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王宮に戻ったルナリスは、真っすぐにセリオールの部屋へ向かう。
だが、部屋に入る直前にニッペルに止められた。
聞けば、少しずつ目を開く事が多くなってきたらしい。不安だったが命に別状がなかったのは、何より嬉しい。
しかし意識はまだ、はっきりしているとは言い難いようだ。
そこまで一気に話したニッペルだったが、急に口が重くなる。
「ニッペル先生?」
ルナリスは不安になり、老人の顔を覗き込んだ。
彼はルナリスの不安を湛えた瞳に、息を詰めてから、深く…そして長く息を吐きだす。
「ルナリスや…落ち着いて聞くんじゃぞい?
……その、なぁ………命は助かったんじゃが、まだ半分夢現じゃ言うたんは、その通りなんじゃ。
…………その通りなんじゃが、目が開いた時にな……」
何を言いたいのかわからないが、妙な歯切れの悪さに不安は増すばかりだ。
「その…前にも言ったと思うんじゃが……やはりなぁ…。
………………。
………眼に影響は残りそうじゃ……」
以前も聞いたフレーズだと思う。あの時は確か…
『後は意識が戻ってからしかわからんが、もしかすると視力に影響が出ているかもしれん』だったか…。
ここまで言い渋るから、何を言われるのかと身構えたが、以前に聞いた範疇なら想定内だ。ふっと緊張の糸が切れる。
命さえ無事なら、どうという事はない。
しかし、ここまで躊躇うからには何か理由があるのだろう…と、一応詳しく聞いておく。
傷を負った側の目だが、対光反射が鈍く視力への影響は確実で、未だ意識がはっきりとしない為、脳への影響はまだ未知数…と、ポツリポツリと話す言葉を繋ぐと、そう言う意味になった。
ルナリスがショックを受けるかもしれない…と、気を遣ってくれたのだろう。
脳への影響と言うのが気になる所だが、だからと言ってルナリスの今後が変わる訳ではない。
「大丈夫です。
何があっても、私がセリオール様をお支えします。
あの方が生きている…それだけで私は嬉しいですから」
万が一、脳への影響が大きければ日常生活も大変になるだろう。
しかし王妃も使用人達も居てくれる。自分一人で抱え込む様な事ではないのだから、きっと大丈夫だ。
王位は難しいかもしれないが、ルナリスは彼が王子だから好きになった訳ではない。
彼が彼だから、好きになったのだ。
そう言うと、ニッペルは困ったように鼻頭を指で掻く。
「いやはや…ルナリスからそんな言葉が聞けるとはのう…」
メゾット夫妻侯爵家で蔑ろにされ、監禁までされていた彼女の幼い事を知るニッペルは、感慨深そうに呟いた。
タイミングが悪く、目を開けたセリオールと対面は出来なかったが、王妃への報告を先に済ませておこうと、ルナリスはそちらへ向かう事にする。
自分の構想の全てを放すつもりはないが、王妃には協力して貰いたい事もあるのだ。
王妃の部屋へと向かう道すがら、ルナリスは小さく呟く。
最近では当たり前の光景になりつつあるが、彼女の斜め後ろにマリルーの姿があった。
「そろそろこっちにも着手しようと思ってるの。
だって不要でしょう?
王妃陛下の悩みの種になっているし、色々と邪魔にしかなっていないんだもの」
何を指しているか、マリルーは知っているのだろう。
「まぁ、不敬だって言われるんでしょうけど、事実は事実ですからね。
特にトーマ…ん”ん”!
王陛下も悪い御方じゃないんですが、彼の方が絡むと途端に阿呆になられるんで」
「えぇ、それにほら、あの国の血が入り込むのは、流石に今回は遠慮願いたいわ。いずれ混じるとしても、今回はタイミングが悪すぎる。
恐らくだけど、王妃陛下もダメ出しはしないんじゃないかなって。
まぁ、だからって諸手を挙げての大賛成…とはいかないでしょうから、ほんの少しだけ、ね」
ルナリスの言葉に、マリルーはニッと笑った。
「流石は我が主と見込んだ方です。
諸々…暗躍なさる所も非常に好みです」
褒められているように思えないのは、決して気のせいではないだろう。




