67:おじさんたちの密会(1)
叛逆者の処分がひと段落した頃、王都の外れにある妓楼の一室ではおじさん達による密会が行われていた。
「何故ここなのですか、閣下」
「君はこういうところは初めてかい?」
「付き合いで何度か来た事はありますが…」
ジュリアスはどうしたら良いか分からず困惑していた。
何故ならこの国の重鎮が妓楼の一室に集結しているからである。
(今ここを襲撃されたらこの国終わるぞ)
エドワードから無礼講だと言われ、無理矢理連れてこられた妓楼。
異国情緒漂う館でジュリアスの目に映るのは、肌を露出した妖艶な美女が注いだ酒を何食わぬ顔で煽る宰相と、その横で怯えながら美女にお酌してもらう騎士団長。
そして隣に愛妻家と噂の国王陛下の姿があった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、気にしないでください。大丈夫です。慣れていないだけですから」
ジュリアスは、至近距離に迫る美女に怯えるレイモンドに声をかけたが、どう見ても彼は大丈夫ではない。
40手前なのにピュアなのか、それとも恐妻と噂の夫人が余程怖いのか。
ジュリアスは小さくため息をつくと、仕方なく、隣で美女を口説く国王エドワードに耳打ちした。
「そろそろ女性たちを下がらせてください」
「えー。もう?」
だらんとソファの背もたれに体を預けたエドワードに、ジュリアスは軽蔑の視線を向け、低い声で囁く。
「王妃様に言いつけますよ」
エドワードはすぐ背筋を伸ばすと、女たちを退室させ、楼主に人払いをさせた。
「何で妓楼なんですか。もう少し話しやすい場所を選んでくださいよ、陛下」
「ここの個室が一番信用できるんだよ。楼主も口硬いし、部屋は防音だ」
「城でも良いでしょう」
「城だと聡いアイツが色々と感づくかも知れないだろう」
「それはそうかもしれませんが…」
ジュリアスが半眼で見てくるので、エドワードは一応言い訳する。
「言っておくが、密談とかで使いやすいだけで女は買ってないからな」
「それ言うと逆に怪しくなりますよ」
「店を予約したのは宰相だ」
「店を指定したのは陛下ですけどね」
宰相は濡れ衣を着せられそうになり、すかさず反論する。
エドワードはその場にいる全員に「アメリアには言うなよ」と命令した。
*
「それにしても、今回の件は見事でしたな」
宰相はレイモンドが注ぐ酒を飲みながら、音楽祭の話題を振る。
「王弟派貴族を3名も検挙してハルト殿下を牽制し、その上ギルバート殿下の評価も上げてしまった。流石ですな、陛下」
「私としても意外な結末だったがな。本当に、トウカはいつも予想以上の成果をもってくる」
エドワードはクツクツと愉快そうに笑った。
音楽祭の一件以来、臣下からのギルバートに対する評価は右肩上がりだ。
ギルバートの指揮のもとで叛逆者を捉えた事、民衆を味方につけた事に加え、あの日をきっかけに自信がついたのか、最近では日頃の振る舞いも堂々としている。そういう点が評価されて、幼少期の彼に絶望していた臣下たちは『王族としての威厳が出てきた』、『エドワード陛下の若い頃に似ている』、『あの補佐官に忠義を誓わせたのだから、何か特殊な能力でも持っているのかもしれない』などと言いはじめた。
今更、手のひら返しも良いところだとジュリアスは思うが、当の本人は普通に喜んでいる。つくづく器のでかい男だ。
更に市井でも、音楽祭の広場で見せた毅然とした態度で叛逆者を問い詰める姿は、堂々としていて王族らしい振る舞いで威厳がある一方で慈悲深い面もある優しい王子様であると人気が急上昇中らしい。
「まあ、結局あの娘をギルバートから引き離せなかったが、思いの外悪い気分ではない」
エドワードはほくそ笑んだ。
フィオナはもうギルバートに忠誠を誓っており、トウカの事を心から尊敬している。ギルバートに悪い影響を与えるような存在ではなくなった。
その上、トウカがフィオナを気に入っている。
「トウカがあの娘を『友人』と言ったことは大きな成果だ」
ジュリアスはふと、『陛下は自分をこの国に縛り付けておきたいだけだ』と言っていたトウカの台詞を思い出した。
そうなるとエドワードのこの発言はトウカをこの国に引き止めるための駒として、フィオナが使えるようになったことを意味している。
「…初めからフィオナ・モートンを排除してほしい事情を言わなかったのは、このためですか?」
「別にそういう訳ではない。ただ、排除しろと命じればそれで終わりだ。だが言わなければ何か面白い事が起こるかもしれんだろ」
「殿下の命がかかっていたんですよ?」
「あの娘が父の謀略を知らないことはわかっていた。多少野放しにしたところで学園でギルバートが危険に晒される事はないし、いざとなればトウカが盾になる」
その言葉に、ジュリアスは眉を顰める。
「ギルバート殿下はそれを望みませんよ」
「アイツが望まなくとも、それがトウカの仕事だ」
「…そうですが」
簡単に義妹を盾にすると言うエドワードに、ジュリアスは憤る。
だがそんな彼の姿に、エドワードはまたクツクツと笑いながら宰相の方を見た。
「トウカちゃんはいつの間にか多くの味方を手に入れましたね、陛下。城に来た頃は敵ばかりだったのに」
「そうだな。喜ばしい限りだ」
ニヤニヤとこちらを見てくる2人に、ジュリアスは居心地が悪くなる。
「何ですか、閣下」
「いやぁ、伯爵も彼女に籠絡されたなと」
「どういう意味ですか」
「兄妹の仲が良いのは羨ましい限りだという意味だ」
エドワードがそれを言うと反応に困る。
ジュリアスは不貞腐れるように酒をあおった。
3章スタートです




