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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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誘拐犯の裏をかく

その日の正午過ぎ、セシリアは日傘を手にローズウッド公園へ向かった。

園内は、陽射しのきらめきと人々の賑わいに包まれている。

噴水のそばでは子どもたちがはしゃぎ、笑い声が水音に溶け込んでいた。


喧騒から離れ、公園の奥へと足を踏み入れると、木々が鬱蒼と茂り、木陰の涼しさが広がった。

周囲に人影はない。

鳥のさえずりと虫の声に耳を傾けながら、セシリアはゆったりと歩みを進めていた。


その静寂は、唐突に断ち切られた。


草を踏み荒らす音とともに、背後から荒々しい気配が迫ってきたのだ。


振り返ろうとした瞬間、乱暴な手がセシリアを押さえ込んだ。

声を上げる間もなく、口を塞がれる。


「んんっ……!!」

「暴れるな。怪我をしたくなければ大人しくしていろ」


低く潜めた男の声が、耳元を冷たく掠める。

もちろん、そんな脅しに屈するセシリアではない。

彼女は全身をねじり、必死に男の拘束から逃れようとした。


だが、力の差は歴然としていた。

たいした抵抗もできないまま、口には容赦なく猿ぐつわを押し込まれた。

続けざまに荒々しく袋を頭からかぶせられ、視界はたちまち闇に閉ざされた。


「んーっ! んんーっ!!」


必死に叫んだが、その声は猿ぐつわに阻まれ、木立の奥へと虚しく吸い込まれていった。


それから、セシリアは無理やり抱え上げられ、公園の外へと運び出された。


袋に閉ざされた視界の中では何も見えない。

聞こえるのは衣擦れと、男たちの荒い息づかいだけだ。


ほどなくして、車輪のきしむ音と馬のいななきが耳に届いた。

どうやら、犯人たちはあらかじめ馬車を用意していたようだ。


次の瞬間、乱暴に馬車の中へ放り込まれた。

硬い床に背中を打ちつけ、息が詰まる。


扉が閉まると同時に、馬車は大きく揺れながら走り出した。


袋に閉じこめられたままでは、どの方角へ進んでいるのかも見当がつかない。

揺られ続けるうちに、時間の感覚さえも徐々に薄れていった。


やがて、がくん、と車輪が止まり、静寂が訪れた。


再び抱え上げられ、まるで荷物のように運ばれていく。


錆びついた扉の音が、ぎいと響く。

続けて、男の靴音が床板を重々しく軋ませた。

どうやら建物の中へ運び込まれているようだ。


男に抱えられたまま廊下を進み、やがて奥の部屋へと連れ込まれた。

床に降ろされると、頭上から冷たい声が降り注いだ。


「さすがに袋からは出してやろう。だが、騒げばその喉を潰す。ただの脅しではないと心得ておけ」


袋の口が荒々しく開かれた。

眩しい光が差し込み、閉ざされていた視界が一気に戻る。


目の前に立っているのは、ノクスの義兄であるジークハルトだ。

背後には、薄笑いを浮かべる手下たちの影が並んでいた。


ジークハルトの視線がじっとこちらに注がれる。

その眉がわずかに動き、探るような色が浮かんだ。


「……おい、あんた。《《どうしてまったく怯えていない?》》」


ジークハルトの声には、苛立ちと戸惑いが滲んでいる。

彼の指摘は正しかった。


袋から解放されたセシリアは、すました顔でジークハルトを見つめ返したのだ。

余裕を感じさせるその態度からは、怖がっている素振りなど微塵も感じられなかった。


「侯爵令嬢のくせに生意気な女だと聞いていたが、まさかここまで動じないとはな」

「もごもご……」


猿ぐつわ越しに、セシリアが何かを言おうとしている。

ジークハルトは目を細め、興味を示した。


「――おい、猿ぐつわを解いてやれ。どうせこの部屋は防音結界の中だ。叫んだところで誰にも届きはしない」


命じられた手下が頷き、猿ぐつわを外す。


「ぷはっ……!」


いっきに息を吐き出したセシリアに向かい、ジークハルトが問いかける。


「それで、さっきはなんと言った?」


セシリアは軽蔑するような仕草で肩を竦めてみせた。


「『あら、ひどい言い草ですわね。怖がるわけなどないわ。あなたが間抜けすぎて、笑いを堪えるのに必死なんですもの』と申し上げました」

「……なんだと?」


ジークハルトの顔色が変わる。

セシリアはクスッと笑って、再び口を開いた。


「事実だろう? 俺をセシリアだと勘違いして攫ってくるなんて、阿呆すぎる。なあ――ジークハルト」


その場に響いたのは、艶やかな令嬢のさえずりではなく、男の低い声だった。

耳に馴染んだその声音に、ジークハルトはハッと息を呑んだ。


「その声……まさか貴様は……!?」


ジークハルトの叫びと同時に、周囲を覆っていた魔法が解けていく。

揺れる幻影の向こうから姿を現したのは、余裕の笑みを浮かべたノクスの姿だった。


ノクスは静かに身を起こすと、凝り固まった首筋を軽くほぐした。


「女性を袋詰めにして運ぶなんて最低だな、ジークハルト。おかげで体中が痛いじゃないか」


ノクスは肩の力を抜いたまま、冗談めかして告げた。


「ノクス……!!」


ジークハルトの顔がみるみる歪んでいく。

憎悪を込めた視線が注がれるが、ノクスは余裕の態度でそれを受け流した。

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