幕間:解せない
「いやぁ、ちょっと警戒しすぎじゃないですかね?」
「念には念をだ」
枕を抱きしめたトウカは、ギルバートの部屋の扉を閉めた。
先程自分を見送った衛兵のニヤニヤとした笑顔が頭から離れない。
トウカは正式に婚約誓約書にサインしたその日から、何故か自分のベッドで寝ていない。
夜になると必ずギルバートがトウカの部屋に訪れ、横抱きにして彼の部屋へと連行するのだ。
最近では横抱きをやめて欲しくて、彼が来る前に自分の足で向かいの部屋に訪れるようにになっている始末。
「…解せぬ」
両手を広げてベッドの上で待つ彼の元へ行くのが、何故だか嫌だ。
「衛兵がいるので大丈夫ですよ」
「寝ている時が一番無防備だろう」
「この城の警備は、簡単に忍び込めるほど緩くないです。もう少し信用しても良いかと」
「信用しているが、それでも離れていると不安なんだよ。俺が」
「…その言い方はズルくないですか?」
『トウカが心配だから』ではなく、『俺が不安だから』とあくまでも自分のために一緒にいろと言ってくる。
そういう言い方をすればトウカが断れないことが分かっているのだ。本当にずるい。
「私、眠りは浅い方なので他人と一緒には寝れないんですけど」
「嘘つけ。かなり深く眠れているくせに」
何しても起きないぞ、と言うギルバートにトウカは枕を投げつけた。ギルバートはそれを受け止める。
「…最低」
「心配するな。大したことはしてない」
キスしたり抱きしめたりキスしたりキスしたりしているだけだ。
ギルバートは悪戯な笑みを浮かべた。
「おいで」
トウカを誘うその言い方は、どこか挑発的だった。
今までは『逃がさない』と追いかけて来るような態度だったのに、最近は『逃げれるものなら逃げてみろ』と言いたげな態度だ。
「ホントずるい」
もう逃げられるわけなどないのに。
彼の腕の中が自分の帰る場所なのだと認めてしまったから。
トウカは仏頂面でスススっとベッドに近づくと、大層不服そうにギルバートの胸へと飛び込んだ。
二人はそのままベッドの上に寝転がる。
「勢いよく飛び込むなよ、危ないだろ」
「おいでって言われたから来ただけです。私忠犬なので」
「どこが。いつも俺の言うこと聞かないくせに」
「…私はいつでも主人に従順です」
「あっそ」
自分の胸に顔を擦り付けて全然こちらを見ないトウカの髪を撫でながら、ギルバートはクスクスと笑う。
「意外と顔に出るよな。耳まで真っ赤だぞ」
「言わないでください」
「そんなに俺のこと好き?」
「…回答を拒否します」
「そういえば俺、一回もお前の口から好きって言われてない」
ギルバートはハタと思い出したように呟いた。
二人の思いが通じあった庭園でのあの時だって、ノートに書かれた文字を見ただけだと彼は主張する。
「それで十分でしょ」
「全然足りない」
そう言って言葉を急かすギルバートはトウカの白い髪を耳にかけると、息を吹きかけるように囁く。
「お願い。言って?」
「ひゃあ!?」
トウカはくすぐったくて手で耳を塞ぎ、飛び起きた。
「ほんと弱いな、耳」
「わかってるならやめてくださいよ」
「好きって言えたらやめてやろう。多分」
尊大な態度のギルバートに、トウカは近くにあった枕をまた投げつけた。
「多分なら言わない!」
「だってお前反応良いんだもん。絶対は約束できない」
「『もん』とかつけても可愛くないですから!」
「お前はいつも可愛いけどな」
「なっ!?」
その言葉にトウカの顔はさらに赤くなる。
「腹立つー!」
最近のギルバートは本当に調子に乗っている。
そしてトウカは最近の彼に乗せられてばかりだ。
「好きって言うだけだろ?そんなに難しいか?」
「…難しいって言うより、恥ずかしいんです」
頬を膨らませたトウカは正直に白状した。
素直になることは彼女にとってそう簡単ではないのだ。
顔を赤くして俯くトウカの姿に、ギルバートは仕方がないと自身も体を起こすと、ぎゅーっと彼女を抱きしめた。
「いつかで良いから言ってくれるか?」
「…努力します」
「なら今日はこれで許してやる」
そう言うと、ギルバートは口を尖らせて善処すると約束したトウカの唇を、啄むように奪った。
彼のその行動から愛されていると実感できることが嬉しいような、でも恥ずかしいような、なんとも言えない感情が込み上げてきたトウカは頭から布団をかぶる。
「あれ?もう寝るの?」
「寝る!」
遊びすぎたなと少し反省しつつ、ギルバートは布団越しに愛しい人へとキスを落とした。
キャラ違くない(゜ω゜)?




