38:秘密主義
義妹の代わりに元主人を起こしに来たはずが、何故か壁際に追い詰められている自分の状況に、ジュリアスは昔読んだ小説を思い出した。
「…これ、ひと昔前の大衆向けの小説で読んだことあります。あれですよね『壁ドン』」
「聞きたいことがある」
「あれですか?実はトウカのことはカモフラージュで本命は僕ですか?やだなー、ジュリアス困っちゃう」
「トウカと叔父上はどういう関係なんだ?」
「…」
彼の揶揄いにも反応しないギルバートはなかなかに珍しい。
ジュリアスはどうしたものかと悩んだ。
「トウカのスリーサイズなら教えませんよ」
「何故知っている!?」
「制服注文したの僕なんで」
「ああ、なるほど…。ってちがう!そうじゃないわかってるくせに話を逸らすな」
「チッ、ダメか」
ジュリアスは大きくため息をついた。
そして面倒臭そうに言う。
「何故それを本人に聞かないんですか?」
「どうせアイツは聞いても答えない」
「では僕も答えられません」
「どうして」
「本人が明らかに隠していることを他人である僕が伝えるわけにはいかないでしょう?」
「ど正論だな、チクショウ!」
ギルバートはジュリアスの肩に頭を落とし、項垂れた。
トウカは何かを隠している。
そして、この間の彼女の反応から察するに、それには王弟ハルトが関わっている。
彼女の隠す何かに自分の身内が関わっているかもしれないのだ。ギルバートは気になって仕方がない。
「はあー」と声に出して深くため息をつく彼の頭を、ジュリアスはポンポンと叩く。
「本人に聞いてみてはどうです?僕だってトウカのことを全部知ってるわけじゃありません」
うちの義妹は謎が多いと彼は笑う。
「なんか線を引かれてる気がするんだよ」
「気がするじゃなくて、間違いなく引いてます。あの子は自分と他人の間にしっかりと線を引いている。踏み込んでくるなと言わんばかりにね」
どれだけ仲良くなっても、冗談を言い合える仲になっても、トウカは自分の核心となる部分には絶対に触れさせない。
一人でずっと何かを抱えて生きている。
ジュリアスはいつか彼女が壊れてしまわないかと心配なのだ。
「僕はギルバート殿下なら踏み込めると思ってますよ」
「できると思うか?」
「思います。根拠はありませんけど」
「ちょっと頑張るわ、俺」
「玉砕した時は慰めて差し上げましょう」
「玉砕する前提で話すなよ」
ギルバートはジュリアの腹部を殴る。
ジュリアスはその手を逆手で受け止めるとふと、ギルバートの数メートル後方を見た。
そこには扉の陰に隠れるユイの姿があった。
「まずい」
「何が?」
この体勢は明らかに逢引きだ。
ジュリアスは急いでギルバートの体を引き剥がした。
ギルバートはジュリアスの様子に異変を察知してバッと後ろを振り返った。
「わ、私そっちもいける口なので!お気になさらず!」
ジュリアスもギルバートも断じてそっちではないのだが、弁明する間もなく「ランドール夫人を呼んできます」と言い残し、ユイはその場を去ってしまった。
「…ユイにお小遣い渡して口止めをせねば、明日には王太子妃候補に僕の名が上がりそうです」
「そうやって袖の下を渡すからあいつも調子に乗るんじゃないのか?」
「なるほど、これも彼女の策略ですか」
ジュリアスは、城内で婚活もせずに小遣い稼ぎに勤しんでいるユイの行く末が心配になってきた。
(…どこで誰と通じているのかは調べておかないとならないな)
最近、城内で情報屋まがいの事をしている守銭奴ユイは、今、どこで誰と通じているのかわからない。故になかなかに侮れない。
機密情報を漏らすような分別のない娘ではないので、特段心配はしていないが、念のためジュリアスは警戒しておくことにした。
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