飽きる?
「千本ノックって……それでいいんですの?」
京は怪訝そうに尋ねた。突然の発言に環は言葉が出ない。綾香も押し黙ってしまっている。
昨日の試合、東高校を褒める点があるとすればそれは守備だ、と環は感じている。誰一人としてエラーらしいエラーをしなかった。急造チームにしては、今の形はとてもまとまっていると言っていいはずだ。それなのに、えりかは打撃ではなく守備を鍛えようというのか。
「皆の動きを見ていて、守備は及第点を付けていいと思った。特に京、アンタの守備は問題が全く見当たらないわ」
「あら、それは喜ばしいことですわ」
急に褒められて、京はまんざらでもなさそうだった。えりかはそのまま続ける。
「でも、それだけに三遊間を組むあたしから綻びが出るのは避けないといけない。上大岡高校だってミスを一つもしなかった。上に行くにはやっぱり、守備は大切よ。だからまずあたしが率先して守備を鍛えようと思う……綾香、アンタもよ」
「え、えーっ!?」
不意に仲間に入れられ、綾香は悲鳴のような声を出した。
「分かりましたわ。ノックを打つのは構いません。けれど、他の皆はどうしますの?」
「それはもうあらかた決まってるわ」
「ちーっす!」
その時、部室のドアが勢いよく開かれ、元気印の飛鳥が大股で入室して来た。その後ろから、飛鳥とは対照的におずおずと奏が入って来る。
「ちょうどいいところに来たわ、アンタ達」
「えっ、なに、どうした?」
状況を掴めていない飛鳥を指差して、えりかは言った。
「アンタ達二人は環を相手にひたすら投球練習よ。実戦と思って投げなさい。配球も新しい変化球も、そこで試すの。それがある程度済んだら、今度は部員全員を相手に実戦的な投球をしてもらうわ」
えりかの指示に飛鳥は目を丸くして固まってしまうが、やがて内容を理解したようで、ゆっくりと頷いた。
「面白いじゃん。環、一本もバント決めさせてやんないからね!」
「その意気よ。環、アンタは飛鳥と奏のバッテリーを相手にひたすらバント練習でいいわ。十割をより確実なものにする。どんな球でも、どんな状況でも決められるようにする」
えりかはそう言ってフフンと笑う。
「……ま、いいよ。それが指示ならバント、するよ」
えりかの方針に特に文句はなかった。やれと言われればやる。そうして今までやって来たのだ。
「ノックはあたしと綾香と外野の三人で受ける。まずはここを強化して、打撃はその後よ」
えりかがそう言った時、タイミングよく三年生の三人が部室に入って来た。
「さあ、今日から死に物狂いでやるわよ!」
えりかは鼻息荒く宣言した。厳しい練習はごめんだけど、得意なバントをずっとしてていいならまあ耐えられるだろう。環は飽きが来ないかどうかだけ心配した。




