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本気のバントに敵はない!  作者: 小走煌
2 まだ見ぬ仲間を探して
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決まらない会議

 環がマウンドに到着した瞬間、えりかがわめくように言った。

「飛鳥、アンタ打たれ過ぎじゃないの!? もっと厳しいところ突いていきなさいよ!」

「やってるよ! でも、それでも打ち返して来る。あんまし考えたくないけど、ヤツらの力はちょっと予想以上だ」

「それでも抑えないといけないのは分かるでしょ? 勝つためには点をやっちゃいけないの!」

「だから打たれないように全力でやってるんだよ!」

 二人の言い合いは止まらない。環は「まあまあまあ」と二人の間に割って入るが、それでも収まる気配がなかった。

「あの……えりかちゃん」

 その時、遠慮がちな声が響いて場を静まらせた。声の主は奏。えりかを正面から見据えて、奏は言った。

「飛鳥ちゃんのボールは、少しも狂わないで要求通りに来ている。球質も悪くないの。それでも止まらないっていうのは、やっぱり相手のバッティングがすごいんだと思う……だから、私がもっと考えてリードするから、飛鳥ちゃんを、悪く言わないであげて……」

 沈痛な面持ちで言葉を絞り出すように話す奏に、えりかも黙ってしまった。

「強豪校の名は伊達じゃないねー……」

 綾香が奏に同調して呟く。一呼吸置くはずのマウンドで、重い空気が漂ってしまっている。誰もがなにか言おうとしては言葉を脳内に溶かしているに違いない、そんな空気の中、これまで一言も発していなかった京が右足を前に踏み出した。

「相手が強いのは仕方ありませんわ。それでも試合を続けるためには切り替えていかなければなりません。ところで佐藤さん。リードを見直すのは結構ですが、抑えられる見通しはありまして?」

 京の言葉に奏はなにか言おうとして、黙ってしまう。代わりに飛鳥が口を開いた。

「残念だけど、きっともう少し打たれると思う。だからもしボールが飛んで来たら、その時はしっかり守って欲しいな」

「……仕方ありませんわね。ここは一つずつ、アウトを重ねていきましょう」

 京はそれきり黙ってしまった。こうなるともう、あとは京の言う通り、一つ一つ守っていくしかない。

「それじゃ解散ね。環、なにかある?」

 不意に、えりかが話を振って来た。こんな場で、特別自分の意見があるわけもない。

「別にないけど。一応、ポジショニングはその都度確認するようにしよう」

 環はふと思ったことを伝えた。その言葉に全員が頷き、それぞれのポジションに戻っていった。

 純粋な実力差があると、対策の立てようがない。どれだけ人が集まったところで空気が重くなるだけなのだ。野球とはこんなにも難しいものなのか、と環は心の中で舌打ちをした。

 次の瞬間、相手の四番打者が外野へ打球を飛ばす。今度は長打コースだ。センターの優とライトの咲が懸命にボールを追い掛ける。その間に二人のランナーがホームへ還った。三点目。

「構いませんわ! 一人一人、集中ですわよ!」

 京が内野へ懸命に声を掛ける。皆それぞれに声を掛け合って、状況を確かめ合う。

 予想通り、相手は攻撃の手を緩めてくれない。でも、あと二つのアウトを取らなければならないのだ。

「全く……めんどくさい」

 思わずひとりごちる。こんな時、自分の力ではなにも出来ないのがもどかしい。バッテリーになんとか頑張ってもらうしかない。

「う……りゃっ!」

 飛鳥が気合一発、全力投球を見せる。五番打者の打球は三遊間へ飛んだ。京が素早く横に動き、ボールを拾い上げるように捕球してすかさず送球する。ボールは環の胸元へ吸い込まれるようにやって来てファーストミットを鳴らした。

「おっけー、ツーアウト!」

 全員で声を掛け合う。あとアウト一つ。こうやって、一つ一つアウトを取っていくしかない。

 難しいスポーツだ、と溜め息をつく。その時、六番打者の打球がファーストの横を襲った。

 知らず、体が反応していた。頭で考える間もなく、勝手にダイビングしていた。倒れ込んで、ミットの中身を確認する。ボールは確かにそこにあった。

「アウト!」

 審判が高らかにコールした。ファーストライナーでスリーアウト。ナイスキャッチ、と声を掛けてくれるチームメイトの顔を見ながら、環はユニフォームを汚してしまったことを少し後悔した。

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