8
「軽くでも調査をしたうえで、彼女が首謀でないなら……まだ公表前だった事は幸いします。今この場にいる者が口を噤めば良い。
メゾット公爵家も、疑惑について追及されれば困るでしょうから黙り込む筈です。
まぁ、身も蓋もありませんが噂通りだったと言う事。ソアラ嬢には無理だったとわかった…それで良しとしましょう。
白紙撤回については…同家の妹君との交代も含め、話し合うしかありません」
騒動の発端は王家側にあるが、今回問題を起こしたのはソアラだ。
妃教育代行疑惑だけでも、十分処罰原因になると言うのに、それにとどまらず王宮内で暴挙に及んだのだから、白紙撤回に話が及ぶのも至極当然の事。
宰相以下関係者達も『ソアラ』と言う問題児を返品できるのだから、揃って安堵するかに思われたのだ……が、何故か胃の辺りを押さえ込んでいる。
理由は…誰も口にしなかったので想像の域を出ないが、後から文句を言って…今度はソアラだけでなく夫妻も暴れるだろうと予想したのだろう。
そんな関係者達の胃を気遣ってやりたいが、セリオールは折角の機会を逃したくない。
なにしろメゾット家のソアラと言えば、王妃も口にした噂…嘲笑と白い視線を集める事で、一部では有名な令嬢だと聞いた事があったからだ。
本音で話して良いのなら、絶対に関わりたくない人物…。
年齢を考えれば、まだまだ先は長い人生…叶うなら良い関係を築けそうな相手を望みたいに決まっている。
「……そう…ですね。
確かに犯罪加担した…というのは決して軽くありませんが……その人物も含め、候補となりそうな令嬢の資料があれば見せてください。
この際ですので、ソアラ嬢の妹君だけでなく、候補令嬢全員の中から自分の目で選びたいと思います」
元王太子で兄のトーマスが、婚約者選定の際に纏めた資料が残っているだろうと考えたのだが、ふと…セリオールの脳裏を過ったのは、件の犯罪加担したソアラの妹だ。
まだ落ち着かない毎日ではあったし、スライドで婚約者になっただけのソアラへ嫌悪感も酷かったが…どう言った事情であれ婚約者となった以上交流するしかない。
そう思い、セリオールは日々の夕食の後、婚約者…未だ『仮』ではあるが、ソアラとの親交を深める為に僅かながら交流の時間をとっていた。
その時、部屋の隅で静かに顔を伏せていた少女……。
ソアラが生家から連れてきた使用人で、妃教育代行疑惑の目が向けられている少女。
青みがかった銀髪は手入れも満足にされていないのか…艶がなく、解れ毛が目立ち、袖口から覗く…今にも折れそうな程痩せた手首に不安を感じる少女だったが、セリオールは何故か気になった。
繊細な顔立ちに内包された、隠しきれない翳を滲ませる横顔から、視線を引き剥がすのに少し時間がかかった事を思い出す。
どう取り繕おうと、王家を欺こうとした罪人だ。
勿論、まだこれからの調査次第ではあるが、現時点で処罰対象の少女をセリオールが気に留めていたなんて、何となく罪悪感…とでも良いだろうか…そんな感情が消し去れない。
だから公平に、候補となりそうな他の令嬢の資料もお願いした。
セリオールの内心の葛藤に気付いたかどうか、それはわからないが、王妃はゆっくりと頷く。
「えぇ、代行疑惑の少女なら妃教育は問題なさそうですが、その少女を含め、候補となりそうな令嬢達の資料は直ぐに用意しましょう」
王妃はセリオールに向かって頷いた後、宰相たち関係者に向き直った。




