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【修正中】有能侍女はポンコツ王子の初恋を終わらせたい  作者: 七瀬菜々
第2章 フィオナ・モートンの消失
32/115

30:学園の開放日(1)

 ------それは学園の開放日当日のことだった。


 トウカ達が学園についた頃はまだ開門前で、出店する商会の人間が慌ただしく準備を進めていた。

 庭園の方では発声練習をしている劇団員が見える。


 駐車場から内の門までの道中、侍女ユイは辺りをキョロキョロと見渡しながら、浮き足立っていた。

 主人たちが学業に勤しむ中、彼らの授業が終わるまで開放日を楽しむ許可をもらったのだ。


「ユイ、楽しそうね」

「そりゃあもう!このために、ランドール夫人に当番を代わってもらったのです。演劇の演目は今話題の『謀略の姫君』らしいですし、新作発表会にはローズ商会も出品するそうですよ?ああ!見たいものがたくさんで楽しみです!」


 年甲斐もなくはしゃぐユイは、石畳の道をスキップし始める。

 そして、「お小遣いも貰いましたし」と小さながま口の財布を見せた。


「…誰にもらったのよ」

「そこは企業秘密です」


呆れ顔のトウカに、ユイは口元で人差し指を立てて悪戯な笑顔を見せた。


 どうやら最近のユイは、城の色んなところ情報屋のような副業をして、小遣いを稼いでいるらしい。

 トウカはこの娘が、そろそろ侍女を辞めて諜報員にでもなるつもりではないかと、少し心配になる。


「ほどほどにしとかないと、厄介ごとに巻き込まれるわよ?」

「大丈夫です!引き際は弁えているので!」


 ピシッと足を揃えて敬礼する彼女がどうしても弁えているように見えず、トウカの不安は増すばかりだ。



「あれ?でも、ユイも学園に通っていた時に開放日は経験していたはずだよな?そんなに楽しみなものか?」


 ギルバートはふと、疑問に思っていたことを聞いた。


 忘れがちだが、ユイ・キトルは立派な子爵令嬢である。

 学園卒業後、デビュタントもせず侍女として城に上がり、王宮内で婚活する様子もなく小遣い稼ぎに勤しむという世にも珍しい子爵令嬢だが、一応は貴族の娘。開放日は何度か経験しているはずだ。 

 だが、ユイは首を横に振った。


「学生の頃は、講義終わりに少し覗くしかできませんでしたから」

「やはりそういうものか…」


 不貞腐れたように答える彼女の様子に、ギルバートはそういえば昨年の自分もそうだったなと思い出す。


「そういえば、昨年のトウカ様はどうされていたのですか?」


 昨年の彼女は今日のユイと同じ立場だ。開放日を満喫していてもおかしくはない。

 しかしそこは社畜のトウカ。


「私はサロンの給仕室で仕事してたわね。ジュリアス様は無理やり付いてきて楽しんでいたようだけれど」


 そう答える彼女の当時の姿が、ありありと目に浮かぶ。


「相変わらず社畜を極めていらっしゃる」

「いや、俺も気が利かなくてすまなかった。楽しんでこいと小遣いでもやるべきだったな」


 憐れみの目で見てくる二人に、トウカは不快感を露わにした。


「謝らないでくださいよ。なんだか惨めになります」

「でも本当は楽しみたかったんじゃないんですか?」

「…別に。人混みはあまり好きじゃないから」


 そんな会話をしながら、3人はいつのまにか内の門に着いてしまった。

 いつも通り頭を下げて二人を見送るユイにトウカは念のため、彼女に警告する。


「はしゃぐのも良いけれど、人の出入りは多くなるわ。あなたは一応子爵家のご令嬢ですし、周囲には十分気をつけてね?ちゃんと護衛の騎士と回るのよ?」

「あんまり念を押されると、逆にフラグ立ちますって」

「釘を刺しているだけよ」


 浮かれ気分のユイには、上司として言っておかなければならない。

 平和なエフェニア王国とて、犯罪がないわけではない。

 特にお祭り特有の雰囲気に紛れて、変な気を起こす輩も少なくはないのだ。警戒するに越した事はない。


「トウカ様こそ気をつけてくださいね?」

「私は大丈夫よ。殿下より強いし」

「おい、ちょっと待て。それは聞き捨てならんぞ」

「あら、では今度手合わせしてみます?」

「望むところだ」

「いや、そこは望んじゃダメでしょう。殿下」


ユイが売り言葉に買い言葉で好きな女と手合わせする事になった主人を哀れみの目で見ていると、後ろからパタパタと足音が聞こえてきた。

 身の危険を感じた彼女は咄嗟に体を右へずらす。

 すると、突進してきた何かはそのままトウカに抱きついた。


「うお!?」

「おはようございます!」


『何か』はピンク頭の教祖だった。

 トウカは受け止めきれずにそのまま後ろに倒れる。

 フィオナに組み敷かれたようになっている彼女は周囲の人間の視線を独り占めしていた。


「おはようございます、フィオナ様。今日も元気がよろしいようで」

「おはようございます!トウカさん!今日も凛々しくて素敵です!」

「ありがとうございます。とりあえずそこを退いていただけると嬉しいです」

「あ、ごめんなさいっ!」


『私ったら、テヘッ』とでも言うかのように、自分の頭をコツンと叩き舌を出すフィオナ。本当に一つ一つの仕草があざとい。

 ユイはその仕草にドン引きしつつも彼女に手を貸して立ち上がらせた。


「お、おい。大丈夫か?」

「お尻打ちました」

「さすってやろうか?」

「セクハラ反対」


トウカはギルバートが差し出した手を払うと、1人で立ち上がり、尻をさすった。どうやら尾骶骨は折れていないようだ。


「トウカさん!今日は開放日ですね!」

「そうですね」

「ギルとデートするんですか?」

「しませんよ」


やや興奮気味で話しかけてくるフィオナを適当に遇らうトウカ。

 だが、そんな彼女の隣でギルバートは目を輝かせていた。


(…あ、めんどくさいやつだ)


嫌な予感がしたトウカは、2人を置いてそそくさと警備員の検閲を受け、1人校舎の中へと入っていった。


「フィオナ。俺、頑張るわ。デート」

「はいっ!頑張ってください!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


初デートです。

しかし、この二人の初デートを無事に終わらせてあげないのが私です。←

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