実戦
11歳の夏。
俺は初めて、騎士団の魔物討伐へ同行した。
もちろん正式な兵士としてではない。
あくまで経験を積ませるという名目だ。
討伐対象はオーガ。
村の近くに住み着き、家畜を襲っているらしい。
「本当に連れて行くのですか?」
出発前。
母が父へ何度目か分からない確認をしている。
「後方から見せるだけだ」
「以前もそう言って、狼に襲われたでしょう」
「あれは想定外だ」
「あなたの想定は信用できません」
父が黙った。
強い。
母は父より強いのかもしれない。
「母上、大丈夫だよ」
俺が言う。
「ルークが一番信用できないのよ」
「俺?」
「危ないものを見ると近づくでしょう」
「最近は近づかない」
「最近は、という時点で駄目です」
結局。
絶対に騎士より前へ出ないことを条件に許可が下りた。
◇
オーガは森の奥にいた。
3メートル近い巨体。
太い腕には、丸太のような棍棒を持っている。
ホーンウルフとは威圧感がまるで違った。
「大きいな……」
思わず呟く。
バルトが横で笑う。
「怖くなりましたか?」
「少し」
「それでいいんです」
騎士が前へ出る。
盾を持った2人が注意を引き、左右から別の騎士が斬り込む。
オーガの棍棒が振られた。
ドンッ!
盾ごと騎士が吹き飛ぶ。
「強っ」
人間なら死んでいる。
だが、騎士は身体強化と防御魔法を使っている。
それでも腕を痛めたらしい。
戦いは続く。
俺は後ろから見ていた。
そして。
気づいた。
オーガの動き。
右足を少し引きずっている。
「バルト」
「なんです?」
「右脚、怪我してない?」
バルトの目が動く。
「……よく見ていますな」
やっぱり。
「なら右から崩した方がいいんじゃない?」
「その通りです」
バルトが合図を送る。
騎士たちの動きが変わった。
右側へ攻撃を集中させる。
オーガの体勢が崩れた。
そこへバルトが飛び込む。
一閃。
オーガの首が落ちた。
巨大な身体が倒れる。
地面が揺れた。
「終わった……」
俺は息を吐いた。
「観察することも戦いです」
バルトが戻ってくる。
「剣を振るだけが強さではありません」
なるほど。
◇
帰り道。
別の魔物に遭遇した。
今度はゴブリン。
数は4匹。
騎士が動こうとしたところで、父が止めた。
「ルーク」
嫌な予感がする。
「はい」
「やってみろ」
やっぱり。
「俺1人で?」
「バルトをつける」
それは1人とは言わない。
だが。
実戦経験を積ませたいのだろう。
剣を抜く。
手が少し汗ばんだ。
ゴブリンがこちらを見る。
小柄だ。
それでも刃物を持っている。
人に近い姿をしているせいで、ホーンウルフより嫌な感じがする。
「無理なら下がってください」
後ろからバルトの声。
俺は頷く。
ゴブリンが走る。
1匹目。
剣を振る。
受ける。
力は俺より少し強い。
だが。
技術はない。
剣を滑らせ、そのまま相手の腕を斬る。
叫び声。
一瞬怯んだ。
その隙に胸へ剣を突き入れた。
倒れる。
残り3匹。
右から1匹。
火球を撃つ。
直接身体へ当てるのではなく、足元へ。
爆ぜた炎に驚いて動きが止まる。
そこへ踏み込む。
斬る。
3匹目。
風で剣を逸らす。
首元へ一撃。
最後の1匹が逃げた。
追うべきか。
一瞬考える。
「追うな」
父の声。
俺は止まった。
逃げていくゴブリンの背中を見る。
倒すことはできる。
でも。
必要はない。
剣を鞘へ戻した。
◇
帰ってから。
俺は少し考えた。
4年前。
ホーンウルフを初めて殺した時は、吐きそうになるほど気分が悪かった。
今日は。
そこまでではない。
慣れた。
そう思った瞬間。
少し怖くなった。
俺は。
命を奪うことに慣れてきている。
必要だから。
自分が死にたくないから。
そう説明できる。
それでも。
慣れすぎるのは嫌だった。
父が以前言ったことを思い出す。
慣れる必要はない。
必要な時に動ければいい。
俺は剣を布で拭いた。
強くなる。
でも。
人を殺すことが好きな人間にはならない。
少なくとも。
それだけは忘れないようにしようと思った。




