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『転生したら、パワハラ上司が魔王になっていた』  作者: ばけつプリン


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近づく戦火

12歳になった頃。


領地の空気が変わり始めた。



最初に増えたのは兵士だった。



国境の村から、領都へ戻される兵士。


逆に王都から援軍として送られてくる兵士。



街を歩けば、武器や食料を積んだ荷車を頻繁に見るようになった。



次に増えたのは。



避難民だった。



「これ全部?」


領都の門の前。



何十台もの荷車が並んでいる。



老人。


女性。


子供。



疲れ切った人々が、列になって街へ入っていく。



隣にいたバルトが頷いた。



「国境近くの村から来た人々です」


「何があったの?」


「魔王軍の部隊が、以前より近くまで出てくるようになりました」


「攻撃された?」


「まだです」



まだ。



その言葉が嫌だった。



「じゃあ、どうして逃げてきたの?」


「攻撃されてからでは遅いからです」



その通りだ。



逃げられるうちに逃げる。



俺もそうしたい。



なのに。



避難してきた人々の顔を見ると、胸が重くなる。



彼らは自由に逃げたわけではない。



家を捨てさせられたのだ。



◇



父はほとんど屋敷にいなくなった。



帰ってきても夜遅く。



食事中も疲れた顔をしている。



ある夜。



珍しく家族全員で夕食を取ることができた。



「父上」


俺が聞く。



「戦争になるの?」


母の手が止まる。



弟のカイルも父を見る。



父は少し考えてから答えた。



「分からん」


「可能性はある?」


「ある」



嘘をつかない。



父らしい。



「魔王軍が攻めてくるの?」


「今のところ、大規模な侵攻の兆候はない。ただし国境で小さな衝突が増えている」



兵士同士の喧嘩。


偵察隊同士の接触。


魔物を追って境界線を越える。



そういう小さな問題が積み重なっているらしい。



「魔王は?」


俺が聞いた。



父の表情が少し険しくなる。



「魔王本人については情報が少ない」


「どんな奴なの?」


「強い」


それだけだった。



「どれくらい?」


「私では勝てんだろう」


驚いた。



父は強い。



子供の頃から何度も見ている。



騎士団でも父より強い人間を俺は知らない。



その父が。



勝てない。



「そんなに?」


「少なくとも、前線から届く報告が正しければな」



父は続ける。



「それ以上に厄介なのは、魔族が魔王を恐れていることだ」


「味方なのに?」


「味方だからこそ、かもしれん」



どういう意味だ。



「命令に逆らった部隊が処刑されたという話もある。失敗した将が、部下一族ごと消されたという噂もな」



随分ひどい。



「魔族も大変だな」


俺が言うと、父が少しだけこちらを見る。



「そう思えるなら忘れるな」


「何を?」


「魔王と魔族を同じものとして見るな」



以前。



国境砦でも同じことを言われた。



俺は頷いた。



◇



ミリアも忙しくなっていた。



治療院へ運ばれる怪我人が増えたからだ。



「今日も行くの?」


朝。



屋敷へ来たミリアに聞く。



「うん。包帯が足りないから手伝う」


「まだ12歳なのに働きすぎじゃない?」


「ルークに言われたくない」



確かに。



俺も朝から剣を振っている。



「怪我人多い?」


「増えてる」



ミリアの表情が少し曇る。



「魔族にやられた人?」


「それもいる。でも魔物の方が多いかな」



魔王軍が動くようになったことで、魔物の生息地にも変化が起きているらしい。



強い魔物が人間領へ流れてくる。



その被害が増えていた。



「ねえ、ルーク」


「なに?」


「海、まだ行けるかな」



突然だった。



少し驚いた。



数年前にした約束。



覚えていたらしい。



「行けるだろ」


「戦争になったら?」


「終わったら行けばいい」


「いつ終わるか分かんないじゃん」


「なら戦争になる前に行く?」


「今は無理でしょ」



ミリアが笑う。



俺も笑った。



「大丈夫だよ」


なぜか。



そう言った。



根拠なんてない。



ただ。



そう言っておきたかった。



「そのうち行ける」


「じゃあ忘れないでね」


「忘れないよ」



その時。



遠くで鐘が鳴った。



国境から早馬が到着した合図だった。



俺たちは屋敷へ走った。



そして。



その日から。



父は再び家へ帰らなくなった。

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