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「フン…いい気味だわ」
ソアラがぼそりと呟く。
部屋を出ようとしていたルナリスとマリルーは勿論、慌ただしく動き回っていた騎士達も一瞬にして凍った。
その空気を読む事なく、ソアラが拘束されたままニタリと嗤う。
「だってわたくしを蔑ろにしたんですもの、当たり前よ。
夫になる人が、妻となるわたくしへの扱いがこんなに酷いなんて…とても…とっても悲しいわ。
少しくらい痛い目に遭って、反省してくれなきゃ困るじゃない」
朝顔の毒を『少しくらい』と言い放てる神経をまず疑った。
彼の毒に、解毒薬が存在しないと言うのは本当だ。だから少量でも命の危険がある。尤も…セリオールの症状に少々引っ掛かるモノがない訳ではないが、最悪死に至る毒である事に変わりはない。
もしかするとソアラは何の毒か知らないのかもしれない。しかしそれが何の言い訳になるのだ?
元々ルナリスを殺す目的で持ち込んだ毒だと言うのは、ソアラだってわかっていたからこそ、開口一番…
『アナタがさっさと死んでくれないから、わたくしに嫌な事が降りかかるのよ!!』
なんてセリフが出たのだろうから。
それなのに、セリオールを負傷させた挙句、こんな軽く扱うなんて許せる訳がなかった。
いや、それ以前の話で、どこをどうしたら未だにセリオールの妻になれると思い込めるのか……最早住む世界線が違うとしか言いようがない。
メゾット一家は、本当は別次元に生きていて、偶々世界線が錯綜した事で自分達にも存在が認識できるようになった…そう言われても納得してしまいそうになる。
ルナリスがゆっくりと振り返ってソアラに近付いた。
床に伏せられて拘束されているソアラは、屈辱に顔を歪める。
ずっと見下してきたルナリスに見下ろされているこの状況は、彼女にとって受け入れがたい現実だろう。
ルナリスは右手を一振りする。
騎士達はその仕草で、石化が解けたかのように一斉に動き出した。
護衛のマリルーと、ソアラを拘束している騎士以外は部屋を出ていく様子に、ソアラの顔色が悪くなる。
「な……なんなの…よ…」
見下ろすルナリスの顔は無表情だ。
冷え切った夜を思わせる藍色に瞳と、夜闇に浮かぶ月光を溶かし込んだかのような銀髪も相まって、室内の温度が一気に冷えたような錯覚に陥る。
自分が世界の中心と思っているソアラでさえ、ルナリスが初めて纏う不穏な空気に気付いた様だ。微かに喉が鳴る。
「……ソアラ様…ぃぇ、ソアラ…」
名を呼び捨てにされ、ソアラは頭に血を上らせた。
「な!
ルナリス…アナタ……わたくしを呼び捨てにするなんてどう言うつもりよ!!??
わたくしを呼び捨てにして良いのはお父!!…ッ」
途中で言葉が途切れる。
何故なら、ソアラの頭をルナリスが踏みつけたからだ。
「よくもまぁ…口だけは一人前で…一人前ね。
アナタの両親は既に連行されているから来ないわよ。
それで?
どうするの?
呼び捨てにしたからと言って、貴方に何が出来るの?
教えてよ」
床に押し付けるように頭を踏み付けられたソアラは当然だが、マリルーと、ソアラを拘束していて残る事になった騎士も、初めて見るルナリスの豹変ぶりに完全フリーズしている。
「いッ…痛い、痛いッ!!!」
擦り切れたドレスの裾で見えないが、踏みつける足に、さらに力を入れるかしたのだろう…ソアラが痛みを訴えた。
「で?
いつになったら教えてくれるのかしら?」




