意味
ベンチへ戻ろうとする道を塞ぐように、えりかが立っていた。
「……なんなの」
えりかの足元を見ながら問う。今は誰とも目を合わせたくない。しかし、えりかがこちらを刺すように直視していることは見なくても分かった。
「最後、なんでバントしなかったの」
なんで、と聞かれて取り出せる回答なんて持ち合わせていない。かといってわざわざ引っ張り出すのは面倒この上ない。舌打ちしそうになるのをどうにか堪える。
「別に。どうせ失敗するなら適当に振っても一緒でしょ」
自我を保てるギリギリのラインで返事をする。すると、えりかの足が一歩こちらに寄ってきた。
「ふざけないで。アンタがバントしないなら、そこに一体なにが残るの」
なにを言っている。環は思わず顔を上げた。睨みつけているようなえりかの目が視界に入ってくる。
「私は役立たずって言いたいわけ」
内から湧き上がる感情の半分くらいを語気に込める。えりかは目を逸らさない。
「アンタはもう少し冷静になれると思ってたんだけど」
一つ息を吐いて、えりかは言った。
「良い、俯瞰して考えなさい。バントを決めることで確実に出塁できるからこそ、アンタに価値がある。例えバントが難しい相手でも、元の確率が十割ならトライを続ければそんなにパーセンテージは減らないはずよ。でも、バッティングに切り替えたのなら確率は良くて三割にまで落ちる。ましてやそう簡単にヒットを望めない相手ならそれはもう、一割にも満たなくなるわ。今、チームは正にその一割の壁に陥っている。ここでアンタがバントしないなら、それは勝ちを諦めてるのと同じなのよ」
知ったような口をきく。環の目にはえりかの顔が憎らしく映った。俯瞰だろうがなんだろうが、あのイカれたボールをどうこうするのがどれだけ大変か、自分も打席に立っているなら分かるはずだ。それをすかした確率論なんか持ち出して、さも物事が見えているかのように喋っているのがイライラする。
「一度ベンチで頭を冷やしなさい。でももう一回言っておく。バントをしないなら、環。アンタに価値なんてない」
「うるさいなあ……」
抑える必要なんてない。ありったけの感情を込めてえりかを睨みつける。しかし、えりかもまたまっすぐに環を見据えた。永遠にも思える、ほんの数秒。
「……だる」
これ以上太陽に当たっているのもごめんだった。環はゆっくりと、ベンチへと歩を進めた。背後でえりかの視線を感じる。太陽の光と混ざって余計にうざったく感じた。




