海産物食い倒れツアー3
「……………………っ!
これは……クーヤ、ダイエットが必要なようね?」
「ギエーッ!!」
蝙蝠化と霧化を駆使されつつ、それでも尚賄いきれぬ体重の前にマリーさんがおシブい顔をされる。私を引き渡した九龍はしゃがみ込んだまま動かない。
「あっ、マスターすっごく重いです!!
すごいです! 船より全然重いですね!!」
「ヌワーッ!!」
超能力で持ち上げられても重たいのは重たいという事らしくスマイル全開で綾音さんが重いを連呼してくる。私を引き渡したマリーさんは浜辺に転がって優雅に寝込んでいた。
「……………………………………」
「ぐえー」
何も言われてないが目を閉じて空を見上げ、アンニュイな憂い顔でクロノア君が世を儚んでいるのが伝わってきた。私を引き渡した綾音さんは浜辺に突っ伏したまま肩で息をしている。
2周目、ファイナルラップとなったが私を持ち上げた瞬間、九龍が盛大に舌打ちしつつ叫んだ。
「他妈的!!
糞重すぎる、正気じゃねぇ!!」
私のあまりの体重を前についに地らしきものが出ている。アルアルと胡散臭いアニメ中華語録であったが実際にはスラム育ちらしくちゃんと口が悪いようである。というかこうやって異界語とこちらの言語を使い分ける辺り、スキルの言語に頼らずともこの世界の言語を理解してるなコレ。こちらの言語で元の世界の言葉を叫ぶという小器用な事をしているのだ。独学で学んだのだろうか。
「猫妈妈、你减减肥吧!!」
「なんて?」
しかも謎の罵倒までされた。よくわからんが多分それは私に使うような言葉ではないだろ。なんとなくしか意味はわからんが、言語そのものより意味合いそのものがおかしいぞ。痩せろデブまではまだしも誰がママ猫だ。子持ち猫でもないし猫なんて育ててないが。悪魔共の事か? とりあえずうっすら思ってたが九龍の中で私は完全に猫扱いされているようだった。
まあいい。普段であれば怒りのヘドバンをかますところであるが今の状況でそんな事はしていられないのはわかりきっているので大人しく運搬されつつトイレをしていく。半周が限度と言っていたが体重が更に増えた今、どうやら限度は四半になったようでラムレトとじーちゃんのとこで待機していたマリーさんに引き渡された。
マリーさんに背負ってもらう前にちゃんとラムレトとじーちゃんにより積み上げられた食料を回収。よしよし、魔物共もせっせと解体しているしやはりこのラップで商品購入までいけそうだ。
浜辺で倒れ込んでいる九龍にラムレトとじーちゃんがやんやと言っているのを尻目にマリーさんに背負ってもらいつつ。
「九龍くんが未だかつて見たことないくらい消耗しててウケる。
大丈夫そ?」
「クーぼんの重さで九龍がヤバい。
死にそうな顔色だなオイ」
「…………ぜぇ、これが……介護疲れ、いうヤツか……」
「介護の疲れっていうかシンプルに重量物運搬疲れじゃない?」
「重すぎて動けん人間の介助って介護っていうのか?」
「……同量の神珍緋鉄よりおもてぇアル……」
「ヤバすぎて草」
オリハルコン呼ばわりされている。失礼な!!
「…………そうね、オリハルコンよりも厳しい重さだわ。
九龍の霊的素養は0だもの。物質的重さのみが掛かっているとしてもそれだけでオリハルコンを超えているわ。
けれど、九龍とは逆にわたくしの霧化と蝙蝠化で物質的な重さの方をほぼ0にしても掛かってくる負担は尋常とは思えなくてよ。
わたくしも封印された状態であったなら抱えるのすら無理だったでしょう。
物質的にも霊的にも全ての負荷を受けるラムレトが抱えたならそれだけで死んでしまいそうね。
クーヤ、全てが終わったらバカンスの前にダイエットなさいな。まずは島の外周をマラソンね。その後は水泳よ。食事は間食とジュース厳禁、タンパク質をメインに塩分糖分油分を減らすわ。大豆と海藻類、野菜を蒸し料理にしたものにしてよ」
「エーン!!」
私を蝙蝠化に巻き込みつつマリーさんによりダイエットスケジュールが組まれてしまった。いっぱい悲しい。
残るは半周四半、それまでになんとか過酷なダイエットからの脱走を考えねば!!
「ゲプッ」
最後のコーナーに至っては東北の守りを放棄してでもとなったらしくマリーさんにデカ蝙蝠にされつつ綾音さんの超能力で支えられ、九龍とクロノア君の二人がかりで抱えられるという有様ながらゴールを決めてお腹を撫で擦る。コレ以上は食えないというところまで食い倒れて魔力の解体も充分。
再び海産物に体当たりされた島が大きく揺れる。転がりはしない、が。それでも揺れ方が大きくなっており猶予はそう無いのがわかる。疲労困憊の様子で団子になっている四人はそのままにしておいてムクリと起き上がって本を開いた。
商品名 潮干珠
潮の満ち引きを操る宝珠の片割れ。こちらは潮を引かせ海水を無くす方。
海の中へ落とし物をした貴方に約束されたロマンスを。
問題なく買える。というわけで購入。ボウンと音を立てて現れたのは宝珠というには変な形をした光り輝く代物である。どうやって使うんだろ。手にとって眺めてみるが、取扱説明書も無いのでよくわからん。取り敢えず海辺の方に近寄ってみる。
「おお」
私を中心にしてちゃぽっと面白いように海が引いた。磁石に反発するような動きで私の一定範囲に入らず壁となっている様子は潮の満ち引きというよりも海割りのような感じだが。特に起動の為のスイッチとか呪文とかは無いらしい。露出した砂浜の上であれっとばかりにヒトデが蠢く。これならいける。本を再び開けば残存魔力が表示されていた。予想通り、発動中は魔力を消耗し続けるタイプだ。前に進むと更に海が引いていくが、それに伴い消費量が大きくなっていく。今はまだ食い倒れツアーにより取り込んだ分の解体で間に合っているが……とにかく島の周りから海を引かせて火力担当を自由にせねば。手に持った宝珠を高々と掲げてみる。光が強くなり、海水がどんどん私の周囲から逃げていく。私を中心にして円形範囲で干上がる、だとちょっと困ったがちゃんとターゲットそのものは島に設定出来ているようである程度私の周囲から海水が引いたところで目に見えている島沿岸部全体の方からも徐々に海水が引き始めた。よし、北であるここから真反対の南は効果範囲に入るのにまだ掛かるだろうが、東と西は既に影響が出ているだろう。
ちらっと見た海水の壁の中で海産物が逃げていくのが見えた。………………私のすぐそこまで来ていたらしい。あぶねぇ!!
慄きながらもさっ、さっと気分的に色々な方向に向けて潮干珠を掲げながら枝を振り回す。ぱしゃ、ぱちゃっと私の動きに合わせて波が生き物のように寄ったり伸びたりするのを眺めながらも油断なく。
何せ四人ともちーんとばかりに死んでいるので今の私は無防備なのだ。
暫くそうしてカマキリのような動きで威嚇していたが。
「小娘! ようやった!!」
「全く、とんでもない物だな。完全に神宝の類だろう。
根底から引っくり返す無法だが、味方の側の無法ならばありがたいね」
遠くからクロウディアさんが駆け寄ってくる。手土産なのか海産物をブラドさんが抱えていた。どうやらここからは見えなかったあちらの方まで海水が引き始めたらしい。私が立っている場所から結構な奥の方まで海壁は下がっているがまだまだ海底が見えてくるほどではない。この島は本島である南大陸からそう離れていないし、大陸棚の上であろうから海底までそう距離はないだろう。精々水深200メートルかそこらか。それなのに未だ海底は見えていないということはその程度しかまだ引いていないということでもあるが。しかしあちらの方も場を離れても問題ないと見做せる程度には海水が引いたのだろう。確かにこちらでも浜と海の間に出来た高低差を超えられなくなってきているのか、水陸両用海産物も来ないしな。時折水鉄砲が飛んでくるが。向こうも後方部隊に見張りだけして貰い、この高低差を上がってくるようなのが来たら連絡させるという具合でも充分に対応出来る程度にはなっているとみた。
とりあえずだ、私はブラドさんが持ってきた海産物を絞めて摂取して消化に専念。
二人は揃って海壁の際まで降りて踏み込んでいき何やら釣り道具を使って壁から海産物を釣り上げて私のところへ運搬してくる。壁から釣るというのも変だが海が垂直の壁になっているのだからそうなっているのである。それを三回繰り返したところでじーちゃんとラムレトも合流。
ちなみに四人はまだちーんとしている。
「総司くん見てご覧よ。
悪魔と魔王と異界組最強と人界最強がまとめてやられてるよ。
これがホントの俺ツエーでチート無双ってワケ」
「生徒会長の好きなヤツだな。九龍がピクリとも動かねぇ。クーぼんのカメラあったろ。撮ろうぜ。
それはいいとしてクーぼんは痩せたほうがいいぞぅ。いやさっきよりは痩せたのか?」
「まぁだいぶ使ったから体重は減ったと思うけど。
あと言及するのをやめるのだ。我がボディの新たなる仕様が確定してしまう!!」
今後に差し支えるのでこの仕様は忘れたいのだ!
定期的に掘り返すのをやめろ!!




