54
「構いませんよ?
此方としては、ヨーゴン王家のやらかしを公表しても、何も問題はありません。
危険な毒草を拡散、その上他国への内政干渉……取引先はどんな反応をなさるでしょうね?
何より健全ではないでしょう?
一方的にミッケンから搾取を続けるなんて……違いますか?」
「ぅ……」
「なんでしたら、フール王女も送り返させて頂きましょうか?
泣くのは彼女ですし、少なくとも私は痛くも痒くもありません」
フール自身、自分の方がトーマスにがっついた事を知られたくないと泣いていたのに、ルナリスはちゃっかり有効活用している。
実際の所、フールから口留めもされていないのだ。彼女は自分が知られたくなかったと訴えるだけで、ルナリスに黙ってて欲しいとも何とも言ってはいない。
相手はガクリと項垂れた。
それはそうだろう。
愛娘が出戻ったとして、溺愛する王夫妻は喜ぶかもしれないが、それ以外となると……最早政治的価値の薄れた王女なんて、お荷…げふんがふん! まぁ、はっきり言ってしまえばそう言う事だ。
「……承知しました。
それで同意します」
「一度持ち帰っても構いませんよ?」
「いえ…王も王妃も、すべて受け入れて良いと……」
ルナリスは目を細め、口元だけで笑みを冷ややかに形作る。
「あら、じゃあさっきまで、のらりくらりと筋の通らない事を列挙されていたのは、貴方の独断でしたの?」
「ッ!
も、申し訳ありません」
「まぁ良いでしょう。
私を『たかが婚約者風情が』と、侮っただけでしょうしね。
ですが、貴方の事は覚えておきますわ。
今後、御注意なさって? えぇ、それはもう色々と、御注意なさることをお勧めします」
身を強張らせ、滝汗を流すヨーゴン側侯爵の前に、ルナリスは無言で一枚の書類を滑らせた。
「サインを」
彼は震えているのか、カチカチとペン先がテーブルにあたる不快な音が響く。
「戦争布告宣言書でもあるまいに、何をそんなに震えていらっしゃるのかしら?
本当に失礼な方ね」
笑っていない目で微笑まれても、室内の温度は下がるばかりだ。
何はともあれ、無事にサインが入り、ヨーゴンの印もしっかりと押された。
これで手土産の一つは入手できた。
今のルナリスには、とある考えがあるのだ。
その為にも次は帝国を黙らせなくてはならない……
………と、思っていた矢先、ブルームロード王国で留守番兼連絡係を言いつけられたオバルから一報が入った。
それと一緒に届けられた封書を開いて、ルナリスは目を見開いて固まる。
なんだろう…と、マリルーが手元を覗き込んだ。
そこにあったのは、帝国…しかも外交窓口の大御所とも言うべき、皇帝の義弟である公爵のサイン。
記された内容は、要約すると『帝国とブルームロード王国の国境のどこかで、秘密裏に一度会って話がしたい。王国側の都合がつき次第連絡が欲しい』と言うもの。
内容は兎も角、文字にところどころ引っ掛かった跡があり、印も端に掠れた部分が残っている。
確か皇帝も、その妹婿である公爵も、ブルームロード王夫妻より年上だったはずで、妃教育の中で見た絵姿は勿論、かなり癖の強い人物だったと記憶している。
そんな人物からの書簡……少なくともサインと印は本人のものなのは間違いない。それに乱れが見られたのだ。かなり焦って用意したとみて良いだろう。
ルナリスはうっそりとほくそ笑んだ。




