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【修正中】有能侍女はポンコツ王子の初恋を終わらせたい  作者: 七瀬菜々
第2章 フィオナ・モートンの消失
31/115

29:侍女トウカは生き急ぐ(2)

  主人の策略により、まんまと爆睡してしまったトウカは、夕方に目を覚ました。


「…やられた。今何時?」


 時計を見る。

 ギルバートの訪問から既に3時間が経過していた。

 ここ数日、仕事をしていると余計なことを考えずに済むからと、寝る間も惜しんで働いていたトウカだが、やはり体は限界だったらしい。

 夢も見ずに爆睡していた彼女は、体が軽くなったのを感じた。

 だが、それがギルバートの策略によるものであると思うと、なんだか複雑な心境である。


 彼はいつもトウカのことをよく見ている。

 無茶こそするが、極力疲れを顔に出さないようにしている彼女の体調の変化に気づく人間は少ない。


(…放っておいてくれてよかったのに)


 トウカは深くため息をついた。

 あんまり大事にされるとほだされそうになる。

 そんな自分が、彼女は怖いのだ。


 トウカは何よりもギルバートが大切だ。彼より大事なものなどない。

 だが同時に、自身の出自が彼の負担になることも重々理解している。

 これ以上自分の気持ちが大きくなり、彼の想いに応えてしまう事が彼女にとっては何より恐ろしい。


「侍女の解任、もう一度進言しておこう」


 寂しいなんて言って、これ以上側にいれば必ずほだされてしまう。

 トウカは、やはり距離を取るべきだと判断した。



「え、侍女をやめるのか?」


 急に声をかけられたトウカは、ビクッと肩を震わせた。

 彼女の呟きを聞いていたのか、ギルバートの声少し悲しげだった。

 トウカはその声にやや怒りつつ顔を上げる。


「殿下…まだいらしてたんですか?」

「…なんでちょっと怒ってるんだよ」

「そりゃ怒りますよ。お陰で今夜も徹夜…で…え?」


 ふと机の上を見ると、あるはずの書類の山が殆ど無くなっていた。


「仕事なら大方片付けておいた」


 トウカはバッとギルバートの顔を凝視した。

 ギルバートは視線を逸らし、頭を掻きながら説明する。


「あ、一応ちゃんとジュリアスに確認をとって、俺が処理しても問題ないものだけ片付けた。あとは、ほかの人間に投げたりとか。そこにある分だけ終わらせたら今日の仕事は終わりだそうだ」


 言い訳がましく早口で弁明する姿は、怒られるとでも思っていたのが丸わかりだ。


「別に怒りませんよ?」

「そ、そうか?勝手をしたから怒るかと…」


 少しホッとしたような表情を見せた彼にトウカは少しイラッとする。

 仕事を肩代わりしてもらって怒るような女だと思われているのなら心外だ。


「あ…りがとう…ござい、ます」


 主人の普段の行いがアレなので、お礼を言い慣れておらず若干たどたどしくなってしまうトウカ。

 そんな彼女を見て、ギルバートは小さくため息をつきながら、彼女の上司から伝言を伝えた。


「ジュリアスが、もうちょっと周りを頼れと言っていたぞ」

「そのジュリアス様が仕事を持ってくるんですけどね」

「そこから他に投げろということだろう?ほかの官吏の仕事を減らすために、お前が背負い込む必要はない」

「…皆忙しいので」

「忙しいのはお前も同じだ」


 ギルバートは寝台に腰掛けたままのトウカの前に座り、両手を取る。


「頼むから無茶はしてくれるな。心配なんだよ」


 本気で心配しているような顔で言われてしまっては、善処すると答えるほかない。


 トウカは立ち上がり、お茶を入れますと言ってギルバートを執務室のソファへ誘導した。

 そしてご褒美とでも言うように、仲の良い官吏からもらった銘菓を彼の前に差し出した。

 ギルバートはそれを食べながら、チラチラとトウカの方を見る。


「…なあ、本当に侍女は辞めるのか?」


 捨てられた子犬のような顔をする彼に、トウカは誤魔化すようにお茶を出す。


「何の話ですか?」

「さっき言っていたじゃないか…」

「…」


 結局、見捨てないでくれと言わんばかりのその顔にほだされてしまい、「辞めませんよ」と言ってしまったのだった。



 ***



 赤く染まる夕日が差し込む執務室で、残りの仕事を片付けたトウカは、暫し主人と二人だけの時間を過ごしていた。

 四六時中、主人の傍に控えている侍女とは違い、補佐官は別行動も多い。

 最近は起床時と昼食、学園への中でしか会話ができておらず、こうしてゆっくりとした時間を二人が過ごすのは本当に久方ぶりのことだった。


「昼間、稽古をつけていたのはマルクスとキースですか?」

「ああ、久しぶりに手合わせしてもらったがやはりあの二人は強い。クリスとも引けを取らないんじゃないか?」

「そりゃあ、この騎士団長の推薦ですからね。アルダートン様の腕前は『学園で1番』と言うだけです」

「実戦では使い物にならないと?」

「おそらくは」

「手厳しいな」


 ギルバートは、友人に辛辣な言葉を吐く侍女に苦笑した。



 そして、ふと、カレンダーを見る。


「そういえば、そろそろだな。学園の『開放日』」

「そうですね」


 『開放日』とは、年に一度開催されるイベントで、王都の民が学園の施設を見学できる日のことである。

 立ち入ることができるのは学舎の外側のオープンエリアのみだが、貴族の暮らしが疑似体験できると民には人気のイベントだ。

 その日のオープンエリアでは、スイーツを取り扱う商会の新作発表会が行われたり、講堂で演劇が見れたり、孤児院主催のバザーが行われたりと、お祭りのような1日になる。


「人の出入りが多くなる分、警戒は怠れません。護衛、増やしますか?」

「いや、学園側の警備も厳重だし、俺たちはいつも通り授業を受けるだけだ。どうせ護衛も内には入れないし、増やすだけ邪魔だろう」


 外の世界がお祭り騒ぎだろうと、内の学生はいつもと変わらずお勉強だ。


「それもそうですね…」

「ま、なんかあればクリスもいるわけだし、問題はないさ」


 楽観的な主人に呆れながら、トウカ言う。


「アレは実戦では使えませよ。かけても良い」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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