金持ちとプライド(脂とシナモン)
冬眠中の皆さんのお邪魔は良くないというわけで早々に切り上げ、おみやげの火種も渡して再びトンネルに戻ってとっとこ走る。
ちなみに帰り際にジジイ共はクエストボードにデカデカと「皇九龍&メルトアルストラムレト参上!!夜露死苦!!」とか書いていた。中学生かよ。ジジイの癖におこちゃまメンタルが過ぎるだろ。挙げ句にその下に高級リゾート地ドリームランド開園のチラシをちゃっかりと貼り付けていた辺りがまるで可愛げがない。まあいい。
私もついつい「暗黒神ちゃん惨状!」と書き込んでしまったしな。ちなみについでとばかりにヒノエさんも交えて全員で撮影した自撮りも貼っておいた。ちゃんとチャリで来たとも書いてあるヤツだ。
何故か私の顔がジャストタイミングに暖炉の光が揺らいで逆光になってしまい真っ黒だったが。何度撮っても上手くいかないので諦めた。そういう事もある。
「チッチッチッ!」
にしても、総括すると二人がヒノエさんに美味しそうなお酒を奢ってもらっただけで終わってしまった。
しかもミニマムだからダメだよと私にだけ与えられなかったので不満である。遠慮する綾音さんにはおちょこが回ったのに。
プリプリしつつも次なる目的地はユグドラシルの方である。折角なのでトンネル開通を告げるべく。ついでにチンピラ労働者共に私のブラック疑惑を広めるなと口止めすべく。
それにしても、私はこんなにもとっとこと走っているというのに後ろの二人ときたら特にそれを気にした様子もなく歩いて普通に付いてきているのがなんとも腹立たしいな。なんなら私が走っていることにすら気付いてないかもしれん。脚長族どもめが。許せん。絶対に撒いてくれる。
指を立て、高々と空を指しながらぴょんと飛び上がって勢いを付けて加速する。速度を限界まで上げ猛ダッシュでトンネルを走り抜け、恐らくユグドラシルと思われるトンネル出入り口にずざーとスライディング。
「とりゃーっ!!」
バッサァと本を捲って梯子を取り付けて四肢を最大限に利用した三倍速テケテケな動きで登頂開始。傍から見ればたいへんに気持ちが悪い動きであろうことは察するがそんな事は知ったこっちゃないのであるからして。
カンカンカンと甲高い音を立てながら上り詰めていく。そして見る間に近付いてくる地上の光、見た、勝った!! 撒いた!! トンネル、これにて完成!!
「きゃほーい!! 暗黒神ちゃんのお帰りだぞ慄けチンピラ共ー!!」
両手をいっぱいに広げてがぼっとトンネルから上半身を出して叫ぶ。私は自由だ!!
私の元気な声が響き渡るのとほぼ同時。人類の反射速度を超えてるだろと言いたくなる速度でトンネルの周囲でのんびりと休憩していたらしいチンピラ共が散ッ!! と四方八方に飛び散っていった。待て逃げるな! まだ失礼するんじゃない!!
無言での散開。半ば条件反射の如き逃亡であっただろうにほぼ同時、示し合わせたように方角の重複もない。当然ながら事前に連絡など入れておらずチンピラ共とて私がここから出てくるなど知っていた筈もない。身体と魂に染み付いた刷り込みの如し。なんという生意気さ。
追いかけまわしてくれようと地面に手を付いて身体を持ち上げようとしたところで、ふと影が私を覆った。次いで頭上から聞き慣れた声。
「しかし、本当にそうだろうか?」
「なんで居る……?」
完全に撒いた筈の二人が何故かそこに居た。なんでだ?
地面から顔を出す私を見下ろすように異形頭がうっふっふと笑いながら見下ろしてきている。そんな馬鹿な。
現状、地獄のトンネルは基本的に全て曲がりくねった一本の通路で繋がっている。北大陸のトンネルがケツで自由都市が頭、その間に各所への土管に繋がる小道が毛細血管が広がるように小さく分岐しているシンプルな作りなのだ。つまり綾音さんの街のトンネルからユグドラシルまでのトンネルは間違いなく一方通行であり、近道だのなんだのは存在しない。出入り口となる土管だって人一人が通れる程度のスペースしかないのだ。
私の全力疾走であってもこの二人であれば確かに追いつくことは可能だっただろう、だがしかしあのトンネル内で追い抜かれれば私が気付かない道理がない。一体何故。何が起こったのだ。
「……………………?……………………?………………」
「うん、ごめんね?
先に謝っておくね? でもクーヤくんも悪いと僕は思うんだよね。
負けず嫌いが揃ってたらそりゃあこうなるっていうか。そりゃ追いかけるっていうか?」
「逃げる見て反射でついやっちまったアルな。トンネルの自己治癒機能に期待するよろし」
「!?」
なんだかわからんが猛烈にイヤな予感がしてきた。大急ぎで這い出て二人の足元を確認する。
もこもこと盛り上がった土。覗き込むまでもない。そこにはクソデカいモグラ穴が出来ていた。
「あーーーーっ!!」
なんてこった。こいつら、作ったばかりのトンネルのパイプを1日足らずで壊しやがった!
近道もない一本道の通路で先を行く相手に先んじて目的地に辿り着きたいのならばパイプを壊して地上へ掘り進んで最短距離を真っ直ぐ行けば良い、そりゃそうだがそれはもう悪人がやる手口だろ!!
「てへぺろっ!」
「テヘペロじゃないわーい!!」
「ぴえん」
「ぴえんでもないわーい!!」
言いながらもぷっと血を吐き出して口元を拭っているあたり、パイプ壁をぶち壊して刹那の時間であったとて地獄に生身を晒した影響があるのだろう。ギャグで死ぬ気か?
というか最初から悪魔の攻撃に耐えられる強度ではないとされている商品とはいえ、それでも次元を隔てる境界だ。
パイプ内は走ったり飛び跳ねたりすればそれだけでぎしぎしと大きく揺れて大変に不安感を掻き立てるものであったが、悪魔の攻撃には耐えられないというだけで実際の強度としてはそれこそこの世界に於ける封印だの空間閉鎖だのの魔法の類の中でも最上級の境界硬度であろうことは想像に難くない。特に手を入れていないというだけで次元の壁は次元の壁なのだ。脆くはない。そんなワームホールを生身で壊すとか攻撃力極振りが過ぎるだろ。ファンキージジイ共めが。
ぷりぷりしつつもトンネル補修を試みる。ほっとけば勝手に穴が塞がる可能性も無いではないが、穴が塞がるまで人が行き来できないのでは本末転倒だ。使い倒して元を取るべくさっさと塞ぐに限る。しかし無駄金を使わされている感が半端ないな。おのれ。
「はい修理費どうぞ」
「修理費を払えば壊していいわけじゃないぞ!」
プンスコ!
受け取りながらも文句は言っておく。直せるならヘーキヘーキでまた壊されたらたまらないからな。
「迷惑料も乗せるネ」
明らかな億超え魔石が与えられた。すっからかんにされた財布に染み渡るオアシスの水。
秒でヘソ天で媚を売った。
「あっしはしがない暗黒神でヤンス! 壊してどーぞ!!」
「よろし」
プライドで飯が食えるか。いやさ十万、百万なら私だってプライドを取ったかもしれない。しかし何事にも相応しい値段というものは存在する。金に物を言わせると言えば聞こえは悪いがトンネルの修繕ひとつで億超えともなれば一周回ってただの太っ腹で気前のいいお客様である。今後ともご贔屓にしか言うことはない。揉み手だって付けてもいい。ゴマというゴマを高速で擂り下ろしてやろう。神託の仕入れの分しか残っていなかった魔力値がぐぐーんと回復し、それと共に気分がぐぐーんと上がっていく。素晴らしい。ビバ金持ち。スーリスリ。
「コールくん達はどこかな?
チラシもギルドのカウンターに貼っておきたいよね。
それに総司くんもいるっしょ!! いや~、総司くんに会うの久しぶりだなぁ!!
九龍くんからは特に変わってないって聞いてたし通信でも顔は見たけどやっぱり直接会うのは違うよねぇ~」
「ま、メルトは総司会う大体10年ぶりくれーアルからな。
ジョーカーとオズウェル欠けたで動き回る出来ないなってここ30年揃うなくなたネ。
セイトカイチョーも総司もそれぞれ押し込んどく最善手だったアルからなぁ」
「あ~、そうだったねぇ。総司くんはそうでもなくなったけど生徒会長はどうだろ?
まだ自由都市に長期滞在厳しい感じかな?」
「クーヤのおかげでだいぶ呪い減ったアルがなぁ。
そうさな、一週間くれーは保つんじゃねーアルかな」
「生徒会長って運が良いのか悪いのかわからないよね。
何かある度にいっつも致命傷で済んだって感じになっててウケるけど」
「そういう星の下に産まれたんであろ。クーヤ、トンネルなおたか?」
「ヘイ!!
お待たせしやしたトンコツショウユセアブラモリモリニンニクマシマシチャーシューギトギトアブラーゼマウンテンラーメン一丁でヤンス!!」
トンネルの修復と共に株主なお客様に特濃ラーメンをお出ししておく。周囲の空気が一瞬で脂塗れになった。
「何そのすっごい食べ物。ものすごく身体に悪そう」
「重油の塊か?」
「チャーハンと餃子とお冷もどーぞ」
「全部ものすごく身体に悪そう。脂と油しかなくない?」
「……………………」
「あっ、九龍くんが食べ物と呼んでいい範囲を明らかに超越したものへの忌避感とその他諸々を天秤に掛けてものすごい悩んでる!
すっごい珍しい!! ヤバ~!!
クーヤくん僕には普通のおやつちょうだい!!」
「しょうがないな」
第二の株主であるこちらのお客様にもおやつを出しておいた。
購入と共に現れたイケてる箱を開ければ、ぎっしりと収められたドーナツ達がその身を彩るチョコレートやクリームも綺羅綺羅しく、曙光の如き輝きを放っている。
そして揚げ立て焼き立ての生地の香りとシナモンやココナッツのスパイシーで甘い香りが周囲に優しく漂い…………まさに見る者の五感の全てを擽り楽しませるであろう素晴らしいドーナツだった。生活セットの来客ギフトAというセットだったが存外に良いものが出たな。
脂と甘味の匂いがどぎつい感じだが些末な問題だ。




