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セリオールの意識が戻った…という報は、まだない。
心配で、彼の傍に居たいのは山々だが、治療の邪魔になる訳にはいかない。邪魔になるより、この事態を何とかしておく方が良いだろう…と、王妃に面会を求めたが、こうなるとフールと話してみようと言う気になる。
何か思惑があるのなら、すんなりと会って貰えるかわからない。ここは王妃経由で面会を求める方が確実だ。
その旨を伝えると、王妃は首を傾げる。
「貴方が彼女と会うの?」
心底不思議そうな顔だったので理由を尋ねてみると、王妃は溜息まじりに話し出した。
「ごめんなさい、つい心配になって…。
だってねぇ…彼女、話があちこちに飛びまくるのよ…。
まぁ、義姉妹になるのだし、会う事そのものは止めたりしないけど……ただねぇ、彼女は公務にあまり関わらないわよ?
つまり、今後も会う機会は殆どないわ。だから無理に関わりを持とうとしなくても良いのよ?」
本気で純粋な心配だったようだ。
しかし王妃もほとほと疲れ切っているのだろう…特に今日の顔色は酷い。
「あぁ…まぁ……。
立て続けに色々あったでしょう?
トーマスが弟の婚約顔合わせの場をぶち壊した挙句、婚約者も自身の立場も入れ替え…と言うか、もう、本当に非常識過ぎて言葉がないんだけど…。
更にメゾットからの連日の抗議に…」
王妃はじっとルナリスを見つめた。
ただ、その瞳の奥にあるのは、苦い…言葉で表現しきれないモノ。
「セリオールは幼い頃から自分の希望を口にした事がないの。
王がトーマスを甘やかしていたから、厳しく育てないといけなかったのも事実よ。でも、あそこまで自分を抑え込ませたかった訳じゃないの…。
そんなあの子が、初めて望んだのは貴方。
貴方が攫われて…本当に…本当に心配したのよ」
王妃の瞳が揺れている。
「バタバタして、はっきりと言葉にしていなかったわね。
ルナリス…よく無事に戻ってきてくれたわ。
貴方の誘拐については、この王族私的エリアから漏らす事はないから安心して頂戴」
実子であるセリオールが毒に倒れ、意識もまだ戻っていない。
更に…幾ら箝口令を敷いたからと言って、ルナリスの純潔については気になっているだろう。
他者から求められなくても、後程きちんと診断して貰うつもりだが、それらを後回しに、気遣ってくれた事が心底嬉しい。
「私ね、娘も欲しかったのよ。
男の子ってそっけないし、飾り甲斐もないでしょう?
だから、あの子の婚約者が貴方に落ち着いた事…とても嬉しく思っていたの。
けれど、あの子に後遺症が残るかもしれない…のよ、ね…。そう報告を受けたわ。
……どの程度残るのか…今はわからないけど……もし…もしも重かったら…その時は「王妃陛下」…」
ルナリスは咄嗟に言葉を遮っていた。
その先を言わせたくないし、聞きたくないと思ったのだ。
「私は王太子妃になりたくてお話を受けたのではありません。
セリオール様が望んで下さって、私はそれがとても嬉しかったんです。
例えどんな後遺症があったとしても、御傍から離れません。
どうか、セリオール様の御傍に居させてください」
義理の母と娘の絆が深まった。
部屋を辞する時、王妃が『そうだわ、いつになったら母と呼んでくれるのかしら?』と、泣き笑いの表情で聞いてきた事も、きっとルナリスは一生忘れないだろう。




