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「ずっと私の周りには、私を『傷つける人』と『憐れむ人』しか居ませんでした。
勿論、憐れんでくれる人が居たと言うだけで、どれほど幸運な事かは承知しています。
でも……彼だけなんです…私に笑顔を向けてくれたのは。それだけじゃなく、私の意思を認めてくれた……私にも感情や意思があると…それを当たり前のように受け入れて、尊重してくれました。
だから彼の為なら…彼の望みを叶える事が出来るなら、私は地獄に落ちるのも厭いません。
どうせ、死んだも同然の命でしたか」
ソアラや公爵夫妻から、何をどう聞いていたのか知らないが、ガモールの顔からは血の気が失せていた。
そして瞳の奥には、化け物でも見る様な怯えが、再び滲んでいる。
「それだけ…それだけで、か?」
「えぇ。
何かおかしいですか?
私にとって大事なのはセリオール様だけです。彼が大切に思っているから、この国を、民も含めて傷つかないように動いているにすぎません。
でも、最終的に問題はないでしょう?
だってこの国も民も守られるのですから」
ガモールの顔に浮かんだ嫌な汗が、一筋流れ落ちた。
「狂ってる…」
「元より自分が壊れているのは自覚していますが、安易に犯罪に手を染めた貴方に言われたくないですね。
……で?
受け入れますか?」
ソアラや公爵夫妻から、ルナリス誘拐を持ち掛けられて協力する事に決めたガモールだったが、彼女についてあまり詳しく聞く事は避けていた。
聞いてしまえば、反対に同情してしまいそうだったから。
けれど、実際に目の前にして思うのは…
――ソアラ…お前の妹は、とんだ化け物だ
――手出ししたのが運の尽きって奴だな……
――いや、反対にこれでいいのか
――ここまで冷徹に、けれど一途になれる人物なら
――反対に信用できる
ガモールは腹を括った。
「俺は…あぁ、俺は受け入れる。
あんたの配下になってやるよ。けど、部下達は個別に聞いてやってくれないか?
出来れば…帰りたい奴等には恩情を掛けてやって欲しい」
「本当に図々しい事。
そんな面倒、御免被ります。全員死ぬのは決定事項、社会的に…か、物理的に…どちらかしか選ばせません」
むぅと唸って唇を引き結んだガモールは、考え込む。
部下達を巻き込んだのは自分で、叶うなら帰国させてやりたいのは山々だ。しかし、それが甘い考えだと言うのもわかった。
「……だったら、俺から話をさせてくれ。
俺が皆に話しをする…」
巻き込んだ自分が、けじめをつけるべきだろう…と、ガモールは考える。
結果、ガモールの部下達は受け入れた。
聞けば、最初から命は捨てる覚悟で付いてきていて、既に家族との別れは済ませてきたらしい。
成功するとは思えない…けれどせめて何かの形で一矢報いたい。それ以上にガモールは人望もあったようだ。
今は辞しているせいで、身分を問われても返答に困ると言うが、元はミッケン王家に仕える近衛騎士や警備兵だったと言う。
そんな彼等はガモールに改めて忠誠を誓った後、ルナリスに向き直ると揃って膝をついた。
思いも寄らなかった行動に、ルナリスが目を丸くする。
「感謝いたします。
ルナリス様…とお呼びする事をお許しいただければ幸いです。これより我等一同、ガモール様と変わらぬ忠誠を誓います」
本当にミッケンは崖っぷちだったようだ。
4国が接する地に設けられる新たな町は、4国が協議して治めていく事になる。もう帝国やヨーゴンが、自分勝手な事は出来なくなるのだ。
適切な通行税は、今後ミッケンの回復に大いに寄与するだろう。
ま、それもこれも、ただセリオールの為に整えたと言うのだから、正気を疑う。というか、そんな理由は話すなと、マリルーとガモールに止められていたので黙っていたが、変に崇められて非常に居心地が悪い。
なんにせよ、これでルナリスは長い耳と手足を手に入れた。
セリオールの治世の間は、大人しくさせておく事が可能になるだろう…と、ルナリスは屈託なく微笑んだ。




