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私さえ消えれば、全て丸く収まるのでしょう  作者: 紫


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 板張りの壁面は朽ちた部分があり、すこここに隙間が生じている。

 そのせいで照明がなくとも、そこまで暗くなる事はない。

 しかし、どうしたって外の方が明るく、音の方へ顔を向ければ、逆光になって音の発生源が直ぐにはわからなかった。


 咄嗟にソアラと夫人は身を寄せ合うが、ソアラの方が何かに気付いたように歯ッと目を瞠る。


「!」


 逆光であっても、肩当などの特徴的なシルエットを見れば、直ぐに騎士だと気付いた。しかもその騎士は、ガモールでもミッケンの騎士でもない。自国の…王家直属の近衛騎士の鎧だ…と。

 王宮滞在の間に、少しは知識として蓄えられていたようだ。


 この状況で、王宮近衛騎士…となれば、ルナリス救出に来た一団だと言う事くらい、おバカなソアラでもわかる。

 ソアラは夫人を突き飛ばし、急いで周囲を見回す。

 先だって見たのと変わらない…同じ扉が並ぶばかりの廊下で、しかも初めてこの場所に訪れたソアラには、ルナリスが捕まっている部屋がわからない。


 何としても逃げるのだ…と、一瞬唇を噛んで近くの扉を開けて飛び込んだ。


「ぁ…」


 運がいいのか悪いのか……ソアラが咄嗟に入った部屋は当たりだった。

 今なお毒の小瓶を前に唸る公爵と、物音に振り返ったルナリスの姿を見た途端、ソアラの頭に血が上った。


「っ……なんで…」


 もうドレスの裾が汚れるのも厭わないようで、片頬を引き攣らせたソアラはギリリと歯噛みする。

 騎士が突入しようとしていた事も、頭から抜け落ちているようだ。


「ソ、ソアラ…?」


 公爵も愛娘の登場は想定外だったらしく、これ以上ない程両目見開いて固まっている。父親のそんな様子も目に入っていないらしいソアラは、ずんずんとルナリスに真っすぐ突き進んだ。


「アナタがさっさと死んでくれないから、わたくしに嫌な事が降りかかるのよ!!」


 叫んだ途端、ソアラは手に持ったままだった短剣を握り直してルナリスを睨み付ける。


「アナタはわたくしの引き立て役でしょう?

 わたくしの為に存在してるんでしょう?

 だって、お父様もお母様もそう言ってるんだもの!! だったらわたくしが望んでるんだから、早く死んでよ!!」


 支離滅裂な言動は何時もの事だが、ここまで語気を荒げる様子は初めてで、ルナリスも頭が真っ白になる。

 そんなルナリスと、鬼の形相になったソアラに挟まれる形となった公爵は、何故躊躇していたのかも吹っ飛んだようで、『ひぃ!』と声にならない悲鳴を上げながら、小瓶を投げ捨てた。


 ルナリスは、それらが時間が引き延ばされたように見えていた。

 ソアラが短剣を振り被り、目を血走らせて襲い掛かってくる様も、公爵が距離をとろうと身を捩る間に、小瓶が放物線を描いて重力に引かれていく様子も…。


 けれど身体は動かない。


 以前のように諦めた訳じゃない。

 死にたいとも思っていない。

 セリオールに会いたいと言う願いがある。それを果たすまで死ねないとも思うのに、何故かピクリとも動かせないのだ。




「ルナリス!!!」


 裂くような叫び声に、意志から離れていた身体が自分のモノとして戻ってくる。

 頭を庇うように両手を振り上げるのと、視界が何かに覆われて真っ暗になるのとは、ほぼ同時だった。


 意識しないまま、ギュッと両目を瞑る。


 ガンガン!!

 ガンッ!!

 カラカラ……

 カシャンッ!!!!


 色々な音が一瞬に重なった。



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