、理解不能な状況だろう。


(だからといって、わざわざ教えてやる気など一切ないがな)


狼狽するジークハルトを前にして、ノクスの胸に爽快感が広がっていった。


これまで幾度となく、ループの中でこの男に惨めな死を与えられてきた。

百回もの死は、すべてこの男のせいだと言っても過言ではない。


しかも犠牲になったのは自分だけではない。

何の罪もない、善人そのものの父までもが、こいつのせいで命を落としたのだ。


ジークハルトがノクスを憎む以上に、ノクスはジークハルトを憎んでいた。


そして今、百回目のループにして、その憎しみに決着をつける絶好の機会が訪れたわけだ。


(すべてを諦め、やけくそになった結果だというのは、皮肉な話だが)


もちろん、生き方を変えたことに後悔はない。

開き直ったことで、ジークハルトに一方的に虐げられるだけでは終わらない図太さを手に入れることができたのだから。


「俺がどうしてセシリアと入れ替われたのか。そんなことは考えるだけ無駄だ。おまえには一生わからないだろうからな」


ノクスは単なる事実としてそう伝えたのだが、ジークハルトは侮辱と受け取ったようだ。

その顔に憤怒の色が走り、鋭い視線がこちらを射抜く。


しかし、ジークハルトはすぐに深く息を吸い、無理やり表情を整えた。

怒りを剥き出しにしたら、ノクスの思う壺だと思ったのか。

だがその仮面の奥で、怒気が渦巻いているのは隠しきれていない。


「……ふん、いいだろう。誰が口を割ったかは、おまえを殺してからでも調べられる」


ジークハルトはノクスを見据えたまま、手下に命じた。


「おまえたち、こいつを始末しろ」


手下たちが一斉に配置につく。

刀の鯉口が切られる音、鎖金具が微かに擦れる音が静寂を裂く。


ノクスは、手下たちの動きが以前経験したものと完全に一致していると確信した。

立ち位置も、携えた武器も、さらには緊張で強張った姿勢まで何一つ変わらない。

唯一の違いは、人質にされたセシリアがこの場にいないことだけだ。


ノクスは肩の力を抜くと、憐れんだ表情を浮かべてみせた。


「真っ向勝負でいいのか? 人質を取って自由を奪わなければ、俺には勝てないと思ったんだろう?」

「ほざけ。人質はただの保険だ。前回屋敷を襲った連中は雑魚に過ぎなかったが、こいつらは格が違う。人質なんかいなくても、おまえを片付けられる」


その言葉に応じるように、手下たちの武器がわずかに軋んだ。

月灯りに刃が淡く光る。

室内には、凍るような静けさが訪れた。

ノクスは周囲を見渡すと、蒼い瞳を細めてゆっくりと頷いた。


「そうか。なら、見せてもらおうか。おまえらの実力を」


十五の影が一斉に動き出す。

刹那、空気が爆ぜるように張りつめ、戦いの幕が切って落とされた。


襲いくる手下たちの背後で、ジークハルトは高みの見物を決め込んでいる。


十五対一。


勝負は始まる前から決している。

ジークハルトはそう信じて疑っていないのだ。


だが、ジークハルトの視線の先に立つノクスは、涼しい顔をしたままだ。


「まずは右。棍棒を振り下ろす男からだ」


ノクスが呟いた直後、予言通りに巨躯の暗殺者がノクスの頭上めがけて棍棒を叩きつけてきた。


ノクスにとって、その動きは新鮮でも予想外でもない。

すでに何度も経験した展開なのだから当然だ。


棍棒が振り下ろされる直前、ノクスは素早く腰を落とし、身を屈めた。

風を切る音とともに棍棒が頭上を通過し、背後の床石を粉砕して粉塵を舞い上げた。


「チッ、ちょこまかと……!」


男が血走った目で悪態をつき、棍棒を再び振り上げる。


(次は右足を踏み込んで、全体重を棍棒に乗せてくる)


攻撃の軌道は、始まる前からノクスの脳裏に刻まれている。

ノクスは重心を右足の踵へとわずかにずらし、身体を傾けた。

棍棒が虚しく空を切り裂く。


攻撃が空振りしたせいで隙が生まれ、棍棒男の首筋が無防備に晒される。


「残念だったな。おまえの動きは一度見れば十分だ」


低く吐き捨てると同時に、ノクスの掌から青白い閃光が迸った。

魔力の奔流が一直線に走り、棍棒男の巨体を正面から撃ち抜く。


「――がっ……!」


男の喉元で炸裂した衝撃が骨を砕き、血と唾が一気に吹き出す。

巨体は抵抗できないまま宙に浮き、人形のように弾き飛ばされた。


ノクスは一歩も動かず、その光景を冷ややかに見つめていた。

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