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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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古狸への報復

暗殺者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったが、ノクスは好きにさせておいた。

奴らは権力者に命じられて動いただけの、取るに足らない連中だ。

それに――。


(あいつらの命を奪ったところで、破壊されてしまったサンルームがもとに戻ることはない)


光溢れていたその空間は、今や無惨な瓦礫と化している。

リリィは雨に打たれたまま、その様子を呆然と見つめていた。

濡れた髪が青ざめた頬に張り付いている。

その姿を目にした途端、ノクスの胸に鋭い痛みが走った。


自分の不甲斐なさが、彼女をこんな目に遭わせたのだ。

ノクスは責任を感じながら、唇を噛みしめた。


「リリィ、こんなことに巻き込んでしまってすまない……」

「……! ノクス様は何も悪くなりません……!」

「せっかく大事にしてくれていたのにな」


崩れ落ちたサンルームの跡地を見渡し、ノクスは小さく息を吐いた。


「リリィ、本当にごめん」


言葉とともに深く頭を下げる。


「ノクス様……!? や、やめてください、顔をお上げください……!」


慌てて駆け寄ってきたリリィの声には、切迫した響きが滲んでいた。


「守りきれなかったのは、俺の落ち度だ」

「そんなこと……!」


リリィは勢いよく首を振った。

濡れた瞳をまっすぐノクスに向け、必死に言葉を紡ぐ。


「ノクス様が無事でいてくださった……。それだけで、私はもう十分なんです」


そう言うと、気丈な笑みを見せた。


「……ですが、まさかセシリア様の御父上が、ノクス様のお命を狙うなんて……」


リリィの表情は、再び曇ってしまった。


「婚約が成立していたら、義理の親子になるはずの間柄でしたのに、どうしてこんなことを……。あんまりです……」


怒りと悲しみのあまり、リリィの声は震えている。

彼女は、ノクスがルヴェリエ侯爵に裏切られたと感じているようだった。


だが、セシリアとの婚約を一方的に破棄された時点で、ルヴェリエ侯爵にはすでに裏切られている。彼に対する信用など、とっくに潰え去っていた。


だからノクスは、暗殺者を差し向けられたところで、いまさら驚きもしなかったのだ。


(お茶会の場では、こちらも開き直って敵意を露わにしたしな)


憎み合うのは、もはや必然だ。

しかし、その矛先が大切な者にまで及ぶというのなら話は別だった。


ノクスは、今回のルヴェリエ侯爵の行動を、黙って見過ごすつもりはなかった。


「ルヴェリエ侯爵とは、近いうちに直接会って話をつけるつもりだ」


その一言を聞いた途端、リリィの顔から血の気がさっと引いた。


「……ノクス様、何か危険なことをなさるつもりじゃ……?」


ノクスは「まさか」というように、苦笑を返した。


「相手は侯爵だ。今日のようなごろつき相手とは訳が違う。俺が暴力に訴えれば、逆に捕まるだろう。……そんな真似はしない」


きっぱりとした口調で約束すると、リリィはようやく張り詰めていた肩を落とし、胸をなで下ろすように小さく息を吐いた。


ノクスは、胸を撫で下ろすリリィを見ながら、心中で自らの言葉を反芻した。


今、リリィに伝えた言葉は嘘ではない。

ただ、すべてを語ったわけでもなかった。


ノクスにとっての『話し合い』とは、ただ言葉を交わすだけのものではない。


ノクスは、ルヴェリエ侯爵の逃げ道を塞ぎ、言い訳を封じ、二度とこちらに牙を向けられぬよう徹底的に追い詰めるつもりだった。


◇◇◇


リリィが眠りについた深夜。

ノクスは足音を忍ばせ、屋敷の地下室へと向かった。


そこは普段、古い家具や道具が積まれているだけの物置にすぎない。


ノクスは迷いなく奥の棚へ進むと、指先で古ぼけた板をなぞった。


淡い光が走り、隠されていた小さな箱が姿を現す。

それは、ノクス自身が魔術で封印し、この地下室に隠しておいたものだった。


蓋を開けると、中には分厚い帳簿の束が収められている。

かつて武器商人を討った折に手に入れ、誰の目にも触れぬよう封じておいた秘密の記録だ。

ノクスは一冊を取り出すと、ページを繰りはじめた。


パラパラという紙の音だけが、地下室に響き続ける。

それから不意に、ノクスの指が止まった。


「見つけた」


唇の端がゆっくりと吊り上がる。


そこに記されていたのは、誰が見ても疑いようのない証拠、『ルヴェリエ侯爵が武器商人の密輸によって莫大な利益を得ていた記録』だった。


「ルヴェリエ侯爵。おまえたち古狸が執着しているのは、金と威信、そして何より評判だ。ならば、そこから崩してやる」


帳簿から一枚を破り取り、指先でひらりと掲げる。


そのまま紙を懐へ忍ばせ、ノクスは音もなく地下室を後にした。

夜更けの町へと歩み出すノクスの後ろ姿は、冷たい決意に包まれていた。

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