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「ふぉっふぉ…先代の頃よりの返礼が、少しは出来たかのぉ」
思いがけない言葉にルナリスが顔を上げる。
目線が交差すると、疑問符を飛ばしている事に気付いたらしく、ニッペルは困ったように笑ってから昔話をしはじめた。
「いやぁ、何…儂は公爵家侍医のヤモット子爵の助手…と言う事になっておったがのぉ…実は亡命してきた帝国人なんじゃよ。
帝国で、ちょーーーーっとやりすぎてなぁ…ハッハッハハッハッハ……」
思わぬ告白に、ルナリスは固まったまま動けない。
「言うて、そんなにやらかしたつもりはないんじゃよ?
ちょこっと『まっど』で『えきさいてぃんぐ』な『さいえんす』を『えんじょい』しただけなんじゃ。
なのに皇帝の奴め…こう目を吊り上げてなぁ」
と、頬を指でポリポリと掻いている。
これは突っ込まない方が良い案件だ…と、判断したルナリスは、直ぐに口と耳を塞ぐ事に決めた。
「それになぁ、礼なら儂じゃのぉて、公爵家の…ほれ、なんじゃったかのぉ…もう年のせいか名前がすぐに出てこんのよ…。
あぁ、そうそう思い出した、ペギーじゃ」
ニッペルが言う名前に、ルナリスは思わず唇を噛む。
元々は先代夫人の輿入れと共にやってきたメイドで、ルナリスが幼い頃から気に掛けてくれてた使用人の一人だ。
食事を抜かれれば、真夜中にこっそりとパンを持ってきてくれたり、病に倒れた時は、仕事の合間に少しでも顔を見せてくれた事もある。
「ペギーが知らせに来てくれたんじゃよ。
なぁんか不穏なモノでも感じたんじゃろうなぁ…公爵がおかしな物を持ち込んできたと言うてな?
で、儂がこっそりと忍び込んで…」
ニッペルは『ぐふふ』と、少々気味の悪い笑い方をする。
「きっと、あれじゃろ?
王太子殿下が倒れた原因は。
ハッハッハ!
ざまぁみろってなもんじゃわい。儂が中身を捨てて、代わりに水を入れておいてやったんじゃ。
まったく…あの公爵はいつもいつも踏ん反り返って偉そうじゃろ?
落ちこぼれのくせに、大恩ある先代公爵には反抗ばかりじゃったし、儂を助手として引き受けてくれたヤモット卿の事も見下した態度で…あぁ、思い出しただけでムカッ腹が立ってきおったわい。
ま、そんなどれもこれもが気に入らんでなぁ、儂ゃぁちーっとばっかし、困らせてやろうと思ったんじゃよ。
それが巡り巡って、この事態になるとは思わなんだが…」
ルナリスはハッと息を呑んだ。
セリオールの症状に引っ掛かりを覚えたのを思い出す。
殺害目的の毒薬にしては、症状が緩やかなのが気になったのだ。
まさか、それが公爵家の使用人からの報告と、ニッペルの悪戯心のコラボレーションだったとは……想定外も甚だしい。
「……しかし…巡り巡って…なら、小瓶を洗浄しておかなんだ事が悔やまれる…。
どう詫びれば良いのじゃろうな…」
ニッペルはしゅんと肩を縮めた。
「そんな……先生が水に変えておいてくださったからこそ、命の危険が遠ざけられたのは間違いありません。
それに悪いのは公爵家の方々なのですから…」
「じゃが…儂はあれが毒だとわかっておったんじゃよ?
あれが使われれば、死人が出る事は想定出来ておったんじゃ。
いや、水に入れ替えたから死人までは出んかったかもしれんが、それでも負傷者が出る事はわかっておった……それなのに…」
ニッペルが握りしめた拳が、微かに震えている。
悔しさ…無念も不甲斐なさも、全部盛り込んだ思いが滲み出ていた。




