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無表情に問いかけるルナリスに、ソアラは怯んだように唇を噛み締める。
しかし頭は踏みつけられたままで、痛みがソアラを苛んだ。
「だ、だから痛いって!!
足を退けなさいよ!!
ルナリスのくせに…不出来な妹のくせにッ!!!
このわたくしにそんな態度が許されると思ってるの!!??
無礼だわ!! ッア!!」
一際鋭い悲鳴が上がる。
「無駄口は控えなさいな。
で?
教えて貰えないと言う事は、出来る事はないと言う理解で良いのね?」
ソアラは痛みに顔を顰めたまま目線を逸らした。
ルナリスから目を逸らすような…そんな気弱な仕草をするソアラなんて、これまで一度も見た事はない。
いつだって傲慢で横柄で…幼い頃から身に付いた習慣で、無意識にそうするのがソアラの普通だった。その被害は多くの者が受けていたが、殆どはルナリスが請け負わされていた。だから、もっと…こう、感じるモノがあるかと思っていたのに、浮かんできたのは怒りや恨みより先に、名状し難い何か。
「私さえ消せたら、どうにかなると思っていたのでしょう?
えぇ、以前の私なら、きっと貴方達のその思いに流されていたでしょうね。
私さえ耐えれば…私さえ消えれば……きっと全部丸く収まるのだ…と」
まるで事務報告でもするかのように、静かに…そして淡々と言葉を紡ぐルナリスに、ソアラは怯えと痛みで身を震わせた。
「………不思議だわ。
これは憎悪というより…憐憫? いえ、それとも違うわね…」
何故か淡々と自己分析していたルナリスは、ソアラを踏み付けていた足を退かせる。
そして代わりのようにその場に膝をついた。
「でも…残念ね。
もうそんな気はないの…貴方達の思い通りになんて、なってやらない。
私に何かあったらセリオール様が悲しむの。それを信じられるくらい、あの方は私に心を向けてくださった」
いつだって思い通りになってきたルナリスの反抗に驚いたのか、ソアラは呆然と目を見開いて固まっている。
そんなソアラを拘束していた騎士を引かせると、ルナリスはソアラの髪を鷲掴んだ。
「ッ!!」
最近になって、やっと少し肉付きが良くなってきたが、未だ細いその腕のどこにそんな力があったのか…疑問が湧くほどの力でソアラの頭を引き上げる。
吐息が掛かるほど間近になった表情に、ソアラは息を呑んだ。
ルナリスの瞳から光が消えて、底の見えない闇に引きずり込まれるような感覚に陥る。必死に身を引こうとするが、ルナリスの手はピクリとも動かない。
「は、放して…いや、放しなさいよッ!!
嫌だってば!!」
バシン!!
ソアラの視界に火花が散った。
鋭い炸裂音に、一瞬何が起こったのかわからない。しかし次の瞬間、頬の熱さに喉が詰まる。
今なお脳は理解を拒んでいるが、ソアラはルナリスからの平手打ちを喰らっていた。
「煩い。
本当に馬鹿ね…いい加減に理解しなさいな。
以前のルナリスではないのだと。
必要なら…セリオール様の為なら、非情になるのに何の躊躇いもないわよ?
信じられないと言うのなら試してみましょうか?」
そう言うや、ルナリスはソアラに往復ビンタをお見舞いする。
激高するでもなく、単なる作業のように姉の頬を叩き続けるルナリス…という異常な光景に、部屋に残ったマリルーと騎士は蒼白になっていた。




