夏だ!海だ!戦争だ!!3
というわけで夜。
[海産物食い倒れツアー会場]
あの調子だと食われるのはこっちじゃないか、という疑問は置いておいて、デカデカと書かれた看板が突き立てられた浜辺で臨時作戦会議という名の休憩となった。満天の星空が瞬く中での大人数でのキャンプというのはこれはこれで風情があるものだ。互いを見失う程度ではない距離感で寝床を作ったり夕食を作ったりと受付嬢達や冒険者達が各々で励んでいる海辺はナカナカにゆっくり、しっとりとした非日常感がある。状況には一切合切全く風情はないが。満天の星空だって天使の群れである。
キャンプファイアーとばかりに火の粉を上げる焚き火に串に刺した魚を翳しながら既に焼き上がっている巻貝を回収。湯気を立てるタコ足をはふはふとしつつも氷水に巻貝を放り込んでぎゅっぎゅと身を引き締めてやった。これでコリコリにしてくれるわ。異界組に釣られて壊滅的メシマズ化していたが、私だって本来はこれぐらい出来る。この後でアレンジしなければいい話だ。
「ん」
「あっ」
焼き上げた巻貝が九龍に奪われた。何をする!!
猛抗議と共に唸りを上げたいが、これらの食材はあの古代海底人が帰っていったばかりの海というのを一切気にすることなく九龍が素潜り猟で取ってきたブツなので文句も言いにくい。本も使っていないし私は完全に九龍奢りのタダメシなのだ。まぁこの状況下で魔力の無駄遣いは出来ないので仕方がないことではあるが。
砂浜に寝っ転がりつつウチワでバタバタと仰いで寛いでいる様子のラムレトがさてと軽く声を上げた。
「今のところは島に上陸してくる気配もないけどねぇ。九龍くんとしてはどの辺を落としどころにする感じだい?」
「どう見ても根絶やし出来る生物でもねーアルからなぁ。かと言って会話出来る雰囲気でもなし。
島明け渡す論外なればどうにかする以外はねーとしても攻撃手段もなし。
さて、どうするか……」
「まぁ会話が出来てもエルフくん達みたいなパターンもあるけどね。
あれはあれで困るけど。総司くんはどうだい?」
「儂に聞くな。斬ると決めたなら言え。そうじゃねぇなら言わんでいい」
焚き火で蛸足を炙りつつじーちゃんが拗ねたように言う。何故か拗ねている。酒がないからか?
じーちゃんはただいま禁煙禁酒禁温泉の身である。かわいそう。それにしても斬る以外はぶん投げなあたりが流石のワースト1位の貫禄である。斬る以外に何もしたくない感が全身から漂っていた。
「まぁ耳長に限らず、どーにもお上ぶった連中は好きになれね。価値観違うわかっちゃいるがさりとて合わせてやる義理も無し、それを思えばあのカイテージンはまだマシよろし。
縄張り争いならただの殴り合いで済むネ」
「初手殴り合いタイプって負けたら従うパターン多いしねぇ。下剋上狙いもしてくるけど。
試練タイプとお使いタイプはまぁ予後が悪いこと悪いこと。
報酬さえ払うならどこからでもなんだろうが誰だろうがやる、とは確かに言ったけど勇者五人と戦って追い払ってその報酬内容が偉い人に謁見できてお褒めの言葉を賜われるでそれはまぁ、譲って良いとして。
そこからお偉い人に失礼の無いようにそのマナーも弁えぬ有様からお目通りに能うまでみっちりとシゴキが必要ですねで拘束軟禁された挙句に毎日毎日ビシバシ鞭でしばかれながら頭を下げさせられて教育的指導コースって今考えても何が起こったのわからないよ。いやほんとなんだったんだろうね?
何が起きたのアレ?」
「知らね。腹立つだったは確かヨ。
葉に包んだ豆くれた鳥一家のほうが好感度高いネ」
「あー、あったなぁそんなの。
もうんなもん良いから帰るっつったら大挙して押し寄せて我らが恩知らずと誹られますからそれは困りますこの国の為を思うのならどうかお考え直しをとか言ってきたなァ。
あのヒスババアまだ生きてんじゃろか」
「ああいうのは長生きするヨ。
思い出したら腹立ってきたよろし。
よろしいですか。まずは歩き方。そして立ち方、礼の仕方に王女へ奉る口上、退室、そのどれもが最高レベルのものとなれるように努力なさい。失礼など絶対にあってはなりません。
と言ってもその方らは唯の下民、ここに出入りなどすることは今後ありません。ですから謁見の際の礼儀、それのみです。どうしてこれだけの事が出来ないのですか。やる気があるのですか。
こちらへ戻りなさい。貴方方にはもっと厳しい教育が必要ね?」
九龍がパン、パンと何かを持ったような仕草で手の平を打ちながらの棒読みでひすばばあとやらの台詞を復唱してみせる。聞くだけでイヤになる内容である。
「言ってた言ってた!!
うわ、ほんと細かいとこまで思い出してきた。最悪だよ夢に見そぉ。
あの鞭って絶対に馬用の鞭だったよね」
「ありゃ単にあのヒスババアの趣味じゃろ。儂らの中でも明らかに差を付けてたぞ。オズウェルが特にいびられとったな。ジョーカーはうちの息子扱いだったが。
結局一週間程度で逃げたけどあの金切り声が暫く耳に残っちまったわい」
「大変だなお前ら」
ギルドが大きくなる前には色々あったらしい。ツラの良いらしい老人達なりの苦労というヤツか。私だったら1日で暴れ散らしていたであろう。確かにそんなのより鳥が集めてきた葉っぱでくるんだ豆の方がよっぽど嬉しいだろうな。ぷりちーであろうし。
しみじみと言いながら巻貝は諦めてエビを焚き火に放り込む。……じーちゃんがめっちゃ見ている。狙われている。おのれ、ホタテを投下。ラムレトこっち見んな。クソッ、どれもこれも狙われている。私が焼けるようになったからか。私も食う専門に回った方が良いなこれ。このメンツで焼く係では搾取されて終わりだ。
周囲を見回す。焼く係を勧誘するのだ。これでは私が永遠に何も食えない。ブラドさんが居たら速攻で焼く係を押し付けたのだが……。残念ながら島はどこまで行っても平安京なので防御力は0だ。なので十名規模でグループを作り互いにフォローしあえる距離を維持しつつ島の全周をカバーするように各々キャンプがてらに拠点を定めて監視と防衛をしている。今頃それぞれこちらと同じようにあーでもないこーでもないとしているだろう。このグループは異界組というわけでブラドさん達の荒野組は別キャンプだ。
ちなみに悪魔連中はミニアニマル組はこのボディだと無理、との申告があったので死にたがりなあいつらが無茶をしないようにすべくアニマル組は帰還。後はいつメンであるがどうやらあの古代海底人、冗談抜きで神レベルがゴロゴロらしくルイスとメロウダリアは武闘派ではないので露払いが無傷での限界、あの脳筋羊なら神相手でも全然ヘーキヘーキと言われまくっていたアスタレルは本人もおいくらでも? というツラであったが悪魔パゥワァ全開は困るのでこの世界でもちゃんと有り得そうな範囲にしろと言い置いて島の中心であるホテルで待機である。あの古代海底人をどっか遠くの次元にやって余所でやってくるならいいよとも言ったがそれはイヤですでツーンとしていた。遠くに行くのがイヤらしい。ワガママな。
……しかし、どう考えてもギルド所有の島であの規模の軍団が相手というのが一番面倒な部分だな。あの規模で、神に近いような軍団と正面切って戦う、ギルドメンバーだけではどう考えても厳しいだろう。いや、そう出来るのならばそれが多分一番問題ないのだが。だがしかしそれでは私の貢献度が低すぎてリゾート地では一生海の家の店員ですにされそうだな。まぁそれはとにかくだ、ギルドの所有する島であの大群と暗黒神ちゃん丸出しで戦うとなると後で困るのだ。ハルマゲドンにはまだまだ早い。
ギルドと暗黒神という存在は無関係である、最低限それを通さねばお話にならない。いかつい筋肉ダルマヒゲむくじゃらの暗黒神おっさんがノシノシと一人で叛逆して回っている状態であり、あくまでギルドはその結果としての世界の変化を上手くせしめて乗りこなしているだけと見せなければならないわけだが……。つまり、どう考えても今の島内メンバーでなんとかして頂くしかない。
うーん……。
「九龍、お前も魔王にならないか?」
「私を魔王にしてどうするネ。魔法の素養は一切無いヨ。
魔力を持て余して終わりよろし」
「脳筋爺め!」
まぁそもそも誰かを魔王に出来る程の魔力は私も全く貯まっていないのだが。
装備をなんか買い揃えてなんとか撃退して貰えるだろうか? 島内メンバー総出で魔力集めに走ってもらう事になりそうだな。いや、神託を引っこ抜けばいいんだから時間稼ぎして貰う事になるのか? どっちにしろ本末転倒感があるな。というかそれならクロノア君が居るんだからクロノア君に良い剣を与えて全部切ってもらった方が早い気もしてきたな。
「よし、クロノア君に全てを薙ぎ払って貰おう」
「え? 彼そんな芸当が出来る感じかい?」
ラムレトが意外そうな声を上げた。まぁそう言われると……?
考えてみれば確かにクロノア君のアンタッチャブルさを思えば現状のクロノア君、だいぶ大人しいな。それに、剣は持たずに基本的に素手だし殴るか蹴るかしかしていない。
ツギハギだらけであるし実はだいぶ弱体化していたりするのだろうか。有り得そうだ。いやでも海産物ぐらいは纏めて両断出来そうなものだが。
「全盛期の私を剣でぶった切ってきた物質界始まって以来の唯一無二のデンジャラスヒューマンだし……。
びっくりしすぎて私が生まれて初めて個として認識してしまったぐらいなのだぞ。海産物ぐらい捌いてくれるに違いない」
「前のクーぼんを儂は知らん。だが、この世界を見てりゃあとんでもねぇ神様だったっつーのはわかっちょる。
………………それを、剣でか?」
じーちゃんがギラリと目を光らせた。ン、余計な話をしたかもしれん。クロノア君許すがよい。
よし、話を逸らそう。無かったことにするのだ。えーと……。
「閃いた。九龍がなんかあの精霊使い捕まえた的な事にするって言ってた気がするし。
なんとかものすごい精霊召喚して全部ぶっ飛ばしてしまえ!!
そいつを使ったことにするのだ!!」
「クーヤくんって追い詰められると絶妙な案を出してくるよねぇ……」
「ま、この環境下なら実現出来る確率としても現実的なラインであろ。
クロイツマインの四精霊も見損なったアル。これを機に花火でも見るヨ」
「派手な戦争になりそうだねぇ!!」
「………………」
手を叩いて喜ぶ冥界神にこいつ実は元の世界では悪神だったのでは疑惑が湧いてきているのだが。
…………どうなんだろう?




