59
何やら自省する王妃だったが、彼女がずっと頑張っていた事を、ルナリスだけじゃなく皆が知っている。それなのに…と思いつつ見送ったが、ルナリスは次の行動に移らなければならない。
ガモールが収監されている一般牢へ向かう。
先だっては覗き見ただけだが、今日は鉄格子越しとはいえ、直接対面だ。
「ごきげんよう」
ルナリスが平坦な声を掛ける。
気付いたガモールが顔を上げると同時に、一瞬目を見開いて直ぐに俯いた。
そしてフッと息を吐く。その吐息には自嘲が見え隠れしていた。
「なんだ?
嗤いにきたか? ま、そうだよなぁ…存分に嗤ってくれて良いぜ。けど、話す事はなぁんにもないんだなぁ、これが。
誘拐に失敗した犯罪者…それだけでいいだろ?
なもんで、満足するまで嗤ったら……消えろ」
ルナリスは無言で睥睨する。
あくまで背後の国を隠し、単なる誘拐失敗に話を落ち着かせたいらしい。しかし、そうは問屋が卸してなるものか。
自分より年下の…しかも痩せ細った少女からの圧に、ガモールは視線を泳がせた。
「消えろよ……なぁ、話す事はないんだ…。
消えろって!!」
まぁ、自分達が誘拐した被害者が、目の前に立っているのだ。
一片も感情を揺らさない大物なら狼狽えたりしないのだろうが…根は悪党になり切れないと言った所だろう。
「情けないですね。
国の為に悪事に手を染めたにしては、落ち着きがなさすぎるのではありません?」
「ッ!?
な、なにか思い違いをしてるんじゃないか…?
俺は国なんて知らない…ミッケンなんて知らない…」
『問うに落ちず、語るに落ちる』とはこの事だろう。
精々焦って貰うが吉…とばかりに、その場は反応せず淡々とルナリスは続ける。
「あぁ、とぼけたいならそれでも構いません。
貴方達に罪状認否を求めている訳ではないので。だって明白ですから」
残念な事に、ルナリスはガモールもミッケン人も、囚われの間に見掛けていない。その為少々回り道を余儀なくされた。
「とっとと罰を与えれば良いだろう!」
「えぇ、当然死んで頂きます」
まるで世間話のように、あっさり『死んで』…と言い放ったルナリスに、ガモールは声を詰まらせた。
目は笑っていないのに、口角だけを微かに上げた歪な笑みを浮かべるルナリスに、ガモールは怯えを隠せない。
「死…本気…か…?」
「まさか許されると思っていた…なんて寝言はおっしゃいませんよね?
王族が他国に無断侵入。その上王子妃へ接触。
それが失敗すれば、今度は我が国の公爵家と結託するなんて…なんて命知らずなんでしょう。
しかも準王族誘拐に、王太子襲撃なんて…ね
よくもまぁ、そんな浅知恵でやらかせましたわね?」
ガモールが目を見開いて固まった。
色々と、彼の脳内設定が吹っ飛んだらしい
「王太子…襲撃…?」
引っ掛かりどころは他にもあると思うのだが、彼が一番気になったのはそこだったようだ。
まぁ、事故とも言えるのだが、そこはそれ…大袈裟に言うのはこういう場面でのお約束だろう。更に不意打ち他諸々は、揺さぶり追い詰める為の常套手段だ。
セリオールの負傷そのものはソアラのやらかしだし、あの場に居なかったガモールが知らなくても無理はない。取調官にも、その辺りは言わないように釘を刺しておいたのだから。
「えぇ、ですので死んで頂くのは当然なんですが……」
ルナリスは微かに上がっていた口角を、更にニッと引き上げる。
「取引をしましょう。
あぁ、誤解のないように言っておきますが、貴方に拒否権はありません。
証拠は山のようにありますので。
何より……」




