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ソアラが両頬を赤く腫れ上がらせて、ガクリと項垂れる。
ルナリス本人は冷静なつもりだが、ちょっぴり『これまで』が加味されていたかもしれない。
だが、ソアラが意識を完全に手放す前に手を止めた。
「何もかも…知っている事は全部話して貰うから、そのつもりでいてね?」
ぐったりとしたソアラの髪を、無造作に放して立ち上がる。
意識はあるようだが、もう力が入らないようだ。髪を放されたソアラの頭は、重力に従って床に落ち、ゴンと盛大な音を立てる。
力なく伸びた横顔は、頬が腫れあがっているだけに留まらず、鼻血が吹き出していた。
暴力の跡も生々しいその人物が、あのソアラだと気付ける者なんて居るとは思えない…見る影もないとはこの事だろう。
抵抗も出来ず床に突っ伏したソアラに興味をなくしたらしいルナリスは、真っ青になって石化しているマリルーを見てから、同じく固まっている騎士を見る。
当然ルナリスよりは年上だろうが、まだ年若い騎士に問いかけた。
「名を聞かせて貰っても良いですか?」
さっきまでの様子と一変し、マリルーや騎士が知っている穏やかで慎ましいルナリスに戻っている。その落差に、マリルーと騎士は更に怯えて混乱するが、そんな感情に一旦蓋をした。
「ハッ!
オバル・ヌダーと申します!」
「ありがとう。
ヌダー…子爵家の方ですね」
今まで何度も見た…控えめで優し気な笑みに、マリルーとオバルはホッと息を吐……こうとした…。
「では…そこのソアラを始めとした罪人達は、すぐ王宮へ連行するのですよね?
それが完了してから出構いませんので、お二人にお願いがあります」
にっこりと微笑んだ後スンと消し去られた表情に、マリルーとオバルは背筋が冷えるのを感じる。
「グナタン様には、私がミッケンからの侵入者と面会できるよう手配してください。
ヌダー様は最近王都に入った商会等…特にイヤノグ帝国からの来訪者がなかったか調べてください」
思いがけない指示に、マリルーとオバルは顔を見合わせた。
ルナリスはいつミッケンの関与を知ったのか…また、何故帝国がでてくるのかわからない。
そんな二人の疑問と困惑をさらりとスルーする。
「私は王宮へ急ぎます。
…セリオール様が心配です…ニッペル先生が間に合っていれば良いのですが…」
誰かに聞かせると言うよりは、つい漏れてしまった感じの呟きを残し、ルナリスは扉に向かって歩き出した。だが数歩も進まないうちに足を止めて振り返る。
「あぁ、罪人達の取り調べは手加減なしでお願いします。
多分…ですが、全容は知らないでしょう。しかし断片的な事から見えてくる何かがあるかもしれません。
お願いしますね」
言い残すと、ルナリスは身を翻して部屋を出て行った。
遠ざかる背中をつい呆然と眺めながら、オバルはポツリと呟く。
「…あの……マリルー先輩…俺…」
名を呼ばれて、マリルーが目を瞬かせた。
「ぁ……あ~…何…?」
どうにも現実感がなく、頭も身体も脱力した様に動きが鈍い。
「今見たアレって…現実ですかね…?」
「……ぅん、何と言うか…普段と違いすぎて脳が理解を拒んでる…かもしれない」
「ですよねぇ…。
って言うか、おかしくなるくらい怒ってたんですよ…きっと…多分……」
オバルの語尾が、自信なさげにどんどん小さくなった。
だがマリルーは自分に言い聞かせる様に頷く。
「それだ。
そう、きっとそうだったんだよ。
あんなルナリス様は初めて見たけど、きっとあれは殿下が心配過ぎての事だったんだ。
そうに違いない!
けれど……他言は無用…だな」
「ハィ…ソウデスネ」
「うむ。
ま、話したところで、誰も信じてくれないだろうけどな」
「ですよねぇ…っていうか、一周回ってカッコイイとか思っちゃった俺って、現実から逃げてますかね…?」
一瞬視線を泳がせて考え込んだマリルーだったが、問いには答えず、護衛の為にルナリスを追いかけて行った。




