夏だ!海だ!戦争だ!!4
「現れよ精霊!!」
両手を掲げて天に向かって高々と訴えた。
ボウン、間抜けな音と共に煙が上がる。もうもうと上がる煙がやがて晴れ、その奥に居たものは……。
「アッハァ~ン」
「帰れ」
セクシーなポーズで際どい服を着たアニマルをしっしと追い出した。誰得だというのだ。ケモナーか?
エーンと泣きながら走り去っていくケモノが既にうず高く積み上がっているケモ山に突っ込んでシクシクと泣いている。揃いも揃ってエーンと泣いてうるさいヤツらだ。
これで通算8回目となる召喚だが、頭から尻までセクシーポーズしたアニマルしか出てきやしない。
暗黒神様は精霊召喚なんてダメダメとうるさかったのを無視しての敢行となるがそろそろ諦めた方がいいだろうか? 私の召喚に横入りしているのか何なのか、悪魔しか出てこないのだ。邪魔をするんじゃない。よっぽど嫌なのか言い聞かせたところで聞きやしないのだ。流石にそろそろ魔法陣を書くのも疲れてきている。なんせ一度使用すると魔法陣は使えなくなってしまうのだ。精霊召喚講師をしているフィリアもこれは精霊召喚における揺らがぬ法則だと言っていた。刺繍だろうが鉄板に焼き付けようがなんだろうが何でやってもダメらしい。使い回しは絶対に出来ないんだとか。おかげで召喚を主な手段として行使するタイプの魔法使いは砂が入った専用の箱を装備として持つのが一般的らしい。まぁ砂なら書いて消し書いて消し出来るしな。
実に面倒な法則である。まぁそういうもんだと思うしかないのだろうが。しょうがない、ちょいと休憩がてらに余所の進捗を眺めて見るとしよう。というわけで周囲散策としてとっとこ走る。
ざく、ざくと後ろをクロノア君が着いてくるのが多少気になるが。なんか私に思うところがあるらしい。まぁいいけども。そして悪魔共は気に食わないのかやたらとクロノア君を敵視している。無手のクロノア君相手だとアニマル姿であってもフェアじゃないだろと思ったのでクロノア君にはその辺の冒険者のおっさんが持ってるようなちゃんと常識的なレベルの剣を渡しておいたが。軽くいなすようにしながら飛び掛かってくるアニマル共をボインボインと跳ね返していくのを見てマリーさんとブラドさんがちょっと驚いていた。よくわからんがクロノア君は実質剣を捨てていたようなものらしい。クロノア君の技量で使える剣を持ってはいても絶対に剣としては扱うことは無く素手だったそうな。神剣紅薔薇もまともに使ったのは最後の一度きり。棒振りレベルとは言え剣と呼べる物を武器として扱っている事がそもそも驚きの行動だったようだ。なんか剣を振る事に対してかなり重めの制約を定めているらしい。じーちゃんがちょっくら斬り合ってみようよ~首が飛んでも恨みっこなしじゃからと言っていたが無言で首を振っていた。……いやそれは普通か。
そして良いようにやられていた悪魔共はハンカチを噛み締めてキィーッと叫んでいた。お前ら弱いなと思わず口にしたらだってだって暗黒神様が負けちゃった人間に勝っちゃったら僕ら死んじゃうと泣いていた。その辺どうやら色々あるらしい。
ま、そんなのは私にとってどうでもいい事だ。そんな事より精霊さん達を拝まねば。まずはどうせ失敗か碌でもない精霊さんを呼んでいると確定している異界組を眺めてみる。
「………………」
「………………ふわぁぁあ~~~」
「………………んがっ」
全員完全に全てを諦めていた。ラムレトはまだなんとか起きているようだが九龍とじーちゃんは普通に寝ている。一度は挑戦したらしく魔法陣が書いてあるが……。
「なにこれ?」
持ち上げてみる。いや、聞くまでもなく召喚されたのであろうブツであるが……。
セクシーポーズの大根におっぱいが実っている芋、イチモツついた人参。小学生が喜びそうなものがそこにあった。小学生メンタルすぎて小学生向けのが召喚されたのだろう。というかこれ精霊じゃないだろ。拒否られてこれを送りつけられたのか。うーん、まさしくけんもほろろ。
生徒会長であればなんとなく精霊さんに……まぁ変なの限定と注釈がつくがそれなりに引っ掛けそうな印象あるが。こいつらではこんなものだろう。それぞれの腕の中にそれぞれの野菜を入れておく。写真も撮っておいて後で売ろう。これは多分だが冒険者のお嬢さん達が喜ぶ写真だな。夢系らしい。よくわからんが。ギルドは腐ったお嬢さんと夢見るお嬢さんと男女カプお嬢さんの勢力に分かれて混迷を極めているのだ。
よし、別のとこに行くか。
ちなみに今回の作戦における本命はカグラである。マリーさんも前にそうおっしゃっていたし、フィリアやクロウディアさん的にもマリーさんと同意見らしい。ホテルから速攻引きずり出されて精霊召喚のイロハを教え込まれていた。ホテルで爆睡していたのでまたしても何も知らないカグラ状態だが諦めの境地なのかなすがままで魔法陣を書かされていた。身体が身体なので未だに一つも書き上げられていないが。ああして一生を女性の尻に敷かれるんだろうな感が溢れているヤツである。
とはいってもだ。世の中は何が起こるかわからないものだ。カグラではなく別の人がとんでもないものを召喚する可能性だってまだまだ残されている。私としてはサメ精霊を誰かが召喚することを期待しているのだが……。シャークトルネードとかセブンヘッドシャークとかシャークゾンビーズとかシャークゴーストとか案山子シャークオン・ザ・ビーチとか面白い事になるかもしれないしな。海産物との戦いがあることを思えばラストエイリアンシャークVSエジプトキングオクトパス~最後の7日間~すら有り得る。見ごたえバッチリであることが今から確信できる。ポップコーンとコーラだって必要になるだろう。場合によっては続編のみならずリベンジとかリターンとか果てはパチモンまで出る。ワクワクしてきたな!
しめしめとしながら召喚された精霊さん達を眺める。見渡した限りでは私が喜ぶような変な精霊は居ない。フィリアが召喚していたような精霊さん達と似たような感じだ。ふむ、こうやって色々な精霊さん達を見比べられる状態になってみるとどうやら形がはっきりしている方が強いようである。まぁ力の強さは存在強度的な物に直結するからな。掠れた幽霊より実体と見紛う幽霊の方が怨霊度が高いというわけだ。
ふよふよと浮かぶ精霊さんをつっつき回して嫌がられつつ枝を振り回して練り歩く。さて、今のところ海産物と渡り合えそうなのは召喚されていないようだが……。夜襲は無いようだが日が昇ればわからない。時間が掛かって良いことがあるとも思われないのでタイムアタックで数撃ちゃ当たる、ホテルからも総出で出てきて浜辺に魔法陣を黙々と書いて召喚ガチャに勤しんでいる。スペースにも限度があるので人員追加はしていないがあまりにも成果が出ないのであればユグドラシルか自由都市あたりから入れ替えのように素養がありそうなのが連れてこられるだろう。どうなるやら。
波打ち際の方に近寄って遠くを眺めてみる。やはり海産物の姿はない。本当に夜は動かないのかもしれないな。
「……む?」
波の中に蒼い光。夜光虫だろうか?
それにしては一部分だけだが。ちらりと後ろを振り返ってみる。クロノア君ヨシ。光っているところにとっとこしてみる。うーん……魔力的な物のようだ。なんだろうか?
よく見ると沖合に向かって道のようになって光っている。私の横に立ったクロノア君が無言で剣を取った。宇宙最強のお守り来たな……。全力出すと身体がバラけそうなのはともかく。
見た目の印象の話だが危険は無さそうなので手を突っ込んでバチャバチャとかきまぜてみた。ぶわっと光が散った。おお、面白いな。
かき混ぜる度に何か、波紋のように沖合へ向かって強い光が流れてゆく。ふむ……どこかへ向かう信号のような感じがするが……?
釣り、のような感覚を受ける。こちらが食いつくのを待っていたような。私は今、浮きを引っ張ったのだ。
ちゃぷ、ちゃぷ波の音が響く夜の中で無言のままに沖合を眺めて暫く。夜の海を静かに泳いでくるものが在った。波間に虹色の光がちらちらと見える。やがて淡い月色の光が少しばかり離れた場所に浮き上がって静止した。
「おお……?」
こちらを伺うように優美に揺蕩うヒレが砂浜の上を滑る。多分だが、あんな場所から姿を見せて泳いでいるのはわざとだろう。何せクロノア君が剣を鳴らすという威嚇をしたので。
「人魚さんだ」
ゆるりと浜へ身体を乗り出したのは、いつかの港で異文化交流をした人魚さんだった。
どうやらこちらに釣り糸を垂らしていたのは人魚族だったらしい。海産物と仲間とも思えないし、かなり危険だったのではないだろうか。勇気が溢れている人魚さんである。しかもよく見たら一番偉い感じだったプリンセスではないか。これがお転婆姫ってヤツだろうか。
取り敢えず来訪してきてくれたらしいお礼としてウェルカムドリンクを渡しておこう。気が向いた時に飲むがよい。
ストローを物珍しげにしている。飲み方がわからないのかもしれない。いや液体なんか飲む文化があるわけないな。同じドリンクを手に持ってちゅーっと吸い上げてみる。これでわかるだろうか。
不思議そうにしていたが同じ様にストローを咥えて吸い上げてみせた。口の中で反芻するようにして転がしている。気に入ったのか気に入ってないのかわからんな。単にまだ飲み物の好みがわからないのかもしれないが。まぁまた吸い上げているので悪くはないんだろう。うむうむ。
「クーヤさん?
どうしましたの?」
「ん……なんだフィリアか……」
「なんだとはなんですの!! 失礼ですわね!!」
「どーどー!!」
一瞬で瞬間湯沸かし器のようにプリプリし始めた。全く実に大人げない聖女である。




