人魚の海4
「えーと」
クロノア君に持って頂くべくほどほどに……良い感じに……思いながら本を捲るが。
商品名 神殺しの剣
アルティメット終末級ハイパーウルトラエピックレジェンド武器。
「………………」
無言でページを捲る。これを私が買うのは自殺に近くないか? あと冗談抜きに高い。魔王化みたいなレベルの値段を提示してこないで欲しい。
うーん……。
商品名 シリウスの魔剣
星々の煌めきを焼き付けられた世界を七回滅ぼす世界崩壊の剣。
エピック武器。
商品名 封神剣
神々を太極へと返還する為に打たれた人の為の剣。
レジェンダリー武器。
商品名 天魔剣
一つの世界を全て坩堝として生まれた絶界の為の剣。
レジェンダリー武器。
閉じる。こらあかんわ。先ほどは投げ売りの剣をそのまま出したから良かったが……。ちゃんとクロノア君に良い感じのものと想定するとどうしても魔剣神剣霊剣の類しか出てこない。しかもちょっと私に向けられそうな空気があるやつ。
どれもこれも高すぎるし気分的にイヤだ。いやまぁ、もう私の腹は狙って来ないとは思うが。気分は気分である。仕方がないな……ちょっと考えてから一旦既製品を破棄してイチから構築することにした。
多分だが私がぶっ刺されたのが世界に染み付いているのか、クロノア君の武器というとどう足掻いても神殺し系が出てきてしまうのだろう。クロノア君にそういった武器を私が渡すのは流石にとんでもない嫌がらせになるというくらいはわかる。どういう反応を見せるのか未知の領域だ。
というわけで私が考えた良い感じの武器を制作するものとする。エッサホイサと腿を交互に上げつつ脳内3D設計。じーちゃんとは違って剣の形は両刃だろう。長さ、重さ、柄、鍔、この辺りはあの時に使用していた物の流用でいいか。変な効果は持たせないほうがいいと思うが、職人としては長持ちはさせたいところ。長く使える道具こそ最高のものなのである。なので切れ味と頑丈さに数値を振っておく。それ以外にも細かな調整をして……ふむ、簡単設計であるがこんなもんであろう。特殊な素材、能力、そういったオプションは一切無し。お値段もそこそこである。
だがしかし私の手間という点に於いてお値段以上間違いなしと言えよう。
商品名 くろいけん
暗黒神様お手製の剣。
コモン武器。
「うむうむ」
ぷりりと排出。真っ黒で派手な装飾もないコモン武器とはいえ、私のお手製はお手製である。職人としてサインも入れておこう。浜辺に真っ直ぐに置いて刃の根本あたりを指でなぞって位置決めから。
本を片手に追加加工。独り、眠る、静謐の、夜、と。そのまま文字だと彩りがないのでオシャレ仕上げなサインとしている。角度によって赤と翠、紫の遊色が薄く乗る漆黒の刀身はコモン武器の割に長くスキンとしても使って貰えそうなシンプルでありながら飽きのこないデザインだ。スキン専用見た目武器ともいう。
なかなかずっしりとした剣を両手でよいせと持ち上げてと。
「これで頼むぞクロノア君」
「……………………」
無言のままに剣を受け取ったクロノア君は重さを確かめるようにして軽く上げ下げしてから握りを確認し、やがて問題なしと判断したのかそのまま片手持ちでだらりと剣先を下に向けた。……そういえば鞘が無いな。なんか出した方がいいか?
水着で剥き身の刀身そのまま持ち歩くのはクロノア君がサイコパスの快楽連続殺人鬼の誹りを受けかねない。悩んでいる間にクロノア君は手荷物からさっと布を出してくるくると剣を巻きあげ、そのまま小脇に抱えてしまった。それはそれで歩きにくい気もするが……。まぁでも鞘はどこにでも売っている代物であろうしクロノア君が自分で使いやすいものを選んだ方が良いか。縦か横にか背中なり腰なりなんなり剣を下げる定位置というものもあるであろうし。ここは手を出さぬが職人というものであろう。
ちらっとあちらを見る。事前確認も終わったようで後は人魚さんの仕事待ちとなっているようだ。
異界組もあちこちにバラけて行って各々仕事を済ませてくるつもりのようであるし、本格的な戦闘準備フェーズということであろう。私達は準備万端なので特にすることもない。
足踏みをやめてよいせと座る。人魚さんとカグラを待ってからが私の仕事であるからしてそれまで英気を養わねば。しかしダイエットも忘れてはいけない。なのでバナナミルク味のプロテインを吸い上げる。隣にクロノア君が座ってきたのでお裾分けしつつ。膝を立てて座り込み、剣を抱えたままバナナミルクプロテインを飲む姿は物静かなものである。物質界最強だというのに。まぁだからといって突然オラつかれても困るが。想像つかないし。
そのまま揃ってなんとなく人魚さん達を眺めているとクロウディアさんがちらりとこちらを見てから、海へ視線を向けてもう一度こちらを見た。見事な二度見である。
「マリー、少し目を離しただけで小娘がまたなんぞやっておるが」
「…………まぁ、お目付け役を不在にしたのが悪かったということでしょう。
クロノア、その手には何を持っているのかしら」
「ちょっと保険としてクロノア君に剣をあげましたぁ」
「………………………………」
マリーさんの方へ向けて僅かに剣を掲げたクロノア君は特に何を言うでもなく再び剣を抱え込んだ。
「…………万が一、あの神殺しの剣でも持っていればどうしてくれようかと思うたが。
流石にそういうわけでもないようじゃの。ならばよいわ。
見たところ神剣魔剣の類でも無し、常軌を逸した代物というわけでもないようじゃ。
全く……ブラドを呼び戻して小娘に付けたほうがいいのではないかえ?
クロノアでは何のブレーキにもならんわ。……マリー? どうした?」
「…………クーヤ?
その剣はどうしたの?」
「ちょっちょっと作ったのです。暗黒神ちゃん制作、その名もくろいけん」
ぴすぴーす。マリーさん達に向かってダブルピースを向けてアピールする。暗黒神ちゃんたら良い仕事をしましたわーい!!
「………………神殺しの剣より余程この世に在らざる性質の物に見えるけれど。
クロウディア、お前は相変わらず興味の無い方面に弱いわね。武器を持たぬ魔術師ならではかしら。ちゃんと見なさいな。
クーヤが創造し、クーヤの名が彫られた、何の変哲もなく、何の特殊効果もない、ただの剣よ。
わたくし、正直に言って今すぐにホテルに帰りたいくらいだわ」
「………………なるほどのう。なるほど。
よし、見なかった事にしておくぞよ。魔術師だからこそ堪えられんぞ。物質化エーテルの実証をされた気分じゃ。
……ふん、今だけじゃ。余は何れ必ずや自力で辿り着く」
「相反する事象、矛盾した調和。
凍りついた炎、沈殿する風、実在と不在、影の中の光、灯の中の闇。汝証明せよ、懐かしい答えなき矛盾問題ね。いいでしょう。
それで?
クロノア。今は剣を取るということでいいのかしら。それならこちらも戦い方を変えるわ。
剣を持つのなら貴方は自由に動いた方がいいでしょう。わたくし達は足手纏いになる。
貴方の動きはクーヤの保護が最優先と見ていいのかしら」
「……………………………………」
僅かにこくりと頷いたクロノア君が剣の柄に手を掛ける。立ち塞がる者は全て断つとちょっと顔に書いてある気がした。
「……いや、なんかほどほどで頼みます……?」
そんな悲壮というか、重い覚悟は求めていないのでそのツギハギボディが傷まない程度でやってほしい。実際、勇者パワー全力でなんてそう保たない身体であろうしあくまで保険なのだ。程々で、程々で!
切り札がクロノア君で奥の手は悪魔共、どちらも切らないに越したことはないエースカードである。
ちょっと早まっただろうか、なんだかドキンコドキンコと暗黒ハートが脈打ち始めた。深海の大星雲とかいうのがもし暴れ出したら場合によっては私が踏みつける前に命脈が断たれないか?
ちょっぴり不安を抱えつつも立ち上がって人魚さんの盥の前に座り直す。深海の大星雲の無事を祈って揉み手をしつつ。
よし、今から入れる保険を探そう。




