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私さえ消えれば、全て丸く収まるのでしょう  作者: 紫


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 ルナリスの背後に居たのはセリオールだ。

 となれば…圧し掛かってきたのは何者か…なんて、自(おの)ずと知れようと言うもの。


「セリオール様!?」


 振り向きざま、倒れ込んでくる彼の身体を支える。

 顔を見れば、紅潮して汗が浮かんでいた。


 ルナリスは咄嗟に気絶している公爵へと視線を向けた。ざっと周辺を確認すると毒の小瓶は無残に割れて、床に小さな水溜りをつくっている。

 しかも小瓶の破片と一緒になって、大きな範囲ではなかったが飛散しているのが見てとれた。


(まさか…)


 毒が吸収されたとするなら、この状況では傷口が一番可能性が高い。

 何故なら臭気などは、ルナリスも公爵夫妻も嗅いでいる。けれど、気分が悪くはなるものの、倒れる程ではないからだ。

 急いで目元の傷口へ目を向ける。


(ッ!……ぁ、あぁ…なんて事…)


 微かに血の滲んだ傷口の一部が、ほんの少し赤くなって腫れているように見えた。

 ルナリスはセリオールを支えながら、ソアラを拘束しているキドニーへ叫んだ。


「ビッテン様、医師を呼んでください!!

 ニッペル先生を!!

 早く…早くお願いしますっ!!!」


 キドニーは直ぐに近くの騎士を呼び、ソアラの拘束を交代する。


「ルナリス様、申し訳ございません…ニッペル先生とおっしゃる方に心当たりがないのですが…」


 通じないのも仕方ない。

 ニッペルと言うのは、公爵家お抱え医師の助手なのだが、先代の頃に帝国からやってきた男性だ。現在は高齢の為ほぼ引退状態で、悠々自適の研究生活をしている。


 過去、書庫に閉じ込められたルナリスに、最新論文や毒草の実物を見せたりしていた変わり者でもある。

 尤も…そんな変わり者のおかげで、ルナリスは臭気から毒の成分の予想を立てられたのだ。


 毒に詳しい人物であり、公爵家のお抱え医師の助手だった事、現在の住まい諸々も話すとキドニーは頷いた。意識はあるものの、異常な状態であるセリオールを王宮へ運ぶ手筈も整えると、キドニーはその場を後にする。程なくして担架が運び込まれた。


 ルナリスの傍を離れたくないと、弱々しい抵抗をしていたセリオールを救護の者に託す。

 薬草や毒草の知識はあっても、ルナリスが解毒処置をする事は出来ない。いや、出来るかもしれないが、医師に任せるのが最適だろう。素人が下手に手を出してよい分野ではない。

 祈るようにセリオールの手を握っていたが、担架が抱え上げられるとスルリと解けた。


 手の中に残る体温を抱き込み、ギュッと目を瞑る。

 どうか助かりますように…と。


 そうしている間にも、気絶した公爵も運び出されて行った。

 夫人はわからないが、逃げられる筈もない。

 意識があり、抵抗する可能性の高いソアラの連行が最後になったのは、仕方ない事だった。


 セリオールの搬送や公爵夫妻の連行で、慌ただしい空気の中、ルナリスの警護の為にマリルーがやっくる。


「ルナリス様、お迎えが遅くなり申し訳ございません。

 馬車の準備が完了しました」


 マリルーの声と、エスコートする為に伸ばされた手に、祈りを続けていたルナリスが顔を上げる。

 この場に居ても邪魔になるだけだ…と、ルナリスが頷いた。その刹那、耳障りな声が精神を逆撫でする。






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