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立て直す

 照りつける太陽の下、本来なら涼しさを与えてくれるはずの風がやけに冷たく、受けるほどに背筋が凍っていく感じがする。自分は緊張とは無縁だと環は思っていたが今は少し考えを改めなければならないかも知れない。京のファンブルで感じたこの居心地の悪さ。これが恐らく緊張というものだろうと、環は今実感している。

「申し訳ありませんわ。次は必ずしくじらないから、安心して打たせて構いませんわ」

 京はマウンドまで行き、硬さの取れない表情で飛鳥へボールを渡した。「良いって良いって気にしちゃダメダメ!」と相変わらずの元気な声で応える飛鳥だが、気のせいかその声もどこか上ずっているように聞こえる。負けたら終わりのトーナメントの初戦の初回。体が冷えて思うように動かないこの感覚こそ目に見えないプレッシャー、それが皆にのしかかっているというのか。

 セットポジションに入る飛鳥の背中を眺めながらファーストミットを構える。そのなんでもない動作でさえどこか重たく感じる。今ボールが飛んできたらどうなる。腕がしびれたようになり、頬をつたう汗さえ拭えない。

「うっしゃ、いっくぜー!」

 声を張り上げて飛鳥が二番打者へ一球目を投じる。外角に外れてボール。飛鳥もまたこの息苦しさにやられているのだろう、普段より球威がない。

「ナイスボールですわ。ストライク、入れていきましょう!」

 京がグラウンド全体に向けて声をかける。それに応えるように、方々からチームを鼓舞するように声が上がった。皆、どうにかこの恐怖から逃れようとしている。抗っている。

「うっ、りゃあ!」

 かけ声と共に飛鳥が第二球。初球は振る気配を見せなかった二番打者が、今度はスイングしてきた。打球はまたも鋭く地を這うゴロ。環は一瞬反応したが、とても届かない。セカンド方向の打球だ。一塁ベースに左足を置きながら打球の行方を追う。

 視線の先には綾香がいた。この場の誰もが上手く動けないこの状況で綾香はゆったりと、落ち着いた動作でボールをしっかりグラブに収め、流れるようなステップで二塁へ送球した。

「さすがですわ、伊藤さん!」

 綾香からの送球を受けた京が、今度こそ普段通りの素早さで環へと送球する。環は手足をめいっぱい伸ばし、それを捕球した。

「アウト!」

 審判のコールが聞こえる。どうやらダブルプレーが成立したようだった。

「良いねえ、頼りになるバックだ!」

 飛鳥が二遊間に向けて親指を立てる。グラブを上げてそれに応えるふたりを見て、環は背筋の冷え、落ち着かなさが抜けていくのを感じた。そしてそれは恐らく、他の皆もそうだろう。早くも立ち直った京のタフさもさすがだが、この緊張にのまれることなく普通のプレイを普通に行った綾香こそ、この状況においては賞賛されるべきだと環は思った。

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