海産物食い倒れツアー
ずどん、再び大きな地響きに島が揺れた。
明らかな体当たりの音である。予感は現実になったらしい。地面には着いているが実質浮島に近い巻貝ならひっくり返してしまえばいいやと気付かれたのだ。この程度で島は壊れないだろうが、あの海産物の重量がぶつかりまくれば転がりはするだろう。どうする、どうする。海に潜ってやめさせる、自殺行為に近い。転がされないように上でバランスを取る、グラグラバランスゲームではないのだ。
あわわわとしているとクロノア君が剣を引き抜いてざくざくと海辺に向かって歩き出す。まさかの自殺行為採択らしい。流石に無理がある。海中で剣は振れ、振れ……振れるのか? ダメだ、アンタッチャブルすぎて予測が付かない。とりあえず私を背中に付けたままドボンはやめて欲しい。慌ててぎゅーっと掴んだネジを引っ張って留める。
「クロノア君やめるのだ! もっと安全そうな手段を選ぼう、ダメゼッタイ!」
「………………………………」
了承されたのか、歩みが止まった。しかし剣は手放さず視線は海に向けたままなあたりに未練を感じる。好戦的か? そんな印象は無かったが……いやでもよくよく考えれば出会った頃の天使戦でもいの一番に突っ込んでたな。先ほどもそうだったし。好戦的というよりも誰よりも先に突っ込むのが癖になっているのかもしれない。えーい勇者メンタルめ。剣も取り上げた方がいいだろうか?
悩んでいると背後から砂を踏む重たい音が響いた。
「おお?」
「調子はどうね、……問題なさそうアルな。
聞いてたより怪物だたか。マリーベルが足手まとい言うわけアルよ。
クーヤ、ちと用あるネ。見ての通りの状況アルが本で海底行く手段作れるか?
可能なら火力担当全員分欲しいが」
「なんで全員海に潜る一択なのさ」
火力担当全員分という事は漏れなく全員海中突撃派という事だろう。
なんで来たのかと思いきやあまりにも脳筋が過ぎる。いや本でそういった商品も出せるは出せるであろうが……。よっぽどの商品でなくば浮力と足場は保証出来ないだろうしどう考えても負ける可能性の方が遥かにデカいだろ。戦う手段は無いがとりあえず突撃してみよの精神を感じる。
「そうは言うアルがなぁ……。取れる手段そうないネ。
カグラの方はもうちと掛かるヨ。人魚の歌に加えてカミナギリヤにも連絡とって可能な限り呪文短縮したアルがそれでも呪文の総ワード数は万超えよろし。元々の正式な精霊召喚としては三十人規模で丸一日掛けてやる儀式と考えれば随分と圧縮したほうネ。
どうにか時間稼ぐしかねーのが現状ヨ。
その上であっちに島引っくり返される戦法取られたとなれば潜るしかねーアルが」
「むぅ…………」
脳筋と思ったがちゃんと考えてもうそれぐらいしかないとなっているらしい。困ったな……。その手段では何人か脱落も考えているだろう。それは避けたいのだが。というか、その選択肢を取られるぐらいなら暗黒神ちゃん的には島捨てちゃえばいいじゃんといったところ。勿体ないとはなっているが流石にそこまでではない気がするのだが……。所詮私の抜け殻であるし。ラムレトへの給料としては一度引き渡したのでその後の事は保証外です、というわけにもいかないし別途補填がいるだろうが、損害としてはそちらのほうが軽微である。
「………………………………」
クロノア君が無言で私の唇を指先で塞いだ。よくわからんがダメ出しされたらしい。ダメなのか?
「物への執着がなさすぎるのも困りものネ。
……とは本人が言っても天秤釣り合わねはまだしも努力すら放棄すれば反動こえーアルからなぁ。メルトの借金積み上がりかねねーアル。
よろし、ちと考えるか……」
「む?」
どうやら本格的に何もせずに抜け殻放棄は無いらしい。どうにもならなくなったら悪魔にぶっ壊させようと思ってたのだが。その前に出来るだけ努力はしたいという感じなのだろうか。しかしなぁ。
顎に手を当てて考え込んでしまった九龍を眺めつつ、仕方がないので本を開いてみる。クロノア君の背中にへばりついたままなのでちょっと見づらいが。
えーと、海中活動、海中活動……。やはりあるといえばあるが。活動するだけならば問題ないが、あのレベルの連中との戦いを想定するとどうしても不安が残るラインナップだ。潜水服じゃ戦うのは無理だろう。
三度、島が揺れる。まだひっくり返りそうにはないが……。
「…………………………」
クロノア君の視線を追って海を見やる。荒れた波間の中に幾つかの死骸。潮が満ちてきたのか先ほどよりも浜辺が狭まっている。とは言え、海産物兵士が来るほどではない。
波から距離を取るかのようにクロノア君が数歩だけ下がる。うーん…………。
「………………………………おお!」
手の平を打つ。
波間の死骸をちょっと見てからクロノア君の背中から飛び降りて地獄のわっかを設置。水洗トイレを起動してから作業時間を確認。……まぁまぁ期待出来る。それならば。
「閃いたぞ!!」
「ん。クーヤは追い詰められると閃くタイプアルなぁ」
「我が脳が刺激されるのであるからして!!」
「脳があるかは聞かんアル」
あるのか? ……どうだろう。腕の断面を思い出す。真っ黒で何もなかった。
なんか考えたら怖くなってきたな。考えないでおこう。閃いたので本を再び捲り直す。探す商品はすぐに見つかった。まぁ民話でも神話でも伝説でもよくある型だろうしな。
即ち。
商品名 潮干珠
潮の満ち引きを操る宝珠の片割れ。こちらは潮を引かせ海水を無くす方。
海の中へ落とし物をした貴方に約束されたロマンスを。
「うむ!!」
発想の逆転、潜るのが自殺行為なら陸上を広げればいいじゃないの精神である。今まさに狙われて体当たりされている島の下部までこちらのホーム環境に変質させるのだ。この島周辺の海水を干上がらせて島の全てを露出させる、さすれば海産物達は体当たりは勿論、接近するだけでも難しくなるだろう。先ほどのアンコウのようにゴンブトビームなどはあるだろうが、潜水服着て海中で戦うなどより海底を丸ごと露出させて降りるほうが戦闘難易度は段違いに低い筈だ。クロノア君もビームを剣で処理するバグ挙動していたし、ビーム以外の未知なる攻撃だってあるだろうがクロノア君は勿論他の人達もそれぞれなんとか出来る可能性は普通にある。この島は他の場所よりは黒の魔力も湧いてきているのでマリーさんだって一人で戦っておられるが突破などされていない。ともすれば時間稼ぎどころかこれであれば精霊召喚前に勝利が確定するまである。想定以上にアンタッチャブルだったクロノア君がしれっと皆殺しとか怖いこと言ってたし。今の身体でも本当に一人で出来そうでちょっと怖い。まぁそれはその後のリスクが高いので避けて頂きたいが。出来たとしても身体にも後々響きそうであるし。何よりそうするとここらを精霊と人魚さん達のナワバリに出来ないのでこの海産物との戦いが終わっても他にも居るのであろう他の海域の深海魚に備えて海を干上がらせ続けて火力担当の方々に24時間居座ってもらう事になるし、当然ながらそういう訳にもいかない。ちゃんと最初の予定通り故人であるなんちゃら勇者に言う事聞かせて召喚しましたの体で精霊さんになんとかしてナワバリ化して欲しいところだ。まあどちらにせよ、となればだ。選択肢の幅が広がるなら迷うことはない。
「魔力だ! 私は魔力を所望する!!」
大急ぎで島の外周を回って皆さんが討伐した海産物のエネルギーを回収するのだ。この商品は神宝としてお高めのものである。九龍の食券分を注ぎ込んだとて難しい。だが今ここにはエネルギーのアテが現在進行系で作られているのであるからして。
今より開催されるのは私のチキチキ大食いチャレンジレース、島が引っくり返される前にこの商品が買える魔力を稼ぎ出すのである。魔物の数的にも解体速度は問題ない。とにかく走り回って水洗トイレし続けるのだ。多分だがこの商品、ラーメンタイマーなどと同じく発動し続けるのも魔力をどか食いするだろう。九龍達が私の食料を生み出す、私が食べる。魔物が消化する。そして潮干珠を起動し続ける。自転車操業もいいとこだがこれが一番損害が出ないやり方の筈だ。目指せ損害ゼロ。トイレの範囲は島を覆えるようなものではない。とにかく走って走って走ってとっとこしまくるのである。
フォークとナイフを本で出して高々と掲げる。
「今より海産物食い倒れツアーを始める!!」
「あの看板が伏線なる展開は私も読めなかったアルなぁ……」
「…………………………」
クロノア君が無言で食い倒れツアー会場の看板を手に持つ。準備は万端、このイカ腹がはち切れんばかりになるまで食い尽くしてくれる!




