食い倒れツアー終了後の体重計測にて
「はい、一丁上がり!!」
「うむ!!」
料理人ラムレトにより鱗や身はおろか骨まで砂にされ、淡白過ぎる無味にじゃりじゃりとした食感も新しすぎる斬新極まりない調理を施された魚が目の前に積み上げられる。勿論ただの砂山である。
ナイフとフォークを持って意気揚々と齧りつこうとして、とどまる。
「食うとこどこさ」
「え? ないよ?」
「ダイエットしろクーぼん」
「暫くメルト経由一択でアルな」
「小娘、バターやマヨなぞ論外じゃぞ」
「それならカロリーゼロですねマスター!」
「クーヤ、今の貴女に必要なのはダイエット食ね」
「おチビ、レディとして慎ましい食事量と体型を維持することだ」
「ムギーッ!!」
全員に律儀にダメ出しを食らった。地団駄を踏みながらトイレに流す。なんかダイエット食を強要されてだんだん痩せてきた気がする。おのれ。
プリプリしつつも本を開いて魔力を確認。よしよし、減り方も凄まじいが増え方も凄まじい。丁度釣り合っているのでこのまま何の問題も無ければ時間が稼げそうだ。
現在地は海の底地の底島の底。潮干珠により完全に露出した海底である。見上げるような島の崖と海の壁に挟まれたそれなりに広大な広場だが当然ながら海水が無くなるなどという超常現象が早々あるわけもなく、下手をすればン億年間水底にあったのであろう沈殿物、漂流物や堆積物が空気に晒されており中には明らかな人工物もあるのでこの場を漁るだけでもまぁまぁお宝が掘り当てられそうな状態になっている。
見立通りこの辺りは200メートル程度の深度だったようで、島へ突撃するには必然的に聳え立つ200メートルの崖をなんとか攻略しなければならないので潮干珠の魔力が尽きない限りはほぼ安全が確約されたと言っていいだろう。海壁の中には海産物が悠々と泳いでいるのが見えるし、別に進入不可だとか物理的壁だとかがあるわけでもないのでビチビチと水陸両用海産物が突っ込んでくるのが恐怖体験ではあるものの、島から降ろされた梯子を伝って大冒険野郎共が何名か海底の沈殿物目的でツルハシ持って降りてきている。命が惜しくないのかコイツら。えいさーいじゃないが。珊瑚やスポンジもそれなりの金額になるようで目が完全に金貨模様になっている。……まぁ島に来ていたのは結構な高ランクの連中のようだし私より俄然強いのだろうから別段口を挟むものでもないが。俺達Aランクウェーイしている。ハシゴで来たじゃないが。
「………………ふむ、折角だし」
観光名所に来たみたいな浮かれポンチ野郎共を見てたら私もちょっと特別な体験感が出てきたな。まぁ滅多に来るような場所ではないのは確かだ。トイレに流すべく地獄のわっかを設置しているが、その隣に暗黒神ちゃんマークを設置しておく。トンネル化は……悩ましいな。潮干珠を回収して海水が戻ったらトンネルにも流れ込んでこないか? 後でちょっと考えよう。
頭の隅に置いたところで隣にいたクロノア君が無言のままにふと剣を構えた。
ちゅいん、甲高い音と共に空間が焼き切られる。ぼとりと落ちた巨大なゲソをクロノア君が速攻で回収しラムレトへと放り投げた。ヌアー!!
「来おったな!!
マリー!! 準備は良いな!?」
「言われるまでもなくてよ。足だけなのが幸いね。
巨海精族、特に古き一族の本体が来るには深さが足りないもの。本体が来れるだけの深さと広さがあったのなら島を転がすのも容易かったでしょう。
初代魔王よりも古き時代から生きる深海生物群……相対したところでわたくし達でも勝てたかどうか。……いえ、クロノアが剣を持って戦闘に臨むのなら負けは有り得なかったわね。クロノアの永久的な離脱と引き換えになるのは論外と言えるとしても。
クーヤは保険と言っていたけれど……まあ良いでしょう。
ちんくしゃ、火種はわたくしが作るわ!!
我は求める。来たれ、天元の焔───────」
「ふん、火種としては充分じゃな。
אברא כדברא」
マリーさんが放った魔法をクロウディアさんが踏み台にして巨大な業火として織り上げる。それも海水の中で、である。真白の光が海の中にあって尚煌々と輝く。赤く染まる周囲が蜃気楼の中で揺らぐ。海壁から吹き上がる高温の水蒸気が広場内の気温をあっという間に釣り上げていくが、それを見越していたのかマリーさんが次なる魔法を編み上げていたらしく竜巻のような風が広場を満たした湯気を巻き上げて上空へと上がっていった。
海の中で燃え盛る炎とはあまりにも現実感の無い光景だが、この世界ではさして珍しいものではないのか火力担当達もそれを気にすることなく伸ばされてきた触腕などを各々で対処している。
「すげぇー!!」
「どうなってんだありゃあ!?」
「ふん、それなりに出来るようだな」
そうでもなかった。いやいいけど。あと一人は無駄に見栄を張るんじゃない。
…………と、そんな事を考えている場合ではなさそうである。
「むむ!
こっち来た!」
あちらの狙いは完全に私が持つ潮干珠のようで、伸びてくる触腕はほぼ私の方向に向かってかっ飛んでくるが。
「万象遍く」
私を庇い立てするかのようにクロノア君が立つ。
「塵と成す」
私の目の前にゲソがぼとぼとと落ちていく。クロウディアさんの魔法によりそれはすぐさまに反り返ってじゅう~といい音を立てて丸くなった。先ほどとは違ってもう今すぐにでも食べられそうな状態に仕上がっている。
「カロリー!!!」
塩分たっぷり旨味たっぷり磯の香りが漂う激ウマ海産物を前に辛抱たまらず飛びつこうとするが、哀れにもボインッと美味そうなゲソ達はクロノア君により容赦なくラムレトの方向へ再び弾き飛ばされた。
「モギャーーーッ!!」
なんという容赦のなさ。一つくらい残してくれてもよくないか!?
頑なに私と目を合わせようとしない辺り、ちょっとやましいに違いない。ぐぐぐ、なんでもなすがままの何を言ってもオッケーしてくれるクロノア君が非常に頑固である。よほど私の体重がヤバかったというのか。私をぶっ刺した時くらいの頑固さを感じた。口にしたらクロノア君が悲壮な顔になりそうなので言わないでおく。私は学習できるのだ。
「はい、クーヤくんにご飯だよ。たんとお上がり」
「砂じゃんか!! 砂じゃんか!!」
「カロリー制限されてるっしょ。もう今日は終わったよ」
「ぐえー」
嘆きながらもトイレはしておく。ギャグで潮干珠の魔力が尽きたら困るので。
「ありゃりゃ、クロノアくんヤバそう?」
「……………………………………」
「む?」
言われてクロノア君を見上げる。腕がツギハギ部分から取れかけていた。
ひょえーっ!
「あわわわ……!!」
人界最強戦力の身体が限界を訴えている。これ以上は流石に無理そうだ。というかその腕でゲソはしっかり弾き飛ばしたというのか。そんなにか。
いや、ゲソはともかくとしてクロノア君は前線離脱してもらおう。もみもみと剣を握っていた手を揉んで労っておいてからハシゴを指さす。離脱離脱!! いや首を振るな。無理はしない程度にと言ったというのに。勇者メンタルめ!!
こちらのやり取りに気付いたのかブラドさんがちっちと指で何やら合図を出してきた。フォローはするから諦めろっぽいな。うーん、ブラドさんはああ見えてサポートやフォローが上手い戦い方をする犬耳おっさんだ。距離を詰めていつでもこちらに駆け寄れる程のところに陣取っている。私より付き合いも長く理解度も高いブラドさんがそうするなら合わせた方がいいか。互いに好きにさせよう、フォローはすとこが染み付いているのだろう。マリーさんとの距離も考えているようだし。存外に潤滑剤役をしている犬耳おっさんである。……よく考えたらマリーさんもなにやら武闘派ヤンキーだったらしいしクロウディアさんとよくわちゃわちゃしている。クロノア君も突撃一番槍デンジャラスヒューマンとして突撃あるのみっぽい。なんか苦労してそうだな。別方向にそれぞれかっ飛んでく二人と組んでいる長年の苦労により制御は諦めてその後をなんとかするになったのだろう。悲しき中年の背中である。後でちょっとだけ労る事にしよう。そうしよう。
「………………お?」
うんうんと頷いていると、彼方から静かな歌声が響く。海からのようであり、空からのようであり。
異国の言葉のようであり、ただの呼び声のようであり。
周囲の海水が翠の光に満たされていく。海産物達が激しく動き回るのが見えた。蛍火のように舞い上がる輝く水飛沫が天に吸い込まれていく。
「Ru────Ah────────」
煌めく輝きの海の中に歌声が反響し、どこまでも高みへ。
───────────来た。




