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『転生したら、パワハラ上司が魔王になっていた』  作者: ばけつプリン


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見せしめ

魔王側から届いた要求は、信じられないものだった。



殺された魔族1人に対し。



人間10人。



それが魔王の提示した条件だった。



単純な報復ではない。



見せしめ。



二度と魔王領へ手を出すな。



そう人間側へ教えるための処刑だった。



そして。



10人の中に。



ミリアの名前があった。



「どうしてミリアなんだよ!」


父の執務室。



俺は声を抑えられなかった。



「殺した兵士と関係ないだろ!」


父は黙っている。



ローデンもいた。



昨日とは別人のようだった。



顔色が悪い。



「国境の警備責任者だからだ」


父が答えた。



「今回の事件が起きた区画は、ローデンの指揮下にある」


「だからって、なんで娘なんだよ!」


「魔王側の要求だ」



意味が分からない。



責任者の娘を殺す。



そんなもの。



罰ですらない。



ただ苦しませたいだけだ。



「兵士本人は?」


「10人のうちの1人だ」


「ならそいつだけでいいだろ!」


誰も答えない。



俺はローデンを見る。



「ローデンはいいの?」


何を聞いているんだ。



いいわけがない。



分かっているのに聞いた。



ローデンはしばらく黙った後。



「いいわけがありません」



声が震えていた。



いつも。



騎士団長として。



大きな声で指示を出している男。



そのローデンが。



小さく見えた。



「何とかならないの?」


父を見る。



「交渉する」


「助けられる?」


父は答えない。



「父上」


「可能な限りやる」



その答えで。



分かってしまった。



難しい。



◇



ミリアは。



まだ知らなかった。



その日の午後。



いつものように屋敷へ来た。



「ルーク?」


俺の顔を見る。



「どうしたの?」


「何でもない」


「嘘」


即答された。



「顔変だよ」


「元から」


「そういう意味じゃない」



笑えなかった。



目の前にミリアがいる。



普通に立っている。



昨日と何も変わらない。



なのに。



数日後。



殺されるかもしれない。



「ミリア」


「なに?」


言うべきか。



言わない方がいいのか。



俺が迷っていると。



遠くからローデンが歩いてきた。



ミリアが父親を見る。



「お父さん?」



ローデンの顔を見て。



ミリアも何かを察したらしい。



「何かあったの?」



ローデンが娘の前へ立つ。



膝をついた。



そして。



話した。



◇



最初。



ミリアは理解できていなかった。



「私が?」


何度か聞き返した。



「どうして?」


ローデンは説明した。



今回の事件。



魔王の要求。



自分が国境警備の責任者であること。



全て。



ミリアは黙って聞いていた。



泣かなかった。



ただ。



顔が真っ白だった。



「死ぬの?」


その問いに。



ローデンは答えられなかった。



代わりに俺が言った。



「死なせない」


2人が俺を見る。



「絶対何とかする」


自分でも。



どうするのか分からない。



でも。



言わずにはいられなかった。



ミリアが少し笑った。



「ルークが?」


「そうだよ」


「どうやって?」


「考える」



俺は必死だった。



「魔法でも何でも使う。逃げればいい。遠い街へ行けば――」


「駄目だ」


ローデンが言った。



「なんで!」


「ミリアが逃げれば、要求違反とみなされる」


「だから何だよ!」


「代わりに何人死ぬと思っている!」



大声。



俺は言葉を失った。



「魔王側は、10人が指定の日に差し出されなければ国境の街を1つ滅ぼすと通告している」



街。



1つ。



そこには何千人もいる。



「そんなの……脅しだろ」


「脅しならいい」



ローデンの顔。



俺には。



何も言えなくなった。



◇



その夜。



眠れなかった。



どうすればいい。



逃がす。



駄目。



戦う。



誰と?



使者を殺す。



その後は?



魔王軍が来る。



父たちも戦うことになる。



何千人も死ぬかもしれない。



なら。



俺が魔王を倒す?



無理だ。



今の俺では。



父にすら勝てない。



その父が。



魔王には勝てないと言っている。



身体が震えた。



悔しかった。



剣も。



魔法も。



ずっと鍛えてきた。



強くなったと思っていた。



でも。



何もできない。



俺は。



全然強くなかった。

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