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「えぇ、御婚約者でいらっしゃいます。
それはもう、セリオール殿下の掌中の珠と呼称しても、おかしくない程でございますが?」
返答に窮するルナリスに、マリルーはチラと視線を流した。
「実は…先程より考えていたのです」
「え?」
予想外の言葉に、ルナリスの方が目を丸くする。
「その…今この場に他人の目はございませんので、少々失礼します」
マリルーは、コホンと芝居がかった咳払いをした。
「あの倉庫でのルナリス様には驚きました」
『あの倉庫での…』と言われ、脳裏に駆け巡ったのは…自分でも真っ黒だったと自覚できる己の姿だ。
「………」
声が喉に張り付いて、呻きすら出てこない。
思い返せばやはり積年の恨みはあったのだろう。やりすぎかどうかは兎も角、傍から見れば、ドン引きな態度だった事は否めない。
苦言ならばまだしも、失望されたのだとしたら、どうすればいいのだろう…と、ルナリスは眉間の皺を深くして俯いた。
「驚きはしましたが、あれはあれで宜しいかと存じます。
というか、反対にスカッとしたかもしれません。
まぁ、セリオール殿下の婚約者としてのイメージもあるでしょうから、普段は抑えて頂けると、周りの方々の心臓には優しいかと思いますが」
雲行きが想像とは違う事に、ルナリスは思考も反応も追いつかない。
「ルナリス様は御存じでしょうが、あのソアラ嬢の態度も言動も、本当に許し難かったんですよ」
知っている。
ソアラは、身分差についてふんわりとでも理解していたので、格上に対しては一応弁えていたのだが、婚約者と言う肩書を免罪符に、セリオールには我儘気ままの言いたい放題だった。
その為あまりに気の毒で、成功例は少なかったがセリオールを逃すような真似をした覚えがある。
更に言うなら、セリオールの周辺から刺さるような視線を何度も感じた。いや、正直に話すなら『何度も』ではなく『毎回』…『常に』だが…。
そんな視線を感じる度、自分が悪い訳でもないのに、つい申し訳なく思ってしまっていた事も記憶に新しい。
「殿下は耐えていらっしゃいましたが、自分含め護衛騎士達は毎度毎度イライラしてたんですよね、うんうん。
ですので決めました」
マリルーはニッと笑った。
「ここ最近の騒動が一段落したらで構いませんので、是非とも私をルナリス様の専属に召し上げて頂けませんか?
あぁ、折角ですし、オバルも引き入れましょう。
あいつ、まだ騎士としての経験は浅いんですが、生家の子爵家が営む商会がなかなかに顔が広くて、色々と伝手もある様なんですよね…ルナリス様のお役に立つかと」
ルナリスの心配…というか、不安は杞憂だったようだ。
ホッと胸を撫で下ろすルナリスを余所に、マリルーは仰々しく片膝をついて騎士礼をとる。
「という事で……どうぞ、我が主、なんなりとお申し付けください」
下げた頭を中途半端に上げて、上目遣いにニヤリと笑うマリルーに、ルナリスは困ったように微笑んだ。
ルナリスはまだ返事もしていないのに、専属になる気満々である。
だが、これは思わぬ収穫だ。
セリオールからの囲い込みもあったが、元々公爵家に押し込められていた為、ルナリスには友人…いや、それどころか顔見知りでさえ殆どいない。
王宮に入ったのも最初はソアラの使用人としてだったので、貴族達との繋がりもまだ薄く、人脈についてはこれから…と言う所だったのだ。
その為ヨーゴンや帝国の調査も、ニッペルに頼むしかないか…と思っていた矢先の申し出で、渡りに船とはこの事だろう。




