再利用計画(育児と生活)
ほぎゃっほぎゃっほぎゃっ、ばぶーあうーんまぁぁぁあ!!
…………と、まぁそのような赤子の声とそれを宥めすかしおしめを変えミルクを与えガラガラであやしなんとか機嫌を取ろうと全身全霊、平身低頭して媚を売ってゴマをするチンピラ共がみちみちに詰まった戦場さながらの姿を晒すギルドを見回す。
限界を超えすぎているのかチンピラは私と赤子の見分けがつかなくなっているらしくミルクが入った哺乳瓶がついでのように与えられた。
うーん……飲むか、飲まないか。プライドと食欲が天秤で揺れる。これを飲んだら神としてどうなのかという疑問と、でも中身は牛乳と大差はないだろという本能。悩ましいな。
「真剣に悩んでんじゃねぇ」
「む!」
悩んでいたらカグラに取られてしまった。残念。
私から取り上げられた哺乳瓶はそのままばうあーと鳴き声を上げる赤子に横流しされた。仕方がないな。
九龍は何故か半ギレになりながらラーメンセットを食うという器用な事をしているし、力比べに敗北したラムレトも人の子なんてわかんないよぉと半泣きになりながら世話を焼いている。
ちなみに私に与えられた業務はミルクの量産だ。木箱に哺乳瓶を詰め合わせて出荷。パレット沢山に積み上げてやった。
本で量産という合理的な手段で以てミルク量産を済ませたのでささっと持ち場を離れてキョロキョロと見回し、殊更にちっこいのを持ち上げてみる。そういう種族なのだろうか、尻から尻尾が伸びている。
「あいー!」
「ぶぎーっ!!」
威嚇されたのでこちらも対抗しておく。チャイルドは目をまんまるにして動きを止めた。イッヒッヒッ!
気分が良くなったのでよいせと下ろす。四つん這いでしゃかしゃかと歩き……這い去っていった。なかなかに元気そうだな。
しかしなんでこんな空前のベビーブームなんだろう。これ人間のように十月十日などと言わずめちゃめちゃ爆速で産まれまくってるな。私が離れてからそう期間は空いていない。まぁ花人さん達も一瞬であったし、種族差と言われればそれまでであるが。
というかチンピラ共はともかくとして、見知らぬ女性がかなりの割合で居るのが気になる。ベビーブームに関係あるのだろうか。
それになんだ、この世界では赤子は産まれにくいと言っていたような気がするのだが。
ちょっと考えてはたと気付く。良い感じに閉じた空間であり隅から隅まで私の領域だからか。
このゴッドボディが生成しているらしい魂核が微生物や魚類や植物のようなとにかく百でも二百でも数産んでそのうち何割かを生存させるといった多産の形質を持つ生物群の繁殖上限に近づき始めたのだ。つまり余剰魂核が余り出した。
貴重な資源となってしまった魂核の取り合いにおいて結果的に網で掻っ攫うか一つずつ釣るかという違いになってしまっている繁殖戦略の違いによって出ている出産数の偏りであったが、それが解消されつつあるのだ。
まぁそういった多産を選んだ生物達は当然ながら魂に書き込める情報量が非常に少ないのが殆どなので可能性の枝葉が少なく肉体と魂がビッグに育つ余地もなく、未来的な差異となり得る要素はほぼないが。
猛スピードで這い回るベイビー共を眺める。
「……うーむ……」
現状、リサイクル工場は稼働していない。リサイクル工場から出荷される魂核は0だ。
新規魂核は以前の私も生成していた筈だが……。私達が引き剥がされて、この身体になってからの生成分に関して品質検査は一切していない。しようもないし。ぶっつけ本番である。
動植物レベルであれば今のところ問題は起きていないが、この大きさの知的生物に関しては直ちに影響はありませんとしか言いようがない。成長したらどうなるんだ?
私達だった頃の生命でもない。二代目の管理下でもない。旧世界の理を内包する魂を持つ、私達の居ない新世界で産まれた嬰児。
生物は基本的に親世代の変異や因子を引き継ぎ環境適応状態で産まれてくる。世界に完全に定着するというか、突然変異ではなく安定要素として根付く。生命にはある程度そういう機能があるからだ。生誕とはそれ一つとっても奇跡に近いものなのである。祝福だったか、なんかそんな呼び方をしている世界とかあったな。
それで言えばこのベイビー共は産まれた時からもうこういう形質の生き物なのだ。二代目がいやがろうがなんだろうがもう覆らない。この世界の生物として正しく確立されたと言っていい。彼ら彼女らは最早この世界にとっての異物では有り得ない。
……想像がつかないな。全く未知の世代である。変質しているのか前の世界と変わらないのか、どっちも有り得る。
しかし、わかってはいたが私の魂核生成量は微々たるものだな。この極限の環境持つ閉じた地下世界で内部の競合生物も最小限であり、旧世界に取り残された生命である魔族も大勢居て竜やらも居て、更に魔王も三人。住人たちは全員私の領域内に定着しておりせっせと感情エネルギーや生命エネルギーを放出している。魂核の生成という点においてはこれ以上ない絶好の条件が揃った立地。それでもタニシ島のように目に見えて溢れるなんて事はしていない。ウーン、ミニマム。
魂の解体業務をなんとか熟してリサイクル工場に回さねばお話になりそうもない。いやまぁこうなるとリサイクル工場経由の魂とかどうなるんだろとかちゃんと出来るのかとか色々と気になってくるが。
思えば物質界が出来た頃もこんな感じだったような気もするな。竹と葛とミントでえらいことになっていく箱庭を眺めていたような。
そこまで考えたところで、なんだか違和感を覚えた。
私は島で生成された魂核を見て何を考えた?
「……………………む?」
そう、リサイクル工場は現在稼働していない。
天陽さんも言っていた。輪廻工場はまともな洗浄機構はとうに喪失された、と。
そして私自身も考えた。レガノアというリサイクル工場もぶっ壊れて私という生成工場もぶっ壊れていたのではそりゃ使い切るか、と。
「………………………………」
私は魂を再生し生み出すもの、そしてレガノアは魂を復元し編み上げるもの。
なんか暗黒ハートがドキンコドキンコしてきた。想像の埒外、あまりにも社外業務すぎて考えすらしなかった。深く考えない我が性質と同一人物だった弊害、曲がりなりにも別口となっていた洗浄工程とその担当場所にのみ意識が向いていた。ある意味でそう、私はレガノアがもうどこにも居ないという事を心底からは理解していなかったのかもしれない。私が居ないのならば彼女も居ない。私が居るのならば彼女も居る。それが当たり前だった。
そうだ、私とレガノアは既に分かたれた。前後でも上下でも左右でもいいが、私とレガノアは一つの塊だった。だがもうそうではない。これがマンガでよく見る有って当たり前だったものが失われて始めてその大切さに気付くというやつか。
我がボディ部分は魂核を生成する。逆にレガノアボディ部分がやっていたのが魂核の復元と組み立て。これは神域どうこうではなく、消化吸収とか呼吸とかそういった機能に近いものだ。
リサイクル工場とはレガノアの神体そのものだった。そしてそれは既に完全に喪失されている。
そして二代目は神域の維持すら出来ておらず、リサイクル工場に到れる確率は絶無だ。現状がそれを証明している。
「……………………………………………………」
頬を摘む。残念ながら現実だった。さしもの暗黒神ちゃんも思わず呻かずにはいられない。
ようするにだ。現状、プラス属性を必死こいて解体しても意味がない。折角パーツ洗浄して綺麗にリサイクル待ちにしたところでその後工程を担当している会社が倒産し設備も全て溶鉱炉行きになっていた事に今まさに私は気付いてしまったというわけだ。なんてこった。
本を眺める。値段など、見る気にすらならない。短時間ずつでも表返ってレガノアボディで無理やり代替え機能を受け持つか、いやそれは悪魔がクッソめんどくさくなりそうだ。となれば私の方で再度作り上げるしかない。喪失されたレガノアボディは今更どうにもならない。
「…………………………」
顎に指を当てて考える。リサイクル工場を作り上げる、この本を使って魔力を集めて。どう考えても無謀だ。大きな枝葉を幾つか切り離し内包する魂全てを溶かしてエネルギーにすればとかいう次元の話だ。
じゃあ新規生成で全次元を賄うのか?
不可能だ。あの島のようなものを作るにしたとて、それこそこの宇宙を資源として一つ食い潰しても全次元を賄える可能性は低い。ラスイチ宇宙をエンジンにすればもしかしたらいけるかもしれない、知らんけどはアホすぎる。それも魂を正気とも思われない勢いで消費し続ける二代目をなんとかしてからという前提ありきでだ。
しかも解体し終わった魂のガラとてほっぽっとくしかなくなる。
解体し終わってしまえばそれはもうリサイクル工程を経ねばただのマテリアルでしかない。魂核という形すら成していない、素材状態なのだから。それを再びこの世界に編み上げられる職人は跡継ぎも居なかったので技術継承に失敗しましたという状況なのだ。魂のガラは魂核にリサイクル出来ないのならばただの産業廃棄物である。魂核へリサイクルさえ出来ればやがてこの宇宙を生命で満たし、そして分岐し拡張し枝葉が増える物質界拡張の足がかりとなるがそうでないならこの宇宙に溜まり続けるだけとなる。
ほっぽっとくとどうなるのか、これは実際放置してみないとわからないのが正直なところだ。やったこともないしそういう状況に陥った世界も存在しない。
解体後の魂マテリアルをマナやらと同じようにただのエネルギーとして消費出来る生物がそのうち出てくるのか、それともそんな生物も出てこずただ時間経過と共にみちみちと層を重ねていくだけなのか。そうであれば破裂するのか、次元ブラックホールと化すのか。以前のように宇宙の枝葉がほっといても増えていく状態であれば空き容量などほぼ無限に近くなるので問題は無かったと思われるが、残念ながら今はそうでは無い。そうなるともうマテリアルで世界が埋まるのが先か、私の本で手段を問わずとにかく空き容量を拡張出来るのが先かとかいうデスゲームだ。しかも拡張の為に魂を分解してエネルギーを取り出さねばならないので時間経過で魂のマテリアルはねずみ算式で増えていく。人口爆発で約束された破綻がゴールラインの死ぬまで走り続けるマラソンだ。絶望感えげつないな。
いや、そのマテリアルをエネルギーとして私自身がなんとか消化できないか?
無理か、無理だな。私は無から有を生み出すが有を無にする事は出来ない。こんにゃく食いまくるみたいなもんでエネルギーにもならないし形を変えた同量の廃棄物になるだけだ。やはりどう考えてもリサイクル工場は今の物質界に必須の設備だった。
「…………………………」
「おチビ? どうかしたのかね?」
うんうんと悩んでいるとガラガラを持ったブラドさんに話しかけられた。その犬耳を見てふと気になる。連鎖的にネジ頭を思い出したので。
「ちょっと聞きたいのですが」
「なにかね?」
「次元断裂の中心の、なんだっけ。邪神が死んだ場所って今も死体ありますかね?
剣が刺さってるヤツです」
「………………詳しいことはわからんがね。他人事のように言っているが、察するにあれは君の事だったのだろう?
言うなればそこにあるのは嘗ての君の遺体ということになるのだが。どうでもいいゴミを語る温度感はよしたまえ。
……邪神の遺体がどうなったかは伝承にも残っていない。だがあの地に人が踏み入る事は不可能となった以上は当時のまま残っているだろう。神の遺骸が経年劣化するかはわからんが。
それがどうかしたのかね?」
「潰して再利用しようかなって…………」
「改めて言うが。どうでもいいゴミでも、ともすれば利用出来るかも、といった具合の温度感で自らの遺体を潰して再利用してみよは止せ」
「死体は死体じゃないですか」
どうでもいいだろ。使えればそれでいい。
当時のままならば、独り眠る静謐の夜と名付けられた概念でしかなかった存在の正真正銘の死体だ。うまくいけば……レガノアボディへの再加工というか、反転が可能かもしれない。中身がなくとも、その神体さえあればそれでいい。




