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100回死んだ悪逆貴族、ヤケクソで死亡フラグ回避を諦めたら無双モードに突入した  作者: 斧名田マニマニ


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悪魔って俺のこと?

その声は唐突に響き渡り、まるで劇場の幕が一気に落とされたかのような衝撃を場にもたらした。

招かれざる客の出現に、セシリアの胸は高鳴った。


セシリアの視線の先に立っていたのは、この場に似つかわしくない、けれど誰よりも頼もしい、彼の姿だった。


サロンの奥、逆光の中から現れたのは一人の青年だ。


漆黒のロングコートを翻し、堂々と歩み出たその姿は、まるで闇から抜け出してきた悪魔のようだった。

彼の瞳は深い夜を思わせる暗さを湛えながらも、すべてを見透かすような鋭い光を宿していた。

その表情は挑発的で、傲慢とさえ評されるほどの確かな自信が溢れ出ている。


セシリアにとって、そんな彼の姿は何よりも頼もしく映った。

嵐の夜の灯台のように、ただそこに存在するだけで、心に深い安堵が広がっていく。


(ノクス……! 来てくれたのね……!)


感極まったセシリアは思わず立ち上がりかけた。

だが、ノクスの一瞥がその動きを静かに制した。


何も言わず、ただまっすぐにセシリアを見据えるノクスの目には明確な意図があった。


――動くな。見ていろ。


ノクスはそう伝えている。


言葉を呑み込んだセシリアの代わりに声を発したのは、婚約者候補のアデルだった。


「なんだね、君は……!」


婚約者の前で威厳を示そうとしたのだろう。

しかし、言葉の調子に余裕はなく、声もどこか空回りしていた。

 


必死さの滲んだ惨めな威嚇など、ノクスに響くわけがない。

案の定、ノクスは一切取り合わなかった。

返事をする価値もないと言わんばかりに、ノクスはアデルを無視して、悠然と歩き出した。


ノクスの足取りには、誰よりもこの場を支配している者の風格があった。

彼の放つ威圧感は庭園の空気を一変させ、そこにいた全ての人々を圧倒していった。

貴族たちが細心の注意で築き上げた社交の場。

その均衡は今や、一人の男の出現によって静かに覆されていた。


ノクスはゆっくりと歩みを進め、セシリアたちのテーブルの前で立ち止まった。


「このような大切な席に、突然お邪魔する非礼をお許しいただきたい」


そう言うと、優雅に上半身を傾け、流れるような所作で一礼した。

口にしたのは謝罪だったが、その声音にはどこか楽しげな響きが混じっていた。


そんなノクスに向かって、セシリアの父であるルヴェリエ侯爵が低い声を発した。


「……ノクス・アルヴェイン。娘の元婚約者が何の用だ。ここは、落ちぶれた貴族が顔を出す場所ではない」


ルヴェリエ侯爵は、まるでゴミを見るような冷たい眼差しをノクスに向けた。

その顔には、隠しきれない戸惑いと苛立ちが滲んでいる。

この場に突如現れた不穏な存在に、動揺せずにいられるはずもなかった。


「ノクス・アルヴェインだって……?」


 ルヴェリエ侯爵の言葉をきっかけに、貴族たちの間にざわめきが広がった。


「なぜ、没落貴族の彼が……?」

「あの事件の後、社交界から姿を消したはずでは?」

「元婚約者の顔合わせの場だぞ? のこのこ現れるなんて、荒唐無稽にもほどがある」「ああ、場違いもいいところだ」


興味。警戒。そして、ほんのわずかな恐れ。

かつての出来事を知る者たちが、記憶の奥に沈めていた噂を口々に囁き合う。


高価な扇で口元を隠す者。

露骨に眉を顰める者。

社交の仮面の下で、それぞれの感情が揺れ動いている。


そのなかでただ一人、ノクスだけがまるで別世界の住人のように微笑んでいた。

彼はこの異様な空気を明らかに愉しんでいた。


ノクスの余裕な態度に、アデルの苛立ちはますます募った。

無視されたこと、ノクスの傲慢さ、すべてが気に入らなかった。


ついに堪えきれなくなったアデルは、椅子を乱暴に押しのけて立ち上がり、声を張り上げた。


「没落貴族が、いったい何のつもりだ! まさか、まだセシリア嬢に未練があるというのか? ……ふん、哀れなことだ。今さら婚約を邪魔しに来ても、君のような立場では何一つできはしないだろう! 私と君とでは雲泥の差があるのだよ」


その言葉には、露骨な侮蔑と、聞くに耐えないほどの嘲りが滲んでいた。

場に漂う空気はさらに張り詰め、周囲の貴族たちの視線が、アデルとノクスに集中した。


ノクスはもちろん、アデルの挑発に乗る気などまったくなかった。

鼻先で小さく笑うと、軽やかに言葉を返した。


「俺と違って、君は彼女と釣り合っていると、そう言いたいのか?」


その声は穏やかな調子を保っていたが、奥底には鋭く研ぎ澄まされた刃のような何かが潜んでいた。


「当然だとも!」


アデルは即座に言い返した。


「私は伯爵家の嫡男だ。君のような没落貴族とは格が違うのだよ!」


ノクスはほんの少し首を傾げ、静かに目を細めた。


「そうか。ならば、その誇り高い肩書きとやらが、どれほど脆く、無力なものか。じっくり見せてやろう」

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