表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/51

柏商業高校、山中千鶴

 それからというもの、環の頭からあの能面のような表情のない顔が消えない。むしゃくしゃした思いを振り払うように、ひたすら練習に打ち込んだ。

 あっという間に過ぎた一週間。第二試合の日がやって来ていた。相手は柏商業高校。あの山中千鶴を擁する強豪と噂のチームだ。

 学校に集合し、長い移動を終え、グラウンドに降り注ぐ燦々とした陽の光を浴びてもなお環の脳内には曇ったモヤモヤが残っている。早く相対して分からせたい、どちらが上なのかを。キャッチボールしながら、いてもたってもいられなくなり相手ベンチを睨む。

 直後、既に埋まり始めている客席から歓声が飛ぶ。柏商業高校の面々がグラウンドに姿を現したのだ。

「うわあ、すごい声援……」

 綾香が心底驚いたように言葉を漏らした。

「あちらさんは実力に加えて人気もあるからね。仕方ないよ」

 なんてことないといったように飛鳥が応える。リーダーであるえりかは何も言わず、黙々とキャッチボールを続けていた。

 環はボールを投げる手を止め、有象無象の中からターゲットを探した。いる。あの日と変わらない能面。山中千鶴はそこにいた。

 思わず腕が震える。あの日のコンタクトから、安い挑発には乗らないはずの環の心は揺さぶられていた。千鶴のなにも考えていないようなあの眼の奥には、お前たちなど軽くねじ伏せるという絶対的な自信が確かに宿っていたのだ。それが環には気に入らない。どんな球を投げようが、次の瞬間にはボールは力なくフェアゾーンに転がり、その間に一塁を悠々陥れる者が存在するという事実を一刻も早く示さなければならない。

 やがてウォーミングアップも終わり、整列の合図がかかった。一礼し、柏商業の選手たちがグラウンドへ散る。環たちは今回先攻。つまりこの試合最初にバッターボックスに入るのは、環ということになる。そのことに環は心の中で感謝し、いつものバットを手に取った。

「環」

 背後から、環を呼び止める声がした。えりかだ。

「頼むわよ。先頭が出塁できるかどうかで攻略の難易度が大きく変わるわ」

「言われなくても、一球で決める」

 環は即答し、打席に向かった。

 やっと来たこの日。あの隠し持っている自信を、折ってやる。

 マウンド上の千鶴はワインドアップではなくセットポジションで構える。試合開始を告げる球審の合図を聞いたそばからキャッチャーのサインに軽く頷き、力感のないフォームで第一球を投じた。

 来た。いつものように環はバットを水平に構える。

 次の瞬間、ボールが、加速した。

「なっ……!?」

 環のバットは空を切った。鳴り響くキャッチャーミットの音。沸く観客。環は、なぜバントをすると決めた自分がまだ走り出さずにバッターボックスにとどまっているのか、一瞬理解ができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ