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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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ノクス様、大成功です!!

「今日はまず、サンルームの屋根を直す。梁を補強して、内側に樹脂を染み込ませた防水布を張っておけば雨は防げるはずだ。それが済んだら、外壁の窓に板を打ちつける。飛んできた瓦礫で割れれば、ひとたまりもないからな」

「サンルームを優先するんですか……? でも、ノクス様のお部屋の前の廊下も、ずいぶん雨漏りしてますよ」

「廊下など後回しでいい。それに、サンルームはおまえが一番気に入っている場所だろう?」

「あっ……」


ノクスの真意に気づいた瞬間、リリィの胸は熱を帯びた。

頬に紅が差すのを感じて、思わず視線を伏せる。


メイドの自分の願いを優先されるなんて、本来なら恐れ多くて申し訳ない。

けれど、ノクスはそういう人だ。

彼はとても優しくて、自分のことを平気で後回しにしてしまう。

それだけでなく、使用人のリリィのことを、決して物のようには扱わない。

まるで身分の違いなど初めから存在しないかのように、同じ目線で向き合ってくれるのだ。


間違いなく今回も、『ご自身の生活する場を優先させてほしい』と伝えたところで、聞き入れてはもらえないだろう。

だから、リリィは素直に感謝の気持ちを伝えることにした。


「……ありがとうございます、ノクス様。とてもうれしいです」


はにかみながら微笑みかけると、ノクスは反応に困るとでもいうように眉を下げた。

長い間一緒にいるからこそ、こんなふうに想いを伝えると、お互いに照れくさくなってしまうのだ。


「それじゃあ、はじめるか」

「がんばってお手伝いしますね!」


倉庫の中から脚立を運び出したノクスは、サンルーム上の屋根に向かってそれを据えた。

しっかりと地面を踏みしめ、安定を確かめた後、迷いなく足をかける。


「ノクス様、くれぐれもお気をつけくださいね……!」

「ああ、わかっている」


屋根に上がったノクスは、破損箇所を確認した。

屋根材は、素人目でもわかるほど破損し、一部は腐敗していた。

放っておけば次の嵐で大破しかねない状態だ。

ノクスは工具を手にすると、すぐに作業へ移った。


まずは、バールで錆びた釘を抜き、腐った板を外していく。

板はささくれ立っていて、怪我をしないよう注意をする必要があった。


除去した板を地上に下ろしたら、代わりに今回手に入れてきた新品の板を屋根の上に運ぶ。

これは、リリィにも手を貸してもらった。


あてがった板を釘で打ち留める作業は、思った以上に骨が折れた。

百回のやり直しを繰り返してきた人生の中でも、こうした修繕に手を出すのは初めてのことだ。


最初こそ勝手の違いに戸惑ったが、ノクスはすぐに手の動きを覚え、釘を打つ角度や力の加減を見極めていった。


金槌を振り下ろすたび、乾いた音が曇り空に澄んで響く。

打ち込まれた板は確かに固定され、作業は順調に進んでいった。


「あとは防水布で表面を覆い、釘で押さえ込むだけだ」

「ノクス様、防水布はここに――」


リリィが防水布を差し出そうとした、その瞬間。

突風が吹き抜け、防水布が大きくはためいた。


「――あっ、飛ばされちゃう!」


防水布を押さえようとして身を乗り出したリリィの体が、脚立の上でぐらりと揺れる。


「きゃっ!?」

「危ない!」


危うく足を踏み外しかけたリリィの体を、ノクスの腕がとらえる。

ぐっと引き寄せられた拍子に、二人の距離は一気に縮まった。


「大丈夫か、リリィ?」

「は、はい……」


心臓の鼓動が大きく響いている気がして、リリィは顔を赤らめさせた。


「まったく……無茶をするな。おまえが怪我をしたら、元も子もないだろう」

「す、すみません……」


リリィは小さく頷き、布を押さえる手に力を込めた。

まだ心臓はバクバク言っている。

動揺している理由は、もちろん、脚立から落下しかけたから――だけではなかった。


そんなリリィの様子に気づくことなく、ノクスは作業を再開させた。


集中しているノクスは、額に浮かんだ汗を拭うこともせずに、ただ黙々と釘を打ちつけていく。

リリィは思わず、彼の横顔に見入ってしまった。


(ノクス様って……本当に器用)


屋根の修繕まで難なくこなしてしまうなんて驚きだ。

彼の新たな一面を知るたび、尊敬の念は深まるばりだった。


「ノクス様、本当にすごいです……。こんなことまでできるなんて」

「大げさだよ。こんなの素人の真似事だ。正確な修理ができているわけじゃない」

「でも、普通はそれすらできません。貴族の方々のほとんどは、肉体労働を苦痛だと感じるのに……」

「ああ、そういう意味では嫌じゃないな。むしろ楽しいぐらいだ。貴族という枠に縛られていたら、決して味わえなかった経験だ。まあ、こんな考えは、一般的ではないんだろうが……」


そう口にした直後、ノクスの表情がわずかに曇った。


「私はノクス様の今の生き方、とても素敵だと思います……!」


リリィは慌てて肯定の言葉を伝えたが、素敵だと感じているのはもちろん本心だった。

ノクスは少し目を見開き、それから、ふっと表情を和らげた。


「さて、屋根の修復は完成だ。次は窓の補強といこう」

「はい!」


◇◇◇


それから三十分。

ノクスとリリィは息を合わせ、必死に作業を続けた。

ぽつり、ぽつりと雨粒が落ちはじめたのは、ちょうど最後の窓に板を打ちつけ終えたときだ。


「……間に合いましたね!」

「ああ、ぎりぎりだったな」


逃げるように室内へ駆け込んだ二人は、修繕の成果をたしかめるため、サンルームへ足を運んだ。

サンルームの大きな窓には、無数の雨粒が叩きつけている。

しかし、しばらく待ってみても、室内には一滴の水も侵入してこなかった。


「やったー! ノクス様、大成功ですね!」


リリィは両手を上げて叫ぶと、花が咲くような笑顔をノクスに向けた。


サンルームがリリィにとって特別な理由――。

それは、ノクスと過ごす大切な時間のほとんどが、この場所で生まれるからだ。

語り合い、笑い合い、同じ空気を吸う。

そうした日々の積み重ねが、この部屋をリリィにとってかけがえのないものにしていた。


けれど、そんな想いを主であるノクスに悟られることを、リリィはまったく望んでいなかった。

ただ心の奥でそっと抱きしめ、大切にしていられればそれでよかった。

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