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ルナリスは、一旦言葉を切って王妃へ伺うような視線を向ける。
「調べたのですが、これまでの本流名変更で、揉めたと言う記録は残っていません。
まぁ、騒ぎ立てようとする縁者の多くが没落状態でしたので、抵抗のしようがなかった…と、言うのが真相かもしれませんが。
現状、ダマッテの血に連なる者達で、騒ぎを起こせるほど余力のある家は一つもありません。それ以前に縁そのものが、かなり薄くなっています。
にも拘らず、多少の支援金は現在も流れているようでして。
そちらも調べましたが、明文化されてはおらず、単なる慣習として続いているようです。
慣習だろうが何だろうが、無能を抱え続けるのは国庫の無駄と言えるでしょう」
そこまで一息に言い切った所で、ルナリスはハッとする。
『流石に直球過ぎた…言葉を濁すべきだった』と…今更な後悔が微かに湧き上がった。
「その…大変失礼しました。
家族としての情があるのは、勿論理解しております…申し訳ございません」
だが…王妃の表情には、先程までの痛苦を耐える様な揺らぎはない。まるで静かな湖面のように落ち着いていた。
それが嵐の前の静けさか、それとも単なる諦観かわからず、ルナリスはキュッと唇を引き結ぶ。
王妃が小さく深呼吸をした……次の瞬間…。
「あ”~~~~~~~~~~~ッ!!!
そうよ、それがあったわ!!!
情?
そんなモノ、疾うの昔に涸れ果てたわよ!!
王は苦言に耳を塞ぐし、トーマスは身体ばっかり成長して頭は追いついてないし!
わかってるわ!
妻として母として、そんな言い方はあんまりだと言われるだろうって!
でもね、もう……」
王妃はへなへなと床にへたり込んだ。
「朝、目が覚めた時…毎日祈るのよ…。
今日は何事もなく平穏に過ごせますように…って…。
陛下も最初は真面だったのよ…抜きんでた所はなかったけど、浮気はしないし、人の話を聞ける素直さもあったわ。
なのに……」
長年の疲労が膠着き、常に青白かった彼女の頬に赤みが差す。
当然ながら微笑ましい理由ではない。
「毎日毎日、どうやったらあんなに問題を引き寄せられる訳!?
しかも、悪いと思ってないの!!
反省なんて、彼等の辞書にはないのよ!!
だからッ!!!…………」
へたり込んだ王妃のドレスに、丸い染みが浮かんだ。
「セリオールにばっかり苦労を掛けて……。
ほんと…何をしてたのかしら……」
ルナリスは視線を落とす…それしか出来ない。
だって、わかってしまうから。
妻としての愛情も、母親としての情も、決して無限ではなく有限だと言う事である。
家族への情なんて、とっくの昔に擦り切れ…いや、それ以前の話で、最初から持っていない。だが期待はしていたかもしれないルナリスには、痛いほどよくわかった。
静けさに支配されていた室内に、衣擦れの音が小さく鳴った。
へたり込んでいた王妃が、ゆっくりと立ち上がっている。
「ごめんなさいね。みっともない所を見せてしまったわ。
けれどもう大丈夫よ」
頬に残る涙の跡が痛々しい筈なのに、王妃は鮮やかに微笑んだ。
「これから忙しくなるわね。
えぇ、陛下は夫だし、トーマスは息子…それは変わらない事実だけど、私には他にも子がいるのよ。
子である国の民達を、二の次にする王なんて見限りましょう。
実子とは言え、頭にウジが湧いてるような長男は、権力から遠ざけましょう。
きちんと掃除をしたうえで、セリオールと貴方に引き継がなくてはね」
王妃の誇りが現れた美しい背筋を、ルナリスはちょっぴり目を丸くして見送った。




