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「ニッペル先生!!」
急ぎ王宮へ戻ったルナリスは、監禁で弱った身体である筈なのに、それを感じさせない程の勢いでセリオールが治療を受けている部屋へ駆けつける。
最初は…解毒処置という非常事態の為てっきり医務室だろうと思ったのだが、聞けば私室で処置が行われているとの事。
しかし、冷静に考えれば一国の王太子の異変を察知され易い医務室は、使用し難いだろう。そんな事も考え付かなかったなんて…と、ルナリスは自身で思った以上に動揺しているようだ。話しがどこまでどう広がっているかわからない以上、今は淑女の仮面を手放してはならない…と、ルナリスは改めて気を引き締める。
平静を装い、静かにセリオールの私室に向かうと、扉の前でニッペル医師が誰かと話し込んでいた。
その姿を見た瞬間、色々な事が吹っ飛び、ルナリスは駆け出していたのだ。
声に顔を上げた老人は、相手が顔を見た瞬間、ポカッと大きく口を開ける。
そして破顔した。
「おぉ…おぉぉぉぉ!! ルナリスじゃぁないか!!
あぁあぁ…本当にあの頃が嘘のような美しさじゃのぉ!!」
年齢のせいで背が縮んだのか、それとも生来かは知らないが、ルナリスより小柄で少々ふくよかな老人は、久しぶりに見るルナリスの変貌ぶりに何度も頷いている。
「先生、そんな事はどうでも良いです。
彼…」
そこまで言葉にした所で、ニッペル以外にも人がいた事を思い出す。
見れば相手は医官だったようだが、場の空気を察すると、一礼して離れていった。
「お話し中だったようですのに…申し訳ありません…」
ですが…。
どうなりました…か…?」
話していた相手は居なくなったが、まだ廊下である事に変わりはない。
ルナリスが静かに訊ねると、ニッペルも頷くに留めて、先に部屋へと誘導した。
私室…と言っても寝室の方で、中央に大きく置かれたベッドの周りは、忙しく動き回る医官たちの姿があり、セリオールの姿は確認し難い。
話を聞くなら寝室でない方が良いだろうと、隣接する部屋へと場を移した。
「先生…それで…彼は…?」
居ても立っても居られないと、切り出したルナリスに、ニッペルは大きく頷く。
「それがな…」
言葉を切られて、ルナリスは嫌な予感にギュッと両目を瞑った。
「命に別状はないのぉ」
ケロリと言われた言葉は脳を素通りしたのか、一瞬理解が追い付かない。
「はい?
ぁの…じゃあ彼は…セリオール様は無事なんですね!?」
身を乗り出して聞き返すルナリスに、ニッペルはパッと笑う。
「おお、命は無事じゃとも!
ただなぁ…」
表情を曇らせるニッペルに、ルナリスは乗り出していた身を戻した。
「傷は残るじゃろう。
何分、毒が入り込んだ箇所じゃろうから、皮膚に爛た部分があってなぁ…まぁだからと言うて、命に別状がある訳じゃぁない。
そこは安心して構わんぞい。
後は意識が戻ってからしかわからんが、もしかすると視力に影響が出ているかもしれん。
今はそんな所じゃのぉ」
なんとか途中で遮る事なく聞き終えたルナリスは、へなへなと脱力する。
緊張が一気に緩んだのだろう。眦に浮かんだ粒が、頬に軌跡を残しながら滑り落ちた。
その粒は止まることなく、何度も浮かんで零れ落ちる。
「ぁ、…ぁりがとうご…ざい、ます…。
ありがとうございます!!」
そんなルナリスを見つめるニッペルの目は優しい。




