おいでませスパ&リゾート地ドリームランドへ3
突っ伏したまま寝ている温泉にも入らなかったブラドさんには回数券をそっと差し入れつつ近寄らないようにはしておく。犬臭さが二倍、いや、三倍はあるのだ。
マリーさんとクロウディアさんはまだ食堂だろうか。カグラとフィリアは多分仮眠中だな。回数券をいっぱい置いておこう。おじさんは……まぁ無理か。見舞いには行ったが顔に掛けられた白い布が不自然にへこんでいたので覗き見る勇気は出なかった。ウルトとクロノアくんは行方不明だな。探索に出かけているのかもしれない。食料調達とかもあるだろうし。そういえばクロノアくんは私に用事があるらしかったが……。トンネルが出来たのなら移動はほぼ自由になるのだしリゾートの方で会うだろう。じーちゃんも準備してくらぁとギルドを出ていったのでやることはもうない。ヨシ。
「というわけで私はホテルでヌクヌク過ごさせてもらう!!
海なんかで遊べるか!!」
「はーい、じゃあ海に行こうねぇ~」
「蟹も食えて魚も食える。差し引きゼロでレッツラゴーするヨ」
「ギャボーッ!!」
哀れ、私は動物病院へ連行される犬猫のように運搬されてゆく。蟹も魚もモンスターだろ!
だがしかし現実は無情。私の抵抗をものともせずに二人は進んでいく。トンネルに飛び込んでパイプに着地し、ふと九龍が声を上げた。
「なんぞおるね」
「商魂たくましいねぇ」
「ム?」
暴れるのをやめて二人が視線を向ける方向へ顔を向ける。……なんか店があるな。模造のヤシの木が立ち、土産でよくあるペナントが沢山飾られていて派手な色合いの小さな幟が鈴なりに並んでいる。古典的な土産物屋って感じだ。取り敢えず近寄ってみる。
「何してるのさ」
そして当然ながら店番をしているのはアニマル姿の悪魔であった。付近の通路も特に破損などしてないあたり、わざわざ一度外に出てトンネルから入ったのか?
山羊と七頭ケモと白狐、ようするにメンディスと天陽さんに……七頭ケモを見やる。フリウリリネリア、変な名前だな。頭が七つもあるのに名前は一つらしい。
「あっ!
暗黒神様いらっしゃ~い!」
「キター!! 暗黒神たまならバーゲンセールわのよ!
たくさん買って行ってほちいのぉ!!」
「ウンム、暗黒神殿参ったか。マママ、折角じゃからの、妾達も商売の一つもしてみむとてするなり。
どうじゃ? どうじゃ? これなんぞ妾の自信作なんじゃが!」
もちもちとした狐姿の天陽さんが小さなケモアームで指したのは謎のオブジェである。ゼンエイテキアートにしてインフルエンザの時に見る夢って感じだ。手作りなのだろうか。
お値段は破格の50シリン。悪魔的にもこれで売れれば御の字みたいな投げやり感がある値付けだった。しかも何度か書き直したようで、うっすらとマイナスの字があった形跡すらある。まぁ気持ちはわかるオブジェだが。
期待に満ち満ちた眼差しがこちらを見つめている。う~ん……流れ星のようなキラキラとした光がそのつぶらなおめめの中で踊っているように見える程に期待と希望に煌めいている。私ですらこれを無視するのは胸が痛むのが目に見えていた。なんという極悪さ。商売人として強すぎないか?
「どうじゃ? どうじゃ?」
もちもちボディをくねらせて尻尾を全力で振って狐というか犬みたいな状態で見上げてくる。まるでエビフライ狐だ。
「………………」
「負けててウケる」
黙ってがま口財布をパカリとしていた。これは勝てないだろ。無視できるのは絶対零度の鉄の王女と冷酷無比な氷の公爵くらいなものだ。飛び跳ねて喜び勇んでオブジェを丁寧にラッピングしていく天陽さんを待ちつつ品揃えを見てみる。砂遊びセットとな。アロハシャツもある。
「水着だ。買っておこうかな。九龍くんも買っとくかい?」
「まぁんなもん持ってねーアルからな。
水鉄砲、ビーチボール、サーフボード。これは大物取り寄せ用のカタログか?
完全に狙い撃ち品揃えアルが」
「そりゃね~!
今はまぁボクらだけだけど、そのうちこの通路を土産物屋で埋め尽くそうかなって!
悪魔の露天通りってどう? 面白そぉだよねぇ~」
「いっぱいお金を稼ぐのぉ~!
暗黒神たま、あたちたち頑張りゅ!!」
わちゃわちゃと交互に飛び跳ねている。なんかこういうおもちゃっぽいな。押し車みたいなヤツで進むと出たり引っ込んだりするやつだ。
「ん?
このカタログの最後の更に一番下にある激裏ってなんだい?」
「それはねぇ、知る人ぞ知る合言葉を言うことでお出し出来る裏サイトのカタログだね。
あとキリ番制もあるよぉ!」
「キリバン……?」
「裏……?」
「あぁ、生徒会長はもう個人サイト世代じゃないから……」
「じぇねれーしょんぎゃっぷとかいうヤツじゃのう、オニイチャンよ」
「貴女は253人目の夢に囚われた堕天使……管理人について……めくるめく小説の世界……失われた画廊(工事中)……100の質問……BBS……別の世界へ旅立つ……」
「黒杯が書いてたプロフィール読み上げてあげよっか?
ボクしっかり覚えててさぁ……星とかキャラの突っ込みとかカッコ爆とか色々ついてたよね?
友人には腹黒って言われますミ☆(暗黒微笑)って感じのでさぁ」
「やめてぇ!!
暗黒神たまぁ!! 黒山羊さんがいじめるのぉ!!
自分だって黒地に蛍光色の文字に王冠とか羽根とかのデザインだったくちぇに!! 小説の最後に薄い色の明朝体でタイトルが背景に大きく書かれてたのぉ!!
自分とキャラの座談会形式どくはきねっとまなーだったでっちょ!!」
「あっ! そういう事ばっかり覚えててこのこのぉ~!!」
2匹が短い手足でポカスカしだした。取っ組み合いによりテーブルががたがたと揺れる。
天陽さんは隣で我関せずとばかりに揺れるテーブルの上で耳の裏をカカカカと掻いているが。
「元気だなお前ら」
ようするに例の本みたいなものをひっそり取り扱っているのだろう。まぁ程々に好きにしろと言った手前、止めはしないが。会話でなんとなく察したのか二人も突っ込むのはやめたようだ。この露天通りとやら、その内にどこぞの即売会になりそうだな。まぁ賑わうのはいいことだ。
ふーむ、浮き輪は私も買っておくか。水着はいつだったか買っておいたデビルン水着があるな。どこにやったのかは忘れたが悪魔がどっかに仕舞っているだろう。私の服の類は基本的に悪魔がどっかに仕舞っているのだ。私が放置しているのをまめまめしく回収しているともいう。
他の商品を手にとってみる。ビーチボール、それよりは砂遊びセットがいいな。磯遊びがしたいのだ。でっかいハマグリをとってバーベキューにしてやる。あとはサンバイザーも買っとくか。眩しくはないが雰囲気出るので。
「こんなもんだな」
ラッピングされたオブジェも受け取って天陽さんにお金を支払ってレジ袋を受け取る。袋詰めはセルフらしい。まぁそのミニマムアニマル姿では無理だろう。ラッピングは出来るようだが。しかし、手ぶらで来てしまったので有料紙袋を買う羽目になってしまった。こんなところに良い感じの露天を出しているのが悪い。商売上手な奴らだ。
「僕もこれぐらいでいいかな。九龍くんはどうだい」
「よろし。こんなもんアルな」
「なぁんで金チェーンのネックレスとオラオラアロハシャツ買ってくれないのかなぁ。
サングラスもあるのにぃ~」
「チャラ男セットもありゅのに!
普通の買い物でちゅまんない!!」
「何を買わせよしとるネ。いらんアル」
「じゃあおまけで付けとくねぇ~、毎度ありぃ~!!」
「強制じゃねーアルか」
「またのご利用お待ちちてりゅのぉ!!」
「観光地のお値段でまぁまぁ使わされちゃった。いいけどね。
ていうかこれ結構穴場じゃない?
スペースもっと欲しいかも。ブルドラ支部に行った時にほんと実感したけど真夏から真冬ってあるし必要なものを買えるのは便利だよ。ずっと暑い土地に冬物なんて取り扱いないわけだし。
クーヤくん、ショバ代もちゃんと払うからトンネル内部の一部をレンタルスペースにしない?」
「まぁいいけど」
というか悪魔が既に勝手に陣取っているのだから別にショバ代はいらんが。
「タダにしちゃうと不公平になっちゃうからね。迷惑を掛けたくもないし。
えーと……クーヤくんはそういうのやりたがらないのは目に見えてるし……。
悪魔くん達的にはどうだい?」
「ダッル」
「ファッキュンなの!」
「妾は金銭感覚がないんじゃ!」
アニマル共はブーブーとブーイングを上げている。めんどくさいらしい。
「仕方がないな……。
じゃあ私がなんか適当にやるので適当にレンタルするのだ」
とにかく通行の邪魔にならない程度のスペースを確保してその中で線引いて区切って、それぞれ値段をつければいいだろう。
「ンギーーーッ!!」
「ヤァーーッ!!!」
メンディスと、……長いからフリウでいいか、フリウが二匹が耳を劈くような叫び声を上げてどこからか台帳を取り出して猛烈なスピードでスペース配置計画を立て始めた。どうやら悪魔の方でやるらしい。よくわからんがやる気がみなぎってきたようだ。
「おお、この二匹が自分から積極的にこのような細かな数字と人員管理と戦う仕事を始めるとは。
暗黒神殿パゥワァというヤツじゃの」
悪魔共の中でも特にそういうのが嫌いな連中だったらしい。まぁ仕事を押し付けられるならいいか。
よし、買い物もしたしリゾートに行くか。なんか忘れてるような気もするが。




