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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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貴様らは俺の逆鱗に触れた

作業を終えてひと息つく頃には、外はすっかり暗くなっていた。

厚い雲に覆われた空からは、激しい雨音が途切れることなく響いている。


「……雨、だいぶ強くなってきましたね」


サンルームの窓越しに外を見つめながら、リリィが心配そうに呟く。

窓ガラスを叩く雨粒は、刻々とその勢いを増していた。


「この部屋は問題ないだろうが、他の雨漏り箇所が気がかりだな」

「一応、バケツは置いてきました。ですが、定期的に様子を見たほうがいいかもしれません」


リリィが振り返りながら言う。

ノクスは頷き返そうとしたが、その動きがぴたりと止まった。


直後――。

リリィの背後にある窓の外を、黒い影がすっと横切った。


「――リリィ、伏せろ……!!」

「……!?」


驚いたリリィが反射的に身を屈めた瞬間、轟音がサンルームを揺るがし、窓ガラスが炸裂した。

砕けた破片が四方に飛び散り、雨風がいっきに吹き込んでくる。

嵐とともに室内に飛び込んできたのは、黒装束の男たちだった。


ノクスはリリィを背後へと庇い、一歩、前へ出た。


襲撃者は三人。

全員が漆黒の衣を纏い、不気味な仮面で顔を覆っている。

各々の手には、薄く反り返った短剣が握られていた。

闇に紛れやすく、音も立てずに急所を貫けることから、裏社会の者が好んで使う武器だ。

鈍く黒光りするその刃先が揺れるたび、空気にひりつくような緊張が走った。


「おまえがノクス・アルヴェインで間違いないな?」


先頭に立つリーダー格の男が、挑むように尋ねてくる。

ノクスは微塵も動じず、口元に皮肉げな笑みを浮かべてみせた。


「俺に差し向けられた暗殺者か」


リーダー格の男はわずかに顎を上げた。


「お察しの通りだ」


暗殺者を差し向けられた経験ならば、百回のやり直しの中で数えきれないほどある。

だが、今回のようなパターンは初めてだ。


そもそも、邸の修復を自ら行うという行為自体が異例だった。


(新たな行動を起こせば、それに応じて新たな暗殺計画が生まれる……そういうことか?)


まあ、どんな形で襲撃を受けようが、こちらのやることは変わららない。

腹を括って迎え撃つ。

ただそれだけだ。


「ノクス・アルヴェインおよび、そこのメイドもろとも。指令通り、事故死に見せかけて処理させてもらう」


仮面の男が冷たく告げると、リリィが怯えたように顔を強ばらせた。


「ノクス様……」

「安心しろ、リリィ。おまえに手出しなんてさせない」


ノクスは片腕を広げ、リリィを庇うような構えを取った。

その行動を、仮面の男が鼻で笑う。


「ふん。その余裕、いつまで保てるかな?」


次の瞬間、暗殺者たちが一斉に動いた。

鋭い刃が唸りを上げ、ノクスとリリィに襲いかかる。


ノクスは素早くリリィを抱き上げると、飛び退いて間合いを取った。

サンルームの床を蹴りながら、ひとまずは防戦に徹する。


(……このサンルームをこれ以上、壊したくない)


せっかく嵐から守った場所だ。

リリィが一番気に入っている部屋でもある。


すでに窓は割られ、その周辺は無惨に被害を受けているが、それでもまだ取り返しのつく範囲だった。

ここでさらに自分が暴れて部屋を大破させれば、もう解体するしかなくなってしまうだろう。


ノクスはさりげなく視線を、割れた窓の向こうへと向けた。

なんとかして襲撃者たちを、部屋の外へ誘き出せないものか。


攻撃をかわしつつ、ノクスはわざと窓際へと後退した。

その行動に対して、仮面の暗殺者たちは不気味な笑みを見せた。


ノクスが眉をわずかにひそめた刹那。


「標的、誘導完了。――落雷を放て!」


魔力の奔流を敏感に察知したノクスは、咄嗟に防御結界を展開した。

ノクスの頭上で轟音と閃光が炸裂する。

ノクスはリリィの上に覆い被さり、衝撃から彼女を守った。


轟音の余韻が消えたあと、サンルームには重苦しい静寂が落ちた。

周囲には白い煙とともに、焦げた臭いが漂っている。

外から吹き込む雨が、それを冷たく洗い流していく。


「ノクス様……無事……?」


リリィは瓦礫の中で咳き込みながら、掠れた声で訊ねてきた。


「……ああ、俺は問題ない。それよりリリィは?」


「私なら、ノクス様が庇ってくださったので全然大丈夫です。……でも、ノクス様が直してくださった屋根が……」


リリィの視線を追い、ノクスも顔を上げる。


敵の落雷に貫かれ、屋根は無惨に吹き飛んでいた。

そこから吹き込む豪雨が、サンルームだった瓦礫の山に容赦なく叩きつける。


(リリィのために守った空間を、こうも無残に……。いいだろう。馬鹿なことをしたと、死ぬほど後悔させてやる)


ノクスは怒りが鋭く凝縮され、氷のように冷たく沈殿していくのを感じた。

暗殺者たちは、ノクスの内側から滲み出る異様な気配にまだ気づいていない。


「ちっ、無傷かよ。今ので感電死してくれたら、楽でよかったのにな」


余裕の態度でそんなことをほざく暗殺者たちを見つめたまま、ノクスはゆらりと立ち上がった。


「……貴様らは、俺の逆鱗に触れた」

「……っ」


ノクスの怒気に圧倒され、暗殺者たちの体が強張る。


すでにノクスの掌には、濃密な魔力が集いはじめていた。

反撃の予兆が、雷鳴よりも鋭く空気を震わせ――。

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