表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/51

落ち着いて

 続くバッターのスイングも、まるで初戦の緊張などないかのように飛鳥のボールを捉える。

 快音を残した打球はライナーですっ飛んで行った。しかしそこは、すっかり元の調子を取り戻した京の守備範囲内だった。強い当たりをノーバウンドで難なくグラブに収めた京は、その勢いのままベンチへ向かう。

「オッケー、ナイスキャッチ!」

 飛鳥は大声を出してグラブを叩いた。全員がベンチへと戻る。その足取りはとても軽やかだ。

 その様子を見て、環は安堵するわけではなかった。ベンチに戻るや否や、ヘルメットを被り使い慣れた軽めのバットを手に取り、グラウンドへと戻った。投球練習を行う相手投手の球筋を一球一球、ミットに収まるまで凝視する。

「寄川さん。まずは塁に出ることですわよ!」

 ベンチから京の声がする。他のチームメイトも思い思いに声援を送ってくれているようだが、環は応えない。時間の許す限り、その球筋を確認する。

 やがて投球練習が終わり、バッターボックスに入る時が来た。

 環は相手に急かされることなく自分のペースでゆっくりとバッターボックスを均す。そうしてマウンドに目を向け、バットを構えた。

 それを待っていたかのように、相手投手は振りかぶる。足を上げて、第一球を投じる。

 その時、環の頭にはなにもなかった。ただ、ボールが真っ直ぐ来るのを映像として捉えているだけ。

 ついさっきまで珍しく存在した手の震えも、味方の不安げな顔も、そこにはない。ただ、迫るボールがあるだけ。

 ――よし、いつも通り。

 環はボールをギリギリまで引き付け、バットを水平に添えた。唸りを上げてやって来たボールは勢いを殺されフェアゾーンへと落ち、ちょうどピッチャーとキャッチャー、サードの間へと転がる。様々なバントのパターンを持つ環にとって最もオーソドックスな、それでいて余りにも強力なボールの配置。

 野手陣は咄嗟に声を掛け合いながらボールへと急行する。環が視認したのはそこまでだった。あとはもう、野手の様子など見ない。視界にあるのは一塁ベースのみ。ただ一点を目指して駆け抜ける。

「セーフ!」

 一塁塁審のコールが球場にこだました。減速して後ろを振り返ると、どうやら野手陣は捕球が精一杯で、送球には至らなかったようだ。

「ナイスバント!」

「さすが!」

 東高校ベンチから歓声がする。やはり守備時のぎこちなさは感じられない。

 これは環にとっては当たり前。だから手を挙げて声援に応えるのは気恥ずかしい。ここは俯き気味にやり過ごすことにする。

 だが、直後環は思わず呟いてしまった。

「オーケー。ここからだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ