狩られる側から狩る側へ
「……いっそのこと、ドルヴィックの根城に乗り込んで、密輸組織を力技で潰してしまおうか?」
「……なんですって?」
「元凶を断ち切れば、敵が俺に着せようとしている罪も、おのずと消滅するしな」
やけくそで閃いた突拍子もない思いつきだが、案外、現実的かもしれない。
セシリアはぽかんと口を開けたま、固まっている。
冗談とも本気ともつかないノクスの発言に対し、理解が追いついていないようだ。
「まさか……本気で言ってるの? そんな無謀な作戦を?」
ノクスは肯定も否定もせず、わずかに視線を逸らした。
彼の仕草には、これ以上の説明を避けようとする意図が見え隠れしている。
その態度だけで、答えは十分だった。
沈黙は時として、どんな言葉よりも雄弁な返答となる。
「ありえないわ……! 一人で突っ込むなんて……。そんなの、死にに行くようなものじゃない! 考えただけでも背筋が凍るわ」
「だからって、逃げたところで、どうせ死に付き纏われる」
「どういう意味……?」
「……」
逃げたところで、結末はいつも同じ。
(最後にはどうせ俺は死ぬ。だったら今回は、自分のやり方で終わらせてやる)
「心配するな。適当にやる」
「適当って……」
「深くは考えていない。やりたいようにやるだけだ」
「えっ……!?」
信じられないというように、セシリアがまじまじと見つめてくる。
しかし、ノクスが冗談を言っているわけでもないと気づくと、セシリアは戸惑いながら視線を揺らした。
「……ノクス、あなた……変わったのね。今までのあなたなら、絶対そんなことは言わなかった」
「まあ、そうかもな」
「……私の知らないことが、たくさんあったのね」
いつもは騒がしいくらいのセシリアが、独り言のような声音で言う。
その顔には、驚きと同時に寂しさの影が見て取れた。
ノクスはそれを無視して、敢えて突き放すように微笑んでみせた。
「――さて、セシリア。忠告をありがとう。心から感謝している。だが、もう二度とここへは来ないでくれ」
「……私がまた役に立つ情報を持ってこられるかもしれないのに? こっそり、父の動きを嗅ぎ回ることだってできるのよ」
「見つかったら実の娘であれ、間違いなく逆鱗に触れるぞ」
「それでも、私は、あなたが罠に嵌められるのを黙って見ているなんてできない……!」
「セシリア、俺たちはもう婚約者じゃない。赤の他人だ。お互いに気にかけ合う間柄ではなくなったんだ。そんな俺のために、君がきな臭い問題に首を突っ込むなんて、俺は微塵も望んでいない。わかってくれ」
「……っ」
表面上は冷たい拒絶だ。
だがその奥には、かつての婚約者を遠ざけたいという真摯な想いがある。
セシリアはそれを理解し、言葉を何度も飲み込んだ。
やがて切なげに睨むと、保存庫を駆け出していった。
ノクスはゆっくり息を吐き、意識を密輸事件へ戻した。
(どう抗ったって、また死が待っているだけだ。だったら、好き勝手暴れて、やりたい放題やるだけだ)
もう迷わない。
今夜、ドルヴィックの根城へ行く。
今度は俺が奴らを狩る番だ。
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