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「…にしても、何処から手に入れたんじゃろうなぁ…朝顔はヨーゴンが出さんはずじゃ。
儂もアレの研究に立ち会えたのは、偶々ヨーゴンに居った時だったからで、そうでなければ実際に見る事も出来なんだだろう」
腕組みをして唸るニッペルに、ルナリスは合点がいった…と、半眼になる。
輸出を禁じられている朝顔の実物を、この老人が何故持っていたのか。
不思議に思った事はあったが……なるほど、居合わせた結果、少々失敬した…ってなところだろう。全く以って抜け目のない老人である。
当の老人は現在進行形で、絶賛脳フル稼働中だ。
「それに、微かに見え隠れするあの香り…帝国内でも北方で育つ樹木が使われているとみて間違いないじゃろう。
となれば…朝顔をどうやって手に入れたのかはわからんが、毒として作り上げたのは恐らく帝国じゃ…」
ルナリスが目を伏せたのを見て、ニッペルは頷く。
「やはり想定しておったか」
「はい。
帝国北部の常緑針葉樹…ですよね?」
「うむ。
しかもあの小瓶…あれは帝国にある工房で作られたモンじゃ。瓶底の工房印に見覚えがある。
いやはや…あの公爵が帝国の者と知り合う機会なんぞ、どうやって…想像もつかんが、いい様に使われたんじゃないかのぉ」
ニッペルの呟きに、ルナリスは考え込む。
このままニッペルを巻き込んだ方が良いのかどうか…何しろ、そこにミッケン王国まで絡んでの事態だ。
一度王妃に報告に行った方が良いかもしれない。
ルナリスは、思考の海に嬉々としてダイブしているニッペルから視線を外し、閉じられた扉を見つめる。
どうして毒を受けたのが自分じゃなかったのだろう…そうすればセリオールがこんなに苦しむ事はなかった。何度そう思っても、彼の苦しみを肩代わりする事は出来ない。
不甲斐なさに下唇を噛み締めると、溜息を一つ溢した。
ルナリスはセリオールをニッペル達専門家に託し、王妃に会うべく面会希望の先触れを出した。
返事を待っていると、マリルーがやってくる。どうやら、捕縛したミッケンの者との面会許可の方が先に届いたようだ。
捕縛したミッケン人は一人ずつ個別の牢に収容されているらしい。
一人ずつ話を聞こうとするが、全員猿轡を噛まされている。理由を聞くと、隙をついて自害しようとするのだそうだ。
これは難儀だな…と眉間に皺を寄せていた丁度その時、ミッケン王子ガモール確保の報が届いた。
「ルナリス様、どうなさいますか?」
「丁度良いですね。
取り調べを覗かせて貰いましょう。
あぁ、公爵夫妻とソアラの取り調べはどうなっていますか?」
「地下牢の方で、現在行われています」
『地下牢』と聞いて、一瞬目を見開いたが、考えればそれもそうか…と声を呑み込んだ。王族…しかも王太子を害したのだ。
公爵家と言えど、貴族牢なんて生ぬるい待遇をする必要がない。
我慢のない彼等の事だ…然程苦労せずに白旗を掲げるだろう。
「そうですか。
じゃぁ、そちらの調書を…証言が得られた物から順次…で構いません。
先に持ってきて下さい」
恐らくミッケン側は、ガモールを落とせばどうにかなるだろう。
だが、きっと彼を陥落させる方が難しい筈だ。ルナリスはそう考えている。
まだ予想でしかないが、恐らく彼は国の為に動いた…もしかすると動かされたのかもしれないが、何にせよ背後にミッケン王国があると考えておくべきだろう。
であれば、易々と口を割ってくれるとは思えない。
「けれど……私も引き下がるつもりはないの。
セリオール様を傷つけた罪は、しっかりと贖って貰うわ。
……そう…死んだほうがマシだと言う目に合わせてでも…ね」
直ぐ傍で聞いていたマリルーが、顔を引き攣らせていたなんて気付かないまま、ルナリスは剣呑に呟いた。




